『もしも生きて再び相見える事があるのなら』

ギャラクターに与(くみ)した者の中にも、時には同情の余地がある人間がいる。
向上心を悪用された者、家族や仲間を楯に取られた者、生活の糧を奪い取られた上に無理矢理に取り込まれた者……。
手段を選ばないのがギャラクターだった。
ジョーが出逢った老婦人の息子メッケルもその1人だ。
生活苦に耐え兼ね、彼の研究を後押ししてくれるギャラクターに手を貸し、大気汚染物質で人類を苦しめた男である。
ジョーは眩暈や頭痛などの症状をハッキリと自覚するようになっていた。
ある日G−2号機で走っている途中、突然激しい眩暈を起こし、結果老婦人を跳ねてしまったのだ。
幸い老婦人に怪我はなかったが、ジョーにとっては自分の身体の事よりも、人身事故を起こしてしまった事の方が大きなショックだった。
ジョーの母親が生きていても彼女よりはずっと若かった筈だが、ジョーはその老婦人に母親の面影を重ねていた。
花を持って時折訪ねるようになった。
しかし、南部博士の命令でメッケルを救出した後、老婦人から『息子が帰って来る』と聞かされてからは、ジョーはそこを訪ねる事を遠慮したのだった。

自分の研究により死んで行った人々の事をジョーに責め立てられ、怒りに震える彼に力一杯殴り倒されたメッケルは、その挑発に乗り銃口を向けた。
ジョーは彼が老婦人の息子その人であると言う事は最後まで知らなかった。
知っていたら、違った対応をしたかもしれない。
ジョーはメッケルに自分を標的にさせた上で、制裁を加えようとしたのだ。
それは決して彼を『殺す』事ではなかった。
メッケルが有能な科学者である事は解っている。
南部博士が彼の『救出』を命じたのもその能力を買っているからであるし、ギャラクターに力を貸しているのは何か事情があるからなのだ、と言う南部の考えもジョーは正しく理解していた。
しかし、ギャラクターに騙された結果、人類の生命を脅かす殺人兵器を作り出してしまった彼の愚かさが、ジョーには許せなかったのだ。
研究の方向性が違うのはメッケルにだって解った筈だ。
少々痛い目に遭わせてでも、メッケルを改心させたかった。
結局はジョーのその思いは伝わらず、メッケルはカッツェの裏切りによって漸く自分が愚かな事をしていたと知るのであった。

ジョーは確かにメッケルに対し自分が荒々しい行動に出た事は自覚していた。
しかし、彼の体内に脈々と流れるギャラクターの血に対する憎悪が、メッケルに向けられたのだろう。
だからこそ、ジョーは彼を許す事が出来なかったのだ。
科学忍者隊によって救出されたメッケルは今後ISOで働けるように南部博士が取り計らったらしい。
今度生きて相見(あいまみ)える事があるのなら、科学者として地球を守る為に奔走しているメッケルに逢いたいものだ、とジョーは思った。
彼はメッケル自身を憎んでいた訳ではなかった。
メッケルのような有能な人間をも、巧みに騙して利用するギャラクターこそが憎んでも憎み切れない存在なのである。
そして、自分自身がそのギャラクターの子である事も、未だに彼の胸の内では整理が付いていなかった。
ただ、確かに言える事は、ギャラクターが両親の仇であり、彼の復讐心を駆り立てている事、そして、ギャラクターを倒さない限り地球には決して平和が訪れない事だった。

やがてジョーの症状は悪化の一途を辿り、自分自身の余命を知ってしまう処となる。
メッケルと生きて再び逢う事はもうあるまい。
しかし、ジョーは自分の目的を果たさなければ死んでも死に切れない。
どうせ自分の生命が終わる日が近いのなら、それを無駄には終わらせない。
ジョーは余命を告げられた事で新たなる鋼鉄の決意を固めたのであった。




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