『マーズ引き寄せ計画(3)』

健からの突入のタイミングの連絡がブレスレットから入った。
『行くぜ、ジョー』
「おうっ!」
ジョーは扉に体当たりして、扉ごと中に転がり込んだ。
扉を突き破る激しい音がした。
広い部屋だったが、その中にはビーム砲は見当たらなかった。
「健、こいつは囮だったのかもしれねぇな。
 近くに別の基地があるに違いねぇっ!」
『残念だが、謀られたな。とにかく竜を探そう。全員散れっ!』
「ラジャー!」
ジョーは跳躍して手近の敵から薙ぎ倒し始めた。
竜は一体どうなっているのか?
この基地は隊長が仕切っているようで、ベルク・カッツェはいなかった。
同時に別々の入口から飛び込んだ健、ジュン、甚平もそれぞれに活劇を繰り広げている。
大回転をしながら、ジョーは敵兵に的確な蹴りやパンチを入れ、確実に倒して行った。
彼の重い膝蹴りを喰らえばたまったものではない。
その細い身体からどうしてそんな力が出るのかと思う程、パワフルで敏捷な動きだった。
毎日鍛え上げられた筋肉が物を言っている事には間違いない。
エアガンと羽根手裏剣を駆使しつつも、自らの身体を最大の武器にして彼は闘った。
その働きはまさにコンドルその物。
猛禽類の素早さと鋭さを兼ね備えていた。
華麗な技がビシバシと決まって行く。
彼が通り抜けた後には、敵兵が固まって倒れて行くのだった。
ジョーが入った出入口の近くに、たまたま蝉のようなマントを付けた姿の隊長がいた。
彼は敵兵をある程度なぎ払っておいて、その隊長に向かっていきなり素早い膝蹴りを繰り出した。
溜まらず倒れ込んだ隊長の腹の上に膝を残したままで乗り、
「俺達の仲間をどこにやった?!」
と襟首を締め上げる。
「言うものか…」
ジョーは隊長の身体を無理矢理起こしたかと思うと、その首を後ろから羽交い絞めにした。
勿論、話が出来る程度に加減をしている。
敵兵が隊長を取り返す為に彼を取り囲むと、そちらに隊長の身体を向け、盾にした。
その間に羽根手裏剣を繰り出して敵兵を纏めて斃して行った。
「どうだ?言わねぇと、もっと締めるぜ。気絶どころじゃすまねぇぞ。
 俺には首の骨ぐらい簡単に折れるんだぜ」
「…べっ…別の基地へと連れて行かれた」
「どこだ?!」
「此処から南西に50kmの地点にある此処よりも規模の小さい基地だ……」
「ビーム砲もそこにあるのか?」
「そ…そうだ……」
「他のビーム砲基地はどこにある?」
「俺には…知らされて…いない…。本当だ……」
ジョーは隊長の首を捻って気絶させた。
「健、聞いていたか?」
『ああ、どうやらこの基地はダミーだ。
 その割には随分大掛りな物を作ったものだな。
 とにかく爆弾を仕掛けて脱出しよう!
 竜を救出しなければならん!』
3人は中枢部を、ジョーは機関室を探し、敵基地にそれぞれが爆弾を仕掛けた。
ゴッドフェニックスのトップドームに跳躍すると、先に戻ったジョーが止むを得ず操縦席に座り、基地から脱出した。
ゴッドフェニックスの機首が抜けた途端に基地内には、海水が大量に流れ込んだ。
それと同時に大規模な爆発が起きた。

「ジュン、南西50kmの地点をレーダーで探ってくれ」
ジョーは操縦席から自分の代わりにレーダー席に座っているジュンに言った。
彼の操縦技術も随分慣れて来ていた。
空や海は専門ではないのだが、何度となくゴッドフェニックスを操縦している内に少しずつ上達したようだ。
だが海中で操縦するのは初めてなので、勝手が違った。
「こう言う時には竜の必要性をより強く感じるぜ」
ジョーは呟いた。
「竜はゴッドフェニックスに残しておくのだった…。
 俺の失策だ……」
健が呟いた。
「健、自分を責めるなよ。断じておめぇのせいじゃねぇ」
ジョーは操縦に神経を集中させながら、健を慰めるかのように言った。
「南西50km地点に反応あり。今の基地よりは小さいわ」
「よし、ジョー、其処に向かって全速力だ!」
「ラジャー」
健は南部博士に事の次第を報告した。
『竜はやはり実戦には慣れておらんからな。
 だが、健。君が気に病む事ではない。
 竜には私から後で注意喚起しておこう。
 とにかく指定の時間まで2時間を切った。時間がない』
「解りました。急いでレーザー砲を破壊し、竜を取り返します」
『頼むぞ、諸君。国連軍が鋭意他の2つの基地についても探索している。
 解り次第連絡する』
「ラジャー」

「敵基地まで10km!」
ジュンが声を張り上げた。
「メインスクリーンに映し出してみるぜ」
ジョーがボタンを何度か押すと、少しずつ画面が拡大して行った。
先程の基地よりは小規模だが、やはりドーム型の基地が見えた。
「これだな、健…」
「ああ、すっかり引っ掛かったな…。
 竜がどこに監禁されているか解らん。
 みんな慎重に行動するんだ。
 ジョー、先程と同様にゴッドフェニックスの機首を突っ込ませろ」
「解った!」
ジョーは頷いてレバーを引いた。
ゴッドフェニックスの機首は敵基地の中へとめり込んだ。
全員がトップドームへと上がる。
そこから、先程の基地に突入した時のように跳躍して綺麗な形で着地した。
「今度こそ本物か?警戒がやけにきついぜ、健…」
「ああ…。またさっきのフォーメーションで行く。
 先程よりは規模が小さいが、形は同じだし、結構広いぞ」
先程とはゴッドフェニックスが突っ込んだ位置が違う。
だが、構造は似たようなものだろうと思われた。
「それぞれ、中枢部へ向かって進め。
 途中で竜を見つけた場合には、必ず連絡しろ」
健の指示で4人は動き始めた。
3方に分かれた彼らはそれぞれがまた戦闘を開始した。
ジョーは多分中枢部に竜が捕らえられている、と睨んでいた。
彼の勘は棄てたものではない。
だから、まずはそこへ急ぐ事が先決だと考えた。
とにかく敵兵を一刻も早く薙ぎ払い、中枢部に行き、すぐに竜を救出する事だ。
レーザー砲の破壊も当然の目的だが、ジョーは一刻も早く竜を救出したかった。
自分で自分の事を甘い、と思う。
だが、仲間を喪う事は避けたかった。
クールなようでいて、仲間思いな点では彼が科学忍者隊随一だったのだ。
誰もが平素より死を覚悟している科学忍者隊だったが、自分の死に対する覚悟と、仲間の死に対する覚悟ではやはり微妙に違っていた。
それは許されない筈であったが、ジョーは自分の意識がそこまで制御出来ていない事を自覚していた。
『仲間の死は見たくない』
自分自身がそれを最期に皆に見せる事になってしまうのだが、この時もその後も彼はずっとそう思っていた。




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