『悪い予感(5)/終章』

ジョーがカッツェの左腕を強い力で押さえていた手を離して、首に腕を回して締め付けるようにした。
エアガンは米神にピタリと当てられている。
「健、やっちまえっ!」
健がカッツェに飛び掛かり、マスクを剥ごうと格闘した。
ジョーが押さえているのにも関わらず、カッツェは暴れた。
いや、その瞬間、マスクとマントが翻り、ジョーが確かに首を絞めつけていた筈のカッツェの肉体が掻き消えていた。
「な…何だとっ!?」
ジョーは面喰らった。
「確かにこの腕にカッツェの感触があったぜ」
「ふふふ。残念だったな。カッツェ様はこの基地にはおられん」
2人に向かって、鮫のような衣装とマスクを纏った敵の隊長が腕を組んで嘲笑っていた。
「今のはこの私だ。カッツェ様ならあそこにおられる」
指を差した場所にはスクリーンがあった。
カッツェが画面の中に現われた。
「はははははは!騙されたな、ガッチャマンにコンドルのジョー。
 私がその基地にいると思ったのは読み違いだったようだな」
カッツェがスクリーンの中で哄笑した。
ジョーは「くそぅ!うるせぇテレビだぜっ!」と言って、エアガンを発射し、そのスクリーンを破壊してしまった。
健にはそのシーンに既視感があり、一瞬ハッとした。
そうだ、彼の父親、レッドインパルスの隊長も、彼の前でジョーと同じ事をした事があった。
健はガチャンと音を立てたスクリーンを見て、笑った。
さすがのジョーにもその意味は解らなかった。
「カッツェがいないとなったら長居は無用だぞ、ジョー」
「それもそうだ」
「ジュン、竜からの連絡は?」
「まだ無いわ」
「とにかく、残りの奴らを片付けて脱出するぞ」
健の指示が飛び、各自は戦闘を開始しながら、退路を切り拓いた。
ジョーは「うおりゃぁ〜!」と凄まじい気合を発してジャンプし、その膂力で鋭い膝蹴りを敵に突きつけた。
健もそのすぐ近くでブーメランで敵を一掃している。
ピシュッ!
羽根手裏剣が健の耳元を掠めた。
健の後ろにいた敵が倒れた。
ジョーはどこにいても、敵の動きを見極めている。
そして、当然だが仲間に危害を加える事のないように計算された攻撃を仕掛けるのだ。
その微妙な羽根手裏剣の動きを手首のスナップと指の感覚1つで自由自在に操っているのだ。
その手腕には感嘆せざるを得ない。
甚平がアメリカンクラッカーを、ジュンはヨーヨーを駆使して、少しずつ退却し始めた。
『健!冷凍レーザー砲が到着したぞい。
 早く脱出してくれい』
「解った!」
竜の通信がブレスレットに入って来た。
健は全員にスムーズな退却を指示した。
「くそぅ、カッツェの野郎!」
ジョーが拳をわなわなさせながら、その拳を思いっきり敵兵に浴びせた。
重いパンチを諸に浴びた敵兵は、その場で昏倒した。
「甚平、危ねぇっ!伏せろっ!」
甚平がジョーの声に伏せた時、彼の後ろにいた敵兵がエアガンによって倒されていた。
「有難う、ジョー」
「油断するなよ、甚平」
「うん」
そうして、彼らは連携プレーを取りながら、基地からの退却を完了し、ゴッドフェニックスまで戻った。

「レーザー砲と言うよりは特殊な強力冷凍作用のある銃弾です。
 これが1000発あります。
 各方位から火山全体を包囲するように撃ち込んで欲しいと言う南部博士の命令です」
国連軍の司令官が箱に入った銃弾を手渡した。
「これはジョーの出番だな」
健が呟いた。
1000発の特殊銃弾は、一旦ゴッドフェニックスから分離したG−2号機のコンドルマシンに、ジョーの手によって装備された。
火山の周囲を回りながら地上から撃つと言うのは難しい。
ゴッドフェニックスのノーズコーンを開けて、そこから狙う事になった。
「竜、横にスライドするような感じで、火山を1周するんだ」
健の指示が飛んだ。
「ラジャー」
再びゴッドフェニックスに合体したジョーはそのままG−2号機の中に残った。
G−2号機がノーズコーンから剥き出しになった。
『ジョー、タイミングは任せる。そっちから竜に指示を出してくれ』
「OK!竜、高度1500を保って時計回りで移動してくれ。
 スピードは毎秒10度ぐらいでいい」
『了解。計器OK。いつでもいいぞい』
「よし、行くぜ!」
ジョーはガトリング砲を発射する為に、G−2号機のボンネット部分を開いた。
ガガガガガガガっ!
連続した射撃音が響いている。
科学忍者隊は勿論の事、国連軍も、テスト場からモニタリングしている南部博士とヴィーヴル博士も、固唾を呑んでそれを見守った。
火山の中腹部を直撃しながら、ガトリング砲が放った弾丸はぐるりと火山を1周して全て撃ち尽くされた。
中腹部から上下に氷の柱が走った。
ピキピキと音がして、火山全体に拡がって行く。
そして、その氷はついに火口までを覆い尽くした。
ゴッドフェニックスで火口の上空まで行くと、火口の奥深くまで氷が侵食して行っているのが解った。
「健、一旦下りて奴らの基地がどうなっているか見た方がいいんじゃねぇのか?
 俺が行く!」
ジョーはノーズコーンからヒラリと舞い降りた。
『待て、俺も行くから待っていろ』
健の応答があって、彼もトップドームから降りて来た。

「どうやら、基地の内部もカチンコチンだな」
ジョーがニヤリと笑った。
彼が考えた作戦は成功だったのだ。
勿論、南部博士が開発した強力な銃弾無しには出来ない事であった。
「健、さっき俺がカッツェが映っているスクリーンを破壊した時、何で笑った?」
ジョーが訊いた。
「あれか……。以前、全く同じ行動を親父が取った事があってな。
 台詞まで同じだったんで、つい笑ってしまったのさ…」
「そうか…。思い出させて悪かったな……」
「構わないさ。今はなってはいい思い出さ。
 さあ、みんなの所に早く戻ろうぜ。
 バードスタイルでも何だか冷えて来た」
「ああ、そうしよう…」
2人は顔を見合わせた。
「次のマントル13号のテスト飛行は必ず成功するさ」
ジョーが健の肩をポンと叩いた。
「そうだな。今度こそ本番だからな。
 今回はジョーの勘が無かったら、ギャラクターにまんまとマントル13号を奪われる処だった」
「だが、カッツェはあの基地にはいなかった…」
「いや、いたのかもしれない。
 あれは時間稼ぎだったんじゃないかな?」
健が呟いた。
「うっ……そうかもしれねぇな。
 くそぅ。汚ねぇ手を使いやがるぜ」
「いいさ、今度逢ったらやってやろうじゃないか」
健が応じた。
「そうだな。俺達のような人間を2度と出さねぇ為にもな」
ジョーの言葉に、健が右手を差し出した。
ジョーもその手を取って、2トップは誓いの握手を交わした。
「きっと…やってやろうぜ、健!」
ジョーは煌き始めた夕陽に向かって呟いた。




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