『夜空の星(1)』

ジョーはハンモックに揺られて時折ウトウトとしながら、瞬く星を眺めていた。
これがトレーラーハウス住まいの醍醐味と言える。
木々に切り取られた郊外の空はまだ澄み渡っており、降るような星が輝いていた。
星を眺めるジョーのその眼がふと大きく見開かれる。
大きな流れ星が3つ流れて行った。
その様子に異常を感じたジョーは、すぐさまブレスレットで南部博士へ通信をした。
「こちらGー2号。南部博士応答願います」
 『こちら南部。Gー2号どうした?』
「深夜にすみません。
 どうしても気になる流れ星があって…。
 どでかいのが3つ、北西の方角に流れて行きました。
 ……どうも、嫌な予感がします」
『実は今、夜になっている各地でその流れ星の目撃情報が相次いでいるのだ。
 原因は調査中だが、詳しい事が解ったら連絡するから、出動の覚悟をしておいてくれたまえ』
「ラジャー」
ジョーはそれから眠る事をせず、ハンモックの上からずっと夜空を見上げていた。
煌く星々はダイヤモンドのように美しい。
この森の上空は大気が綺麗なのだ。
ジョーは瞬きも忘れる程、熱心に星を見ていたが、その後先程彼が見たような大きな流れ星は現われなかった。
あの流れ星は流れ星ではなく、ギャラクターが何かを企んでいる証なのではないか、とジョーは思った。
「流れ星ではなく、『未確認飛行物体』と言った処だな。
 あの動き、流れ星のようにスーッとした動きじゃなかった。
 それにあの大きさは……」
ジョーは呟くとハンモックから降りた。
今の内に基地へと向かう気になったのである。
まだ出動の指令はないが、恐らくはそう言う事になるだろう、と思っていた。
ハンモックとトレーラーハウスはそのままに、ジョーはG−2号機に飛び乗った。

「さすがだな、ジョー。やはり来たのか…」
基地では忙しそうに南部がデータの解析を急がせていた。
「ギャラクターが1枚噛んでいるようにしか思えなくて……」
「うむ、その可能性は充分にある。
 メカ鉄獣かもしれんし、何かを企んで暗躍しているのかもしれん。
 まだ情報部からの報告も上がっていないので、君達を呼び出すのは控えていた」
「そうですか」
「とにかく、万一の出動に備えて仮眠室で仮眠を取っておきたまえ」
「解りました」
ジョーは南部博士の指示で仮眠室へと移動した。
屋根のある場所で寝ている他の4人のメンバーはあの流れ星に気付かなかっただろう。
過ごし易い気候のユートランドだからこそ、ジョーはハンモックで寝ていられた。
そして、あの奇怪な流れ星に遭遇したのだ。
夜明けになっても、南部博士からの出動命令はなかった。
ジョーは南部博士の元に行ってみた。
ジョーも眠ってはいなかったが、博士も徹夜の筈だ。
事態に進展があったのか、博士の周辺は慌しくなっている。
スクリーンに映っている拡大映像から案の定ギャラクターらしい、と確信したジョーは自分の判断で健に通信をした。
『解った。全員基地に向かう!』
「ああ、出動は間違いなさそうだぜ」
『相変わらずいい勘してるな』
健はそう言って通信を切った。
まだ朝食も摂っていないだろう。
それはジョーも同じ事だが、今頃健は「やれやれ、朝食も抜きか…」と呟いているかもしれない。
南部がジョーの所にやって来た。
「諸君に出動して貰う事になりそうだ」
「今、健達を呼び出しましたよ」
「そうか。良い判断だ。全員揃ったら司令室に集まってくれたまえ」
「ラジャー」
ジョーは一足早く司令室へと向かった。
空腹に耐えられなくなったら、ゴッドフェニックスの保存食を食べれば良いのだ。
皆も今頃、自分にそう言い聞かせてこちらに向かっているに違いない。

20分後には全員が司令室に揃っていた。
「あれぇ?南部博士は?」
まだ眠そうな甚平が訊いた。
「もう来る頃だぜ。博士は奇怪な流れ星の分析の為に徹夜しているんだ。
 博士の前で間違っても欠伸なんかするなよ」
ジョーは甚平に釘を刺した。
「しかし、腹が減ったのう……」
竜が大きな腹を抱えた。
「誰も何も喰ってねぇよ。ゴッドフェニックスの保存食で我慢しやがれ!」
ジョーが吼えた。
そこに南部が入って来た。
「諸君、おはよう。早速だがこれを見てくれたまえ」
スクリーンが下りて来て、部屋の照明が落とされた。
「流れる光体は、ギャラクターのメカ鉄獣だったのだ。
 ケイエムシティーを襲いに向かう処をジョーを始めとする多数の人間に目撃されていた」
スクリーンには先程ジョーが仲間を呼び出す前に眼にしたのと同じ、蛍のような形をしたメカが3体映し出されていた。
「あら嫌だ」
「蛍の化け物じゃないか!」
ジュンと甚平が言った。
ジュンは虫が嫌いだ。
「本物の蛍と同様に尻の部分が光っていると言う訳ですか…」
健が腕を組んだ。
「このメカ鉄獣はあそこから強力な怪光線を発し、人々を溶かしてしまうのだ」
「何てこった!やっぱり嫌な予感は当たっていやがった!」
ジョーが右手の拳を左手の掌にぶつけた。
パシっ、と良い音が響いた。
「どの目撃者も大きな流れ星は3つだったと言っている。
 ジョーが目撃したのも3つだ。
 このメカ鉄獣は3体いて、同時に行動している模様なので、もしかしたら合体技などを繰り出して来るかもしれん」
「で?この蛍型メカは今どこに?」
「今は姿を眩ましている。
 日中は光っていても目立たないからな。
 現在夜間に当たっているどこかの地域を攻撃していると言う報告もない。
 だが、諸君には壊滅的被害を受けたケイエムシティーの現状を調べて貰いたい。
 近くにメカ鉄獣が潜んでいる可能性も否定出来ない」
「敵メカが蛍の習性を踏襲しているとしたら、暗がり、草叢、川面などに集まるのでしょうが…」
ジョーが呟いた。
「うむ。蛍の習性はその通りだが、モグラタンクで懲りている事だし、そこまで蛍の習性を取り入れて作られているとは思えん。
 この時間帯に隠れやすい場所と言えば……」
「海底ですね」
ジョーと健が同時に答えた。
「その通りだ。可能性はあるだろう。
 或いは近くに基地があり、そこに戻っている事も考えられる。
 諸君は即刻蛍型メカを探し、破壊して貰いたい」
「ラジャー」
「朝食を食べていないだろうから、基地のレストランに依頼して、サンドウィッチを作らせた。
 竜、持って行きなさい。
 くれぐれも1人占めしないようにな」
南部博士から籠を受け取った竜は照れ臭そうに頭を掻いた。

基地にはバラバラにやって来たが、基地内で合体を済ませ、ゴッドフェニックスのコックピットに5人が揃った。
「竜、喰うのは後だ。とにかく出発しろ」
涎を垂らしそうな竜に釘を刺したのはジョーである。
「メカ鉄獣は3体いると言う。
 南部博士が言うように合体技を仕掛けて来るかもしれんが、出来ればバラバラの内に片付けたい。
 メカ鉄獣を見つけたら、3方に分かれよう。
 ジョーは甚平と、ジュンは竜と組んでくれ」
「健、おめぇは1人か?」
「敵が空中に居る場合には、ジョーにも1人でやって貰う。
 その時はジュンと甚平で組んでくれ」
「ラジャー」
「竜、腹拵えをしてもいいぞ。操縦を疎かにするな」
健がサンドウィッチをメンバーに分けた。
「おらのバイザーは食事をしにくいんだわさ」
竜がぼやいた。
「ダイエットになって丁度いいんじゃねぇのか?」
ジョーは彼を揶揄する事を忘れなかった。




inserted by FC2 system