『マーズ引き寄せ計画(2)』

ゴッドフェニックスはインド洋に向かった。
途中から潜行する。
レーダー担当のジョーは、眼を皿のようにして、敵の気配を探った。
「全くふざけた真似をしやがって、ベルク・カッツェめ、許せねぇっ!」
「ジョーの兄貴の言う通りだよ。火星を地球にぶつけるだなんて!」
甚平がジョーに同調した。
「だが、おかしい点もあるな…」
健が腕を組んだ。
「地球征服が目的のギャラクターだからな。何か裏はあるさ」
ジョーがそれに答えた。
「それに、だ。あれ1つで理論上火星を引き寄せられると思うか?健」
「いや、他にいくつか基地があっても不思議ではない」
「と、すれば、インド洋を中心に他の海底にも基地がある可能性がある、って事じゃねぇのか?」
ジョーと健が話していると、スクリーンに南部博士が登場した。
『その通りだ。計算した結果、3箇所からビーム砲を発射しなければ、6時間で地球に激突させられない事が解った』
「では、俺達も分かれて探すしか…」
健は人員の配置をどうするか考え始めていた。
海の中はG−4号機とG−5号機でないと動けない。
『健が言ったように、人命も守らなければならないが、此処は国連軍の力を信じよう』
「大丈夫ですかね?博士…」
国連軍の力など信用していないジョーがスクリーンを振り仰いだ。
『彼らも軍人だ』
南部は短く答えた。
『君達は予定通りインド洋近辺を探ってくれたまえ。
 恐らくはメインの基地はそこにある』
「ラジャー!」
南部がスクリーンから消えた。
「国連軍の連中も、厳しい任務じゃのう…」
竜が呟いた。
「俺達に比べちゃ、大したもんじゃねぇだろうぜ。
 とにかくこっちは早くメイン基地を探して破壊し、他の基地も見つけるしかねぇ。
 健、上手く行けばメイン基地を爆破する事で他の基地も連動して爆発するかもしれねぇぜ」
「そう上手く行くかな?」
健は慎重だったが、ジョーの言う事にも一理ある、と内心思っていた。
ギャラクターの基地にはそんな一面がある。
ジョーはスクリーンから既にレーダーへと視線を戻していた。
暫くは静かな海中だった。
「健!右45度にレーダー反応あり」
「竜、エンジンを止めろ。ジュン、ソナーで監視してくれ」
「ラジャー」
ゴッドフェニックスは海底に静かに停止し、ジュンがソナーで様子を監視した。
「右45度、距離50km。巨大な物体があるわ。
 浮遊してない。海底に接地しているようね」
「竜、慣性走行で少しずつ進むんだ。
 ジュンは監視を続けてくれ」
健は的確な指示を出し、南部博士に報告した。
『スクリーンに拡大して目視出来るようになったら、その映像をこちらに送ってくれ』
「ラジャー」
「前方10km地点通過。竜スクリーンに映してみて」
ジュンが呼び掛けた。
「よっしゃ」
スクリーンには拡大画像が映し出された。
ドーム状の建物があった。
真ん中から割れるようになっているように見える。
あれが開いてビーム砲を発射するのか?
南部に見せると同じ意見だった。
「どこから潜入出来るかな?」
健はじっと敵の基地を見詰めた。
「潜入出来ねぇのであれば、ゴッドフェニックスで突っ込むしかあるめぇ。
 バードミサイルをぶち込むってのもいいな」
ジョーは舌なめずりをしそうな顔をして言った。
「バードミサイルは水圧で制御が利かないだろう。
 やはり潜入するしかあるまい」
ジョーは健の言葉に小さく「チッ」と吐き棄てたが、確かに彼の言う通りバードミサイルを正確に当てられるとは思えない。
「竜、ゴッドフェニックスをトップドームの所まで突っ込ませろ。
 ゴッドフェニックスを栓代わりにして、浸水を防ぐ。
 その間に全員で乗り込んで、ビーム砲を破壊する」
「おらも留守番しなくていいんじゃな?」
竜が嬉しそうににんまりと笑った。

トップドームから跳躍して敵基地内に降り立った5人は、それぞれが分かれて行動した。
ジュンと甚平は同行したので、四方に散った事になる。
「ブレスレットでの連絡は密にする事。
 間違いなく、この造りからしてビーム砲は中央の位置に設置されているだろう」
健の指示の後、すぐさま5人は散り、別々の方角から中央部分に迫って行く事になった。
だが、当然の事ながら敵兵がわらわらと現われて邪魔をする。
ジョーは行く手を遮ろうとする敵兵に身を低くして足払いをし、そのまま倒立して、1人の兵士を両足で挟んで敵兵の群れに投げつけた。
次の瞬間にはエアガンの三日月型のキットが飛んでいる。
全く無駄のない動きで敵兵を牽制していた。
どこからともなく繰り出す羽根手裏剣も、正確に敵の喉笛を貫いていた。
ジョーが通る道は自然と彼が切り拓いて出来て行く。
仲間達も同様に進んでいる事だろう。
ジョーは仲間を信頼していた。
それぞれが技量を持ち、大人をも凌駕するだけの身体能力を有している。
余り前線に出ない竜も、その力自慢は大したものだ。
彼は武器を用いる事なく、その力技だけで肉弾戦を切り拓いて行くのだ。
武器を駆使するジョーとは闘い方が違った。
勿論、ジョーも全身を武器としているが、力任せに押して行く竜の戦法とは違って、その動きの素早さと確かな蹴りやパンチで敵を圧して行く。
ジョーは回し蹴り5連発と言う華麗な技を披露して、敵兵を一気に片付けて行った。
そのまま壁に足を付け、跳躍して敵兵の頭の上を飛んで行く。
勿論、その間に羽根手裏剣が何本も舞って敵兵を薙ぎ倒していた。
新手の敵を見切る能力に優れている彼は、物陰からマシンガンで自分に照準を合わせている敵のチーフらしき男も決して見逃しはしなかった。
隊員服の色が少し違っていた。
ジョーはマシンガンを撃って来るチーフに真正面から向かって行った。
敵が一瞬怯んだ。
「マシンガンなんて怖かねぇんだよ!
 そこで暫くおねんねしてな」
彼の長い足の一撃で脳天に衝撃を受けたチーフは、そのまま床に崩れ落ちた。
しかし、これで終わりではない。
進めば進む程、敵兵の数は増えた。
まさに中枢部分に進んでいるのだとジョーは実感した。
『ジョー、そっちはどうだ?』
「残念だがまだお掃除中だ」
『こっちもだ。だが、どうも竜が捕らえられたかもしれん』
「何だって!?」
『連絡が取れない…』
健の声の背後からも闘っているらしい音声が臨場感を伴って拾われていた。
『とにかく、任務は続行だ!それから竜を救出しよう』
「解った!恐らく中枢部に近づいていると思う。
 ギャラクターの隊員が増えて来たぜ!」
そう言って通信を切った。
ジョーは「竜の奴、全くしょうがねぇなぁ…」と呟きながら、敵兵に強烈な手刀を打ち込んだ。
竜を心配しながらも、羽根手裏剣を的確に繰り出して、更に前へと進んだ。
大分奥へと来たつもりだが、かなり広い基地だった。
ジョーはあるドアを見つけて、中の気配を嗅ぎ取った。
「健!見つけたぜ」
『ああ、こっちもだ。ジュンと甚平ももうすぐ辿り着きそうだ。
 同時に飛び込もう。合図を待ってくれ』
「ラジャー」
ジョーは健からの合図を待つ為に、天井へと張り付き、息を潜めた。
彼の下を敵兵がマシンガンを担いで歩いている。
なかなか冷や汗ものだ。
これから突入する時だ。
無駄な戦闘に時間を割きたくなかったし、此処で気付かれて突入が遅れるような事になるのも面倒だった。
ジョーは無事に時間が過ぎる事を願った。




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