『夜空の星(2)』

程なくしてゴッドフェニックスはケイエムシティーの上空へと到着した。
メインスクリーンに悲惨な状況が飛び込んで来る。
街は全く無傷だが、人1人見当たらなかった。
人型に溶けた染みがあるのを見つけ、全員がショックを隠し切れなかった。
「ひでぇな、ギャラクターの奴ら!」
甚平が思わず声を上げた。
「くそぅ。許せねぇっ!
 奴らを見つけたら絶対にバードミサイルを叩き込んでやるぜ!」
ジョーも熱くなった。
健もわなわなと両拳を震わせている。
ジュンはそっと涙を手で払った。
竜は思わず眼を閉じた。
「とにかく、下りてみよう。竜、広場を探して降下してくれ」
「ラジャー」
健の指示を受けて、竜が辺りを旋回し、ゴッドフェニックスは降下し始めた。
やがてケイエムシティーにヒラリと舞い降りる5人の姿があった。
「上空から見るより、更にひでぇな」
ジョーが惨状に思わず手で口を覆った。
「生き残りが居るかもしれん。
 手分けして探すんだ」
「ラジャー」
5人はそれぞれがヒュッと音を立てて跳躍し、街に散った。

「健、『強力な怪光線』とやらは、建物を通過するのかもしれねぇな。
 ビルの中にいた人々もやられている」
ジョーがブレスレットに呼び掛けた。
『こちらも同様だ』
『こっちもよ』
『おいらも同じだ』
『おらも誰も見つけられんわ』
『ようし仕方がない。一旦ゴッドフェニックスに引き返そう』
「ん?ちょっと待て…」
ジョーはブレスレットに囁くと、何かの気配にそっと忍び寄った。
「猫だ。虫の息だが生きている。
 怪光線にやられるのは人間だけなのかもしれねぇぜ。
 念の為、博士の所に連れて行こう」
『解った』
ジョーはそっと優しく猫を抱き上げた。
「よしよし。心配するな。南部博士に助けて貰おうぜ」
メス猫だった。
お腹が大きい。
赤ちゃんがいるのだ。
「こりゃあ、大変だ。必ず助けて貰わねぇと」
ジョーは猫を連れて、ゴッドフェニックスに戻った。
だが、まだ敵のメカ鉄獣を探す任務が待ち受けていた。
猫を連れて帰る訳には行かない。
「可哀想だが、頑張って貰うしかねぇか…」
ジョーは自ら毛布を持って来て、猫を包んだ。
「任務の為だ。許せよ…」
「キャットフードはないし……。せめて水だけでも飲ませて上げましょう」
ジュンがトレイに水を入れて舐めさせたが、猫は少し舐めたのみで、すぐにぐったりしてしまった。
「敵のメカが人間だけを溶かすと言う事になると、ゴッドフェニックスが怪光線を浴びたら、俺達はお陀仏だぜ。
 バードスタイルがどこまで持つか解らねぇからな」
「竜、お前の腕に俺達の運命が掛かっている。
 しっかり頼んだぞ」
健が竜の肩に手を置いた。
「解っとるわい。おらの腕を信用してくれい」
竜は額から汗を噴き出していた。
健は南部博士に指示を仰ぎ、ジョーが保護をした猫の事も報告した。
『何、猫は生きている?それは不思議だ。
 国連軍を派遣するから、ジョーはその猫を引き渡してくれたまえ。
 怪光線の弱点が解るかもしれない』
「博士、この猫は妊娠しています。
 親子共々助けてやって下さい」
『解った。専門家を呼んで出来るだけの事はしよう』
さすがの南部博士も動物の治療までは難しいようだ。
『それでは、諸君はメカ分身して、それぞれに捜索に当たってくれたまえ』
「ラジャー」
担当地域を決めるとジョーは猫を抱き、G−2号機へと向かった。
国連軍の方からジョーの処へ引き取りに来てくれると言う話だった。

ジョーは猫を引き渡した後、G−2号機を飛ばした。
竜は海底を探している筈だ。
健は上空から全体を見渡しているだろう。
地上でしか活動が出来ないジョーは、念の為、蛍が集まりそうな川の近くを回ってみる事にした。
「くそぅ。奴らが出て来るのを歯噛みして待つしかねぇのか…」
彼の捜索は徒労に終わり、思わず呟いていた。
「やはり基地に戻っているのか?」
一旦停止して、ジョーは辺りを見回した。
「……暗がり……。そうだ、洞窟って線もあるな」
1人ごちて、再発進した。
「馬鹿でかい洞窟なら、メカ鉄獣が入り込む事も可能だ。
 敵の狙いがこのケイエムシティーにあるのなら、どこかに隠れていてもおかしくはない」
他の街を襲うつもりなら、とうに出現している筈だ。
地球には時差がある。
それなのに出て来ないと言う事は、狙いが地下資源が豊富なこのケイエムシティーにあるとしか考えられない、とジョーは思った。
彼はこの街の地図を取り出して、頭に叩き込むと、走り始めた。
目指したのは、洞窟と言うより戦時中に防空壕としての役割を果たした場所らしい。
地図を見た限りでは、戦闘機を何台も収納出来るスペースがあるようだ。
軽快にステアリングを切って、山道を急いだ。

やがて防空壕跡の洞窟がジョーの目前へと現われた。
ジョーはヒラリとコックピットから下りて、辺りの気配を窺った。
「静かだ…。不気味な程に静か過ぎる…。
 繁華街から離れたこの辺りも人が消されてしまったのか?」
 慎重に洞窟の入口へと進んだ。
此処にメカ鉄獣があるとすれば、ギャラクターの前線基地になっている可能性もあった。
勿論、自分の勘が必ずしも当たるとは限らないと彼は思っていたが、万が一の時の事は考えておく必要があった。
「健、俺だ。昔、防空壕に使われていたでかい洞窟がある。
 何となく怪しい気がするので、様子を窺って来る。
 何かあったら知らせるからその時は応援を頼む」
ブレスレットに向かって囁いた。
『解った。注意して行動してくれ。
 そこが空振りだったら、一旦ゴッドフェニックスに戻れ』
「ラジャー」
ジョーは通信を終えると、羽根手裏剣を唇に、エアガンを右手に中へと侵入した。




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