『マーズ引き寄せ計画(4)』

(竜、無事でいろよ。今助けに行く!)
その一心で、ジョーは走り始めた。
竜はジョーの事を冷たい人間だと思っている節があるが、ジョーのこの決意を聞いたら、泣き崩れるかもしれない。
別にジョーは誤解を解こうとか、謝って貰おうとか、そう言った事は全く考えていなかった。
『仲間の死を見たくない』
純粋にそれだけだった。
彼の行く手に早速敵兵が現われた。
大人数だ。
「おでましだな。さっきの基地の2割増しか…」
基地は先程よりも小規模だが、敵兵の数は案の定多かった。
あちらにもそこそこの人数を配置してあったのは、時間稼ぎだったに違いない。
科学忍者隊と南部博士がエベレストに呼び出されている期限まで後1時間半。
この間に何としても、3つのレーザー砲を破壊しなければならなかった。
事は迅速さを必要としている。
ジョーは羽根手裏剣を唇に咥え、エアガンを手にしたまま、左手を床にトンと着き、そのまま身体を捻って両足で蹴り、敵兵を完膚なきまでに崩した。
彼の足技は大したものだ。
脚力は科学忍者隊随一で、足も速い。
このカモシカのような足が彼の原動力だ。
「うぉりゃ〜!」
気合を込めて、膝蹴りを決める。
次の瞬間には羽根手裏剣が3本飛び、それぞれが敵兵のマシンガンを持つ手を貫いた。
マシンガンは取り落とされ、敵の戦力が少しだが削がれた。
ジョーの八面六臂の活躍はそれだけでは済まされない。
エアガンで敵を撃ち抜いて行き、バタバタと敵が倒れて行く。
三日月型のキットも効率良く活用して、敵の意表を突いては倒して行く。
彼の闘い振りは、武器も肉体も全てを余すところなく利用した無駄のない攻撃が特徴だった。
回転しながら回し蹴りを連発する。
それでも眼が回る事はない。
三半規管が並外れて優れているのは、やはりレーサーをやれるだけの素質があるからなのだろう。
彼の重いキックを喰らった敵兵は、すぐさまその場に崩れ落ちて行く。
華麗な演舞でも見ているかのようだった。
香港のカンフーアクション映画の早回しのように、彼は美しく素早い動きで敵兵を薙ぎ倒した。
羽根手裏剣の決め具合は圧倒的だ。
ピシュッと音がした瞬間には、相手が既に倒れている。
秒速で飛んで行くのだから、彼の腕前は相当なものである。
勿論、今更指摘するような事ではないが、エアガンの使い方とのコンビネーション、合間の肉体を使った技の数々、それらの調和が非常に優れているのだ。
気持ちがいい程、技が綺麗に決まって行き、彼はズンズンと前に進んだ。
早くレーザー砲まで辿り着かなければならない。
竜の生命も助けなければ……。
一刻を争う時だった。
後1時間15分で、自分達と南部博士が呼び出しに応じなければ、レーザー砲が発射され、火星が地球に向けて引き寄せられてしまうのだ。
何としてもそれだけは喰い止めなければならない。
ジョーだけではなく、全員が必死で闘いながら血路を開き、走っていた。

竜を探しながら進入して行った他の3人とは違い、ジョーは最初から中枢部に竜がいると睨んでいた為、到着が早かった。
「健、先に突入するぜ。大きな機械音がする。
 多分、此処にレーザー砲がある!」
『ジョー、時間がない。俺達もすぐに駆け付けるから持ち堪えていてくれ』
「解ってるよ」
ジョーは健との通信を切ると、中枢部、つまり司令室の重い扉に体当たりした。
体当たりぐらいではさすがに開かなかった。
エアガンにバーナーを取り付けて、丸く焼き始めた。
後方から敵兵が襲って来たが、その度に作業を停止して、倒さなければならなかった。
効率が悪いが仕方がなかった。
漸く扉に大きな穴を空ける事が出来た。
ジョーはブーツの踵から磁石を取り出して、その丸い鉄の塊をそっと、扉の脇に置いた。
一息深呼吸してから、意を決したように彼はその穴へと飛び込んだ。
レーザー砲は部屋の中央に、天井のドームに向けて縦に高く聳え立っていた。
そのレーザー砲の砲身に竜が縛り付けられているのが見えた。
『来たな、科学忍者隊。
 こちらの要求を呑む気はないようだな』
大型スクリーンの中からベルク・カッツェが言った。
「俺達は生命が惜しいんじゃねぇ。
 いつだって棄てる覚悟が出来ている。
 てめぇとは違うぜ!」
ジョーは叫びながら、マシンガンの集中砲火で襲って来たギャラクターの隊員達を薙ぎ倒し始めた。
最早雑魚兵はジョーの敵ではなかった。
ジョーは闘いながら、羽根手裏剣で竜をレーザー砲にぐるぐる巻きに拘束していた鎖を次々と破って行った。
カカカカカン…っ!と小気味良い音がした。
竜は気を失っていて、そのまま床に崩れ落ちた。
「竜!馬鹿野郎!しっかりしやがれ!
 おめぇまで守っている暇がねぇっ!」
ジョーが大声で声を掛けると、竜は我に返った。
「ジョー。おらを助けに来てくれたんか…」
竜の眼が一瞬潤んだ。
「早く闘いに加われ!健達もすぐに来る!
 まだ此処と合わせて3箇所を、1時間で破壊しなければならねぇんだぞっ!」
「解った!任せとけ!」
竜は太った身体を機敏に起こすと、闘いに加わった。
まさに百人力だった。
もうすぐ健達も到着する筈だ。
「健!竜は救出した!早く来てくれ」
『解った。良くやってくれた。
 俺達ももう少しで到着する。待っていろ!』
健から即答があった。
「ああ、待ってるぜ。時間がねぇっ!」
ジョーは敵兵に羽根手裏剣を放ちながら答えた。

健達は本当にすぐに現われた。
レーザー砲の爆破は健の指示でジュンと甚平に委ねられた。
ジョー1人だった戦力が3倍になって、大分科学忍者隊が優勢になった。
3人は、爆破を急ぐジュン達を護衛するように、2人を狙う敵兵を倒して行った。
「バードラン!」
健のブーメランは華麗な技だ。
彼の思い通りに飛び、必ず彼の手元に戻って来る。
その細かい芸当はさすがである。
まさに大鷲のようなブーメランだ。
適材適所と言う言葉があるが、彼らにはそれぞれの武器が本当に手に合っていて、見た目も馴染んでいるから不思議である。
南部博士は余程に熟慮を重ねて彼らに武器を持たせたのだろう。
竜だけは持たされたエアガンを殆ど使わず、自分の怪力を武器にしていたが。
おかしな事にジョーのエアガンのフォルムと違って、竜のエアガンは丸い印象があるのが、それぞれの身体にマッチしている。
そこまで南部博士が考えていたのだとしたら、お見事としか言いようがない。
恐らくは射撃の名手であるジョーの為に多機能に開発して完成したのが、ジョーの銃身の長いエアガンなのだろう。
そのエアガンを駆使して、ジョーは全身で闘っていた。
三日月型のキットが敵兵を纏めて突き飛ばす。
敵の鳩尾に重いパンチを入れ、その反対側にいる敵を長い足で強い蹴り出しの力を使ったキックで倒している。
次の瞬間には羽根手裏剣が舞っている、と言った具合だ。
『爆破準備完了よ!5分で爆発するわ!』
「よし、ゴッドフェニックスに戻ろう」
「健。だが、このままじゃ他に2箇所の基地が解らねぇぜ。
 もう探す時間は殆どねぇ」
『諸君。国連軍が1箇所の基地を発見した。
 恐らくは、君達がいる地点とその地点とを結ぶ正三角形の位置にもう1つの基地がある筈だ。
 今、確認させている』
タイミング良く、南部からの通信が入った。
「解りました。メイン基地のビーム砲は爆破準備が完了しました。
 竜も無事です。全員で脱出します!」
健が博士に答えた。
後は敵兵の残兵を片付けながら、先程ゴッドフェニックスで突入した地点に戻るだけだった。
「基地は後2つ。
 竜はゴッドフェニックスで待機。
 片方には俺と甚平、もう片方にはジョーとジュン。
 その組み合わせで残りのレーザー砲を爆破する」
ゴッドフェニックスに向けて走りながら、健が指示を出した。
「甚平は俺をG−4号機に乗せてくれ」
「なる程、それでこう言う珍しい組み合わせなんだね、兄貴」
甚平が得心が行ったように言った。
普通なら健とジュン、ジョーと甚平となるのが妥当な線だからである。
「竜はジョーとジュンを基地に乗り込ませる手助けをしてくれ」
「ラジャー」
話が終わった処で、ゴッドフェニックスの機首が見えて来た。




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