『マーズ引き寄せ計画(5)』

「南部博士、全員脱出完了しました。
 国連軍は3つ目の基地を見つけましたか?」
ゴッドフェニックスで基地から脱出すると、すぐに敵の秘密基地は大爆発を起こし、姿を消した。
健が三日月基地へと通信する。
『うむ。私の計算通り、各基地は正三角形を成して造られていた。
 これを見てくれたまえ』
南部博士の左側のスクリーンに地図が表示され、2箇所が点滅していた。
たった今爆破して来た場所には、×印が付いている。
『A地点の方が規模が大きいので、ゴッドフェニックスで行って貰った方がいいだろう。
 B地点は、甚平、頼んだぞ』
博士が優しい眼をして甚平に向かって微笑んだ。
「ラジャー!」
「博士、では早速行動を開始します」
『諸君、時間がない。頼むぞ』
南部博士の姿が消えた。
健は即座に甚平と共にG−4号機が格納してある場所に移動し、ゴッドフェニックスから分離して行った。
「ようし、竜、急いでくれっ!」
ジョーが竜に発破を掛けた。
竜は先程の負い目を何とか少しでも振り払おうと張り切って操縦桿を引いた。
やがて、目的の基地が見えて来た。
これもドーム型だったので、非常に解りやすい。
ゴッドフェニックスはまた機首をめり込ませた。
強い衝撃があって、立っていたジョーとジュンは同じ方向に弾き飛ばされた。
「中の造りまで同じかどうかは解らねぇが、中心部にビーム砲がある事は間違いねぇだろうぜ」
「そうね……」
「竜、健達に何かあったら俺達に構わず、助けに行け」
ジョーには何か嫌な予感がしていたのだろう。
「じゃが、ゴッドフェニックスが機首を抜いたら海水が流れ込んで、ジョーもジュンもお陀仏じゃねぇか?」
「いざとなったらリーダーを守ってくれ。健は科学忍者隊に必要な人間だ」
「そうよ、竜。私達は自分で何とかするわ。心配しないで頂戴」
「じゃが……」
竜が言葉を探している間に、ジョーとジュンはトップドームに出た。
「ジュン、爆弾の仕掛けは任せたぜ。
 ギャラクターの隊員は俺が引き受ける」
「解ったわ。ジョー、気をつけてね」
「ああ。小型酸素ボンベは持っているな。
 いざと言う時の為に用心しておけ」
「大丈夫よ。さあ、行きましょう!」
2人はトップドームから跳躍した。
途端に敵兵からのマシンガンの洗礼を受けた。
ジュンはヨーヨーを器用に使い、敵兵に打撃を与えたり、足や首に巻きつけて引っ張る事で、一気に数人を倒す技を使った。
ジョーはエアガンのワイヤーで敵兵の武器を巻き取り、戦力を無くしておいて、確実なパンチやキックを入れて気絶させた。
暫くは起きられまい。
彼はジュンを守るように、羽根手裏剣とエアガンを駆使して、とにかく道を空ける役割を果たした。
「ジュン、行くぜ!」
「ええ」
2人はそれぞれの武器を手に、先へと進んで行った。
今までと違い、2人は分かれずに共に進んだので、中枢部に到着するのが早かった。
やはり先程の基地同様、扉が頑丈だった。
「ようし、俺に任せておけ。ちょっと頑張っていてくれよ、ジュン」
「大丈夫よ」
ジョーがバーナーで扉に丸い穴を空けている間には、ジュンの気合が響いていた。
女の子だが、なかなかやる。
安心して戦闘を任せる事が出来た。
時にはジョーも羽根手裏剣を飛ばして援護しながら、バーナーでの作業は続いた。
バーナーの熱さでジョーは汗だくになっている。
「ジュン、空いたぜ!行くぞ!」
ジョーは今度はあの鉄の丸い板を蹴り破って勢い良く飛び込んだ。
ジュンもそれに続いてヒラリと中へと入った。
「メイン基地を破壊したから、役には立たねぇと思うが、破壊しておくに越した事はねぇからな。
 ジュン、頑張れよ」
ジョーは聳え立つレーザー砲を見上げてそれだけジュンに言い置くと、早速跳躍して敵兵の渦の中に飛び込んで行った。
その時、竜から通信が入った。
『ジョー。甚平が怪我をしたらしい。健が苦戦しとる』
「甚平の怪我は重いのか?」
『まだ解らん!』
「解った。こっちには構わずおめぇはすぐに救出に行け!」
『だが、ジョー……』
「さっきも言っただろうが!?
 それに俺もジュンも小型酸素ボンベを持っている。
 気遣い無用だ!さっさと行けっ!」
『解った!』
ジョーは闘いを続けながら、ジュンに振り向いた。
「聞いたか?ジュン」
「ええ。とにかく作業を急ぐわ」
「頼んだぜ!」
ジョーはその一瞬の隙を突いて、敵の隊長が2人にバズーカ砲を向けている事に気付いた。
が、少しばかり気付くのが遅かった。
「ジュン、伏せろっ!」
ジョーはそう言いながら、ジュンの身体をマントで守った。
バズーカ砲が彼らに向けて火を吹いた。
「うぐっ…」
ジュンの上で、ジョーの肢体が伸びた。
ジュンがそれを退けて起き上がると、ジョーのマントの背中には大きな穴が空いていた。
「ジョーっ!」
ジュンが真っ青になる。
ジョーは半身を起こして、隊長にエアガンを向けて、撃ち放った。
「俺の事は気にするな。早く作業を続けろ」
「わ…解ったわ……」
ゴッドフェニックスは機首を基地から抜いて、B地点の基地へと向かった。
海水が迫って来ているのが解る。
ジョーはジュンを守って、傷を負った身体で、闘い抜いた。
肉体を使った技は使わず、羽根手裏剣とエアガンで最低限の動きで敵兵を倒せるように工夫していた。
何があっても、指1本残っていれば闘える。
彼はいつもそう考えていた。
背中に焼け付くような痛みがあり、ボタボタと血が流れている事も感じてはいたが、気が張っているので、不思議にも意識が遠のく事はなかった。
「ジョー、爆弾のセットを完了したわ。
 もう海水がそこまで迫って来ている!
 急がないと!」
そのジュンの声を聞いた時、ジョーは突然崩れ落ちた。
「ジョー、しっかりして!」
「俺に…構うな……。ジュン…、早く、逃げろ……」
そう言ってジョーは意識を手放した。
海水が後、数秒でジョーが破った扉から大量に流れ込んで来る筈だった。
ジュンはジョーの口に携帯酸素ボンベを咥えさせ、自分も同じようにボンベを咥えた。
勢い良く海水が流れ込んで来た。
その途端、ジョーの周囲が真っ赤に染まった。
出血量が多いのだ。
だが、止血をしている暇はない。
(ジョー、死なないで!)
ジュンはジョーの手を取り、彼を引きながら泳ぎ始めた。
浮遊物が浮いていて、なかなか基地の外には出られなかった。
だが、間もなくこの基地は爆発する。
このままでは2人ともギャラクターと心中する事になってしまう。
自分が仕掛けた爆弾で死ぬなんて、敵わない。
ジュンは必ずジョーを連れて無事に逃げ出す事を固く決意した。




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