『悪い予感(2)』

南部博士はジョーの勘に賭けて、大掛りなテスト機擦り替えを実行してくれていた。
そして、案の定ギャラクターの隊員が現われた。
ジョーはヴィーヴルの影となって、彼の近くにさり気なく立っていた。
ヴィーヴルは南部博士から言い含められていたようで、ジョーに向かって軽く会釈をしたので、ジョーも目立たないようにそれに応えた。
(ギャラクターの奴らはテスト機とヴィーヴルの身柄との両方を手に入れて、マントル計画を邪魔するばかりか、ヴィーヴルの頭脳を悪事に使おうとしてやがる…。
 絶対に許せねぇ。そんな事を罷り通らせてなるものかっ!)
ジョーは拳を作った。
抜かりのない眼を辺りに走らせた。
ヴィーヴルは管制室に移動するようだ。
その時、ジョーにさり気なく近づいて来た者がある。
ジョーは一瞬警戒したが、ISOの職員である事が解った。
「ヴィーヴル博士からの伝言です。
 Tシャツ姿では目立ちますから、この白衣を着ていて欲しい、との事です」
綺麗に折り畳んだ白衣を手渡された。
「どうも…」
ジョーは頷いて受け取り、ヴィーヴル博士が乗り込むエレベーターに駆け込んだ時には既にその白衣に袖を通してボタンも留めていた。
自分でも(似合わねぇ…)と思ったが、仕方がない。
この違和感にギャラクターが気付かなければそれでいい。
(どこから狙って来る?)
油断はならない。
このエレベーターにだって何か細工がされている可能性もあったし、この中に乗り込んでいる人物にギャラクターが紛れ込んでいないとは限らない。
南部博士によると、テスト機が偽物である事を知っているのは、南部とヴィーヴル、そして、ジョーの3人だけだ。
テストパイロットの健でさえ、その事は知らされていない。
「健に知らさなくていいんですかねぇ?」
とジョーは博士に言ったが、博士は
「敵を欺くには味方から、とも言うだろう。
 健があれが偽物だと知っていたら、油断が出てしまう可能性も否定出来ない」
と答えたのだった。

ヴィーヴルとそのスタッフ、そしてジョーは管制室の中に入った。
健は既にテスト機に乗り組んでいた。
スクリーンにコスチュームに身を包んでコックピットに座っている健が映っていた。
(見違えるぜ、健…)
それはジョーのレーシングスーツのように、健にはしっくり来る物だった。
『こちらスタンバイOK!いつでも発進出来ます』
スクリーンの中の健が言った。
ジョーは密かに眼で合図を送った。
勿論、何があるか解らないので、充分気をつけろよ、と言う意味だ。
健はさり気なく顎を引いて、ジョーにアイコンタクトを返した。
「それでは、カウントダウンを開始します。30秒前……」
係員がカウントを開始した。
ジョーは緊張を強めた。
(健、無事で帰って来いよ!そのテスト機は偽物だ。
 何かあったらすぐに脱出しろ!)
そう念じながらコックピットの様子を観ていた。
勿論、ヴィーヴル博士の周辺を守る任務の為、周囲を警戒する事も忘れてはいない。
健にテスト機が偽物である事を伝えられないのがもどかしい。
テスト機は無事に離陸した。
その時、管制室は沸いた。
冷静なのはヴィーヴル博士とジョーだけだ。
『こちらマントル13号。順調に飛行しています。
 これから指定のS−42地区へ向かい、緩和剤を撒く作業に入ります』
「管制室了解。注意して掛かるように」
『マントル13号、了解』
健はテストパイロットとしての仕事を丁寧にこなしている。
これが本当のテストだったら…。
ジョーは健に本来の仕事をさせてやりたかった。
ふと、彼は殺気を感じ取った。
室内にギャラクターが雪崩れ込んで来たのだ。
案の定だ……。
ジョーは白衣を脱いで応戦体勢に入った。
『ジョー!』
スクリーンの中の健が叫んだ。
その時、テスト機の方にも異変が起こった。
『そ…操縦桿が効かない……』
ジョーは管制官達を部屋の隅に追いやりながら、既に戦闘を開始していた。
健の言葉は敵にキックを入れている時に聞いた。
「健っ!」
スクリーンをチラリと見たが、健は必死に計器をいじっていた。
「早く脱出装置と自爆装置を稼動させなさい」
ヴィーヴル博士が指示を出した。
「おっと、自爆装置を使われたら敵わないんでね。
 回線を切ってあるんだ。残念だったな…」
ギャラクターの隊員の1人が言った。
「何と言う事だ!」
ヴィーヴル博士は頭を抱えた。
(なかなかの演技だ…)
と、ジョーは少し感心した。
そのままテスト機を奪わせても構わないのだ。
発信器が埋め込まれている。
だが、その事を健は知らない。
テスト機は何かに誘導されて勝手に飛行している。
ジョーはブレスレットに向かって怒鳴った。
「健っ!どうでもいいから、お前だけでも脱出しろっ!」
『だが、テスト飛行が…』
「お前の生命とどっちが大事なんだ!?」
『その通りだ…』
南部が通信に入って来た。
『健、すぐに脱出しなさい』
「……解りました」
健は悔しげに唇を噛んだ。
そして、脱出装置のボタンを押した。
ジョーは管制室を出来るだけ傷つけないように肉弾戦だけで闘っていたのだが、まだ残っていたギャラクターの隊員達が歓声を上げた。
後はヴィーヴルの身柄を確保すれば、彼らの任務は完了だ。
だが、ジョーがそれを許す筈がない。
部屋の事を気にしている場合ではなかった。
羽根手裏剣を飛ばして敵兵1人1人の利き腕を鮮やかに狙って行った。
見事に1本の羽根手裏剣も無駄にはせず、ジョーは倒れている者以外の全員の腕を貫いた。
これでマシンガンは使えなくなった。
敵兵は痛みにのた打ち回った。
1人の敵がガス弾を使ったが、ジョーは咄嗟に自分が持っている携帯用酸素ボンベをヴィーヴル博士に咥えさせ、自分は呼吸を止めた。
そして、部屋の換気をするスイッチを入れ、ガスを外に排出した。
敵兵はもう敵わないと判断して、ジョーにやられて倒れている連中を担ぎながら引き上げた。
ジョーは敢えて深追いをしなかった。
テスト機の発信器を頼りにゴッドフェニックスで追って行けばいい。
恐らくは今頃、南部博士の手配で、海上にパラシュートで落ちた健を、竜達が救い上げている事だろう。
「南部博士。ヴィーヴル博士は無事です。
 後は国連軍に任せて、俺も健達に合流します」
ジョーはブレスレットに向かって言った。
南部博士は別室から管制室の様子を見ていた。
ジョーが守るべき者が増える事を懸念したからであった。
『良くやってくれた。国連軍はもうそちらに配置済みだ。
 健も無事に救出された。
 君はSA−64地点に向かい、健達と合流し、発信器の電波を追ってくれたまえ』
「ラジャー」
ヴィーヴルが起き上がって来た。
「この研究員達は大丈夫だろうか?」
「大丈夫です。これは催眠ガスですよ。
 これから国連軍が来ますので、此処でじっとしていて下さい。
 もう暫くの辛抱です」
ジョーはそう言い置くと、風のようにその場から消えた。
「もしや…科学忍者隊?」
ヴィーヴルはジョーの行動や身のこなしを見て、そう思ったのであった。
南部博士が護衛に腕利きの自分の養子を着けてくれると言っていたが、南部博士の養子なら、その傘下にある科学忍者隊のメンバーになっていてもおかしくはないだろう。
だが、ヴィーヴル博士はそれ以上の詮索を止める事にした。




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