『吸収型メカ鉄獣』

ジョーがサーキットで走っている時、ブレスレットが光った。
『科学忍者隊速やかに集合せよ』
「こちらG−2号、ラジャー」
と答えてコース外に出る。
折角爽快に走っていたのだが、仕方がない。
こんな事は日常茶飯事だった。
基地から離れた場所のサーキットだったので、ジョーは山道に入り、変身した。
これで近道を最高時速で走れる!
そう思った時、眼の前に突如巨大なメカ鉄獣が現われ、G−2号機はまさに今にも吸い込まれそうになった。
それは土の中から現われた。
G−2号機の走行音を聞き分けて出て来たのである。
「博士、G−2号機はメカ鉄獣に吸い込まれようとしています」
エンジン音と共にそのジョーの切羽詰まった声は南部博士の元に届けられた。
『何?ジョー、今回街を荒らしているギャラクターのメカ鉄獣は掃除機のような機能を持ち、物凄いエネルギーで様々な物を吸収しているのだ!』
「何ですって?!それならこのまま吸い込まれてみる事にしますか」
『ジョー、危険だが、やってくれるか?』
「当然です」
『連絡は密に取るように。何かあったら必ずバードスクランブルを発信するのだ。
 中にはウランなどの核燃料が積まれている。
 充分注意するんだ』
「ラジャー」
そうして、ジョーは抵抗をやめた。

メカ鉄獣の中に吸い込まれると、ジョーはG−2号機を乗り捨てて、ヒラリと舞い降りた。
其処には核燃料と見られるケースが大量に不規則な形で転がっていた。
元々はきちんと積まれていた物が、吸収する時にバラけたのだろう。
「こいつは危険だ…。
 何とか核燃料を爆発させてもいい場所に誘導しねぇと大変な事になるぜ」
ジョーはブレスレットからその事を報告した。
『今、ジョーの電波を頼りにゴッドフェニックスを出動させた。
 至急ISOと協議して、爆発をさせても人々に影響がない地点を計算する。
 ゴッドフェニックスで誘導させるから、ジョーはそのメカ鉄獣を内部から爆破し、必ず脱出するのだ』
「ラジャー」
『成功を祈るぞ。くれぐれも気をつけたまえ。
 下手をすれば君が放射能を浴びる事になる』
「解ってます…」
それで通信が終わった。
ジョーはメカ鉄獣の司令室に飛び込み、タイミングを計って爆弾を仕掛けようと動き始めた。
敵兵は科学忍者隊が吸収した物の格納庫の中から現われたので、驚いた。
「どうやら科学忍者隊まで吸収してしまったらしいぜ」
「吸収のダメージは負ってないみたいだな」
ギャラクターの隊員達が話し合っている。
「随分余裕じゃねぇか。科学忍者隊が紛れ込んでいたと言うのによ!」
ジョーがニヤリと笑った。
身軽に身体を転じて、羽根手裏剣を繰り出した。
ピシュシュシュシュシュッ!と言う音が空気を切り、羽根手裏剣が鋭く飛んだ。
「ギャー!」と複数の悲鳴が上がって、敵兵が纏まって倒れた。
だが、ジョーは当然それだけで止まらない。
くるくると回転しながら、長い脚で連続回し蹴りをこなして行く。
回転が終わった瞬間には、腰からエアガンを抜いて、発射していた。
動きながらも敵兵の行動を把握している。
思わず見とれるような射撃の腕で、敵兵が崩れ落ちて行った。
ジョーはそのままエアガンの三日月型のキットを後ろに向けて発射し、後方でまた悲鳴が上がった。
そして階段を駆け上る。
このメカは縦型掃除機のような形をしていた。
だから、司令室はもっと上にある筈だ。
階段の上から敵兵が押し寄せたが、ジョーはまた羽根手裏剣で一掃し、ジャンプして天井に張り付いた。
彼が居た場所を敵兵がドサドサッと転がり落ちて行く。
それを見送って、ジョーはまた階段へとヒラリと舞い降りた。
その時、鉄獣が動き始めたのを感じた。
空を飛んでいるらしい。
『ジョー、計算が出来たぞ。
 今、ゴッドフェニックスがメカ鉄獣を引き寄せている。
 目的地までは後5分の計算だ。
 リモコン式爆弾をセットして、すぐに脱出するのだ』
「ラジャー!」
ジョーは一目散に階段を走り始めた。
のんびりと敵兵を倒している暇はない。
羽根手裏剣をわんさかと浴びせておいて、ジョーは任務の完了を急いだ。
バタバタと倒れて行く敵兵を掻き分けてジョーは漸く司令室へとドアを蹴破って転がり込んだ。
時間が無かった。
中にいた敵兵と闘いながら、羽根手裏剣を投げる要領でペンシル型のリモコン式爆弾を3箇所に投げつけた。
理想的な配置に3つの爆弾が仕掛けられたのを見届けて、ジョーはまた羽根手裏剣を雨あられと降らせて、踵を返した。
後はゴッドフェニックス側からリモコンを動作させるのみだった。
長居は無用だ。
問題は無事に脱出出来るか、だった。
とにかく時間がない。
5分以内にリモコンの操作をしなければならないのだ。
既に残り時間は3分を切っているだろう。
脱出するにはもっと短時間しかなかった。
それにメカ鉄獣はもう海上に居る事だろう。
ゴッドフェニックスのオートクリッパーで拾って貰うより手はなかった。
「こちらG−2号。爆弾は仕掛けた。今から脱出する!」
『ジョー!急いでくれ!』
「解っている!」
ジョーは敵兵が倒れている上を跳躍しながら、階段を風のように駆け抜けて行った。
先程の核燃料が保管されている部屋に戻り、G−2号機に乗り込んだ。
彼が吸収された処は蛇腹のようになっていた。
そこを突き破るしかあるまい。
「竜。蛇腹のような吸収口を突き破って脱出する。
 俺には外の状況が見えねぇ。頼んだぜ」
『おらに任せとけ!』
竜の声は余裕だった。
だが、それはジョーに安心感を与える為で、本当は冷や汗を掻いていた。
タイミングを誤ればジョーは海上に落下してしまう。
最悪はG−2号機を棄ててでも、ジョーはマントを使って海面に着水するだろうが、G−2号機を失う事は出来ない。
それに、もしジョーが海水に降りたら、爆発したメカ鉄獣の破片が落ちて、大怪我を負うばかりか、放射能を浴びる事になってしまう。
絶対に避けなければならなかった。
「竜、行くぜ!3、2、1、0!」
ジョーはカウントをして、蛇腹の部分を突破した。
ハンドルが効かなくなった。
G−2号機は空高く飛び出していた。
ゴッドフェニックスが急降下して来て、既に伸ばしてあったオートクリッパーを使って、G−2号機を拾った。
健はジョーがコックピットに上がって来るのを待たずに、竜に急速上昇を指示し、リモコンのスイッチを押した。
ジョーはコックピットに上る為の鉄棒を握り締めながら、振動に耐えた。

「やれやれ、危機一髪だったぜ」
ジョーがそう言ってニヤリと笑った。
仲間達への信頼の証だ。
「偶然の遭遇とは言え、1人で良くやってくれたな」
健がホッとしたような笑顔を見せた。
ジョーが放射能にやられる可能性があったのだ。
全員が肝を冷やしていた筈だ。
放射能を浴びて、例え助かったとしても、病気を発症してベッドに横たわったまま朽ちて行くジョーなど誰も見たくはない。
「共に闘う仲間がすぐ傍にいる。
 その事がどれだけ心強い事かと言う事が改めて良く解ったぜ。
 仲間が居るのが当たり前だと思っていては行けねぇって事もな」
『全くその通りだ、ジョー』
スクリーンの中に南部博士が現われた。
『諸君も今のジョーの言葉の意味を胸に刻んで忘れんでいて欲しい。
 とにかく良くやってくれた。
 早く私の処へ戻って来たまえ』
南部博士が薄っすらと微笑みを湛えたように見えた。




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