『相棒』

ジョーはG−2号機のシートで、ドライビングバークローブを付けた自らの両掌をじっと見つめていた。
その手は微かにだが、震えている。
痺れがあり、その感覚が失われていた。
眩暈と頭痛に襲われた時はいつもそうだ。
視界がぼやけ、ジョーは慌ててブレーキを踏んだのだった。
G−2号機が停まったのは郊外の人気がない場所だ。
(誰かを跳ねたりしないで済んで良かったぜ…)
見つめていた両掌が彼の瞳の中で揺らいで行き、やがてはだらりと力が抜け、滑り落ちた。
身体の自由が利かなくなり、全身から彼の精気が抜けて行くようだった。
息苦しい…。
頭が割れそうだ。
眩暈で視界が定まらず、やがて彼が見る世界が眩(くら)くなり始めた。
そうしてついにジョーの意識は途絶えた。
今、自分が生死の境目に居る事すら、ジョーは気付いていなかった。
G−2号機のシートに身を預け、ジョーはまるで眠ったかのようにピクリとも動かなくなった。
その時不思議な現象が起こった。
運転手を失ったG−2号機が『ぶぉん!』とエンジンを唸らせ、走り出したのである。
意思を持たないG−2号機の筈なのに、まるで自動操縦機能が付いているかの如く、ジョーを安全にトレーラーハウスまで運んだのである。
南部博士の別荘に運ばなかった処に、G−2号機のジョーに対する『理解』が感じられる。
G−2号機が南部の別荘にジョーを連れ帰っていたら、彼の病気は皆の知る処になっていた事だろう。

ジョーがブレスレットの呼び出しで意識を取り戻したのは、明け方であった。
随分と長い時間、意識を失っていたのだ。
彼が意識を失ったのは、夕刻だった筈である。
『こちらG−2号、どうぞ!』
と掠れた声で南部博士からの呼び出しに応答しながら、ジョーは自分の居場所に驚いていた。
南部の連絡は出動命令だった。
「ラジャー!」
と短く答えて、ジョーは通信を切った。
余計な詮索をされたくはなかった。
今の自分は声にも力がない筈だった。
(俺は無意識に此処まで戻って来たのか?いや、違う……)
ジョーはG−2号機のステアリングを撫でた。
(お前が俺を此処まで連れて来てくれたのか?)
するとクラクションが『ピッ!』と1度だけ鳴った。
「そうか。有難うよ…」
ジョーは今度は口に出してG−2号機に声を掛けた。
「お前は俺にとって、最高の相棒さ。これまでも、そしてこれからも……」
ジョーは喉の渇きを覚えた。
急いでトレーラーハウスに戻って、冷蔵庫からミネラルウォーターを1本と、ゼリータイプの栄養食品を取り出して、G−2号機に取って返した。
どうやら身体が動くようになっている。
G−2号機の中は暖かかった。
「俺を一晩中、守っていてくれたんだな…」
ジョーは愛おしそうにシートに手を置き、それから運転席に乗り込んだ。
「よし、基地まで急ぐぞ!」
ジョーが声を掛けると、G−2号機は『グォン!』と力強いエンジン音を鳴らし、それに答えた。




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