『夜空の星(3)』

ジョーはエアガンを先兵に中へと慎重に侵入した。
物音1つしない。
(俺の予感が外れたか…)
そう思ったが、もう少し先まで進んでみなければ解らない。
ジョーは警戒を解かぬまま前へと進んだ。
ギャラクターの隊員の気配はまだしない。
此処が基地であれば、どこかで警備をしている筈だ。
(こんなザル警備の筈はねぇが…。
 わざと油断させるって手もあるからな……)
そう、ジョーの勘は当たっていた。
彼の姿は敵のモニターに映っていたのだ。
敵はジョーをもっと奥まで誘き寄せて、攻撃を仕掛け、彼を捕らえる作戦に入っていた。
「むっ?」
ジョーは岩肌に隠されているカメラに気付いた。
(罠だ!そうと解れば、こっちから打って出てやるぜ!)
「健、当たりだ!応援を頼む」
短くブレスレットに向かって通信をすると、ジョーは健の答えも聞かずに走り始めた。
先に進んで行くと、光が見えて来た。
ジョーは足を止めた。
何が出て来るか解らない。
シュシュッと音を立てながら、少しずつ敏捷に進んで行く。
やがてその光の場所に到達すると、洞窟は広い部屋のように広がっていた。
そっと探るように覗く。
そこにはまさに蛍型の大型メカが3基、その身を休めていた。
「健、メカ鉄獣を発見したぜ」
『ジョー。博士によると怪光線は軟体動物には効かないらしい。
 だからあの猫は生きていたんだ。
 人間にだけ効くように何かの工夫がされている。
 バードスタイルだからと言って危険な事は間違いない。
 注意して掛かるんだ』
「ああ、解ってるぜ」
『今、俺達も向かっている!』
「頼むぜ」
『ああ、溶けたお前なんか見たくないからな』
健の頼もしい言葉が返って来た。
ジョーは恐らくは自分の事を狙っている筈だと思った。
広い部屋のような処に自分から飛び込んだら、恰好の的になるだろう。
握り拳サイズの石を拾って投げてみた。
すると部屋のような処の入口には強力なバリアが張られている事が解った。
石は一瞬にして弾け飛んだ。
「もしかしたら、これはあの怪光線と同じ成分からしれねぇな」
ジョーが呟いている間にギャラクターの隊員に囲まれた。
バリアのある場所からではなく、別に出入口があるらしい。
「ようし、他に安全な出入口があるのなら案内させてやろうじゃないか」
ジョーは自分に襲い掛かる敵兵に闘いを挑んだ。
1人の敵に重い膝蹴りを浴びせ、バリアの中に蹴りつけた処、案の定敵兵は悲鳴を上げながら溶けて、制服だけが残った。
これが人体を溶かす光線だったのだ。
この基地には他にもこう言った仕掛けがされているのに違いない。
怪光線には何かを投げつければ反応がある。
ジョーはブレスレットで健にその事を伝え、注意喚起をした。
とにかく敵兵が出て来る場所は安全な筈である。
その出入口を探し、メカ鉄獣を破壊する必要があった。
あの猫はダメージを受けても生きていた。
人間の身体にだけ溶かす作用を及ぼすと言うこの恐ろしい怪光線は、何としてでも破壊し尽くさなければならない。
ジョーは風のように敵兵の間を通り抜けた。
マスクが切れたり、打撃を受けて、敵兵がバタバタと倒れていた。
ジョーは羽根手裏剣の切っ先の部分を使ったのだ。
そのままその羽根手裏剣を眼にも見えないスピードで飛ばし敵兵を留め置き、エアガンで撃ちまくった。
彼の一撃には寸分の狂いもない。
その射撃の腕はオリンピック級、いや、それ以上かもしれなかった。
左手を付いて、側転する。
その間にもエアガンが発射されていた。
自分も動きながら、動く標的を狙って、キッチリと当てるのである。
素晴らしい動体視力としか言いようがない。
特に科学忍者隊の中では突出している事だろう。
エアガンを片手に、左手で放った羽根手裏剣も面白いように、敵兵の中に吸い込まれて行き、纏めて崩れ落ちて行く敵兵の姿をジョーは確認した。
そして、敵兵が出て来る方角を見極め、そちらへと進んで行った。
身体を捻り、重い蹴りが飛び出した。
彼の脚力は力自慢の竜にも負けない。
竜は自らの体重を利用している処があるが、ジョーはそうではない。
脚の力、全身のバネの力を利用して繰り出しているのだ。
エアガンの三日月型のキットが飛ぶ。
これを喰らうと強烈だ。
当分気を失ったままになる。
敵兵を纏めて片付けるには良いツールだった。
ジョーは漸く敵兵が待機しているらしい部屋を遠くに見定めた。
(あそこなら入れる!)
ジョーは勇躍として向かった。

健達もゴッドフェニックスで到着した。
竜を留守番に残し、3人が中へと侵入を始めていたが、今度は最初から敵兵が現われた。
彼らはそれを切り拓きながらジョーを追わなければならなかったので、少し時間を要した。
だが、こちらは3人だ。
1人で侵入したジョーよりは有利な筈だった。
「ジョーが言っていた怪光線にはくれぐれも気をつけろ。
 バードスタイルだからと言って甘く見るなよ」
健の指示が飛んだ。
「ラジャー」
ジュンと甚平が明確に答えて、それぞれの武器と肉体で闘いを始めた。
その同じ頃、ジョーはついに敵兵を切り拓きながら、例の出入口まで来ていた。
油断はならない。
自分が飛び込んだら、何か攻撃を仕掛けて来る仕組みになっている可能性は否定出来なかった。
だが、敵兵はまだまだ現われる。
健達の到着を待つ余裕はなさそうだ。
ジョーは覚悟を決めて、扉を蹴り込んで侵入した。
此処は敵兵の出入口だから、怪光線のバリアはない筈だと解っていた。
しかし、彼が侵入した途端にレーザー光線が彼を襲って来た。
これはあの怪光線と同じものだ。
ジョーは防御に出るしかなかった。
床を転がり、光線の直撃を辛うじて避けた。
この部屋はさっき怪光線のバリアがあった部屋と繋がっている。
ジョーはレーザー光線を素早く避けながら、敵兵を羽根手裏剣で追いやり、メカ鉄獣へと一気に近づく算段だった。
だが、レーザー怪光線は、三方から彼を狙って来ていた。
彼の代わりに餌食になっているギャラクターの隊員もいる。
ジョーの素早さにはレーザー光線の射手が着いて来れない。
しかし、油断は禁物だった。
もし敵兵に足を止められる事があったら、その時は生命取りだった。
ジョーは身を低くして長い脚で敵兵の足を薙ぎ払い、周囲を警戒しつつそのまま猪突猛進に進んだ。
メカ鉄獣が見えて来た。
(こいつの尻の部分を何としても破壊しなければ!)
ジョーはこのままでは埒が明かない、と、まずは怪光線レーザーの射出口を破壊する事にした。
エアガンでまず1基に狙いを定める。
この光線は遮蔽物に隠れても意味はない。
他の2基の動きに意識を払いながら、ジョーは狙いを付けて、エアガンを発射した。
1基のレーザー光線発射装置が見事に爆発し、射手が落ちて来た。
(後2基だ。これを破壊しておけば、健達も侵入しやすい……)
ジョーはもう1基を無事に破壊した。
その時、ついに残りの1基からのレーザー光線を背中に浴びてしまった。
ジョーは倒れながらその1基に狙いを定め、破壊した。
全身に衝撃を受け、力が抜けたが、バードスタイルがどうやら彼の身体を守ってくれたようだ。
動く事が出来なくなったが、身体が溶け始める事はなかった。
(助かったぜ…。レーザー光線も全て破壊した。
 後はメカ鉄獣を……)
ジョーは唇から血を噴き出した。
そこで意識が途切れた。
「へへへへへへ…」
敵兵がジョーをぐるりと囲んでニヤニヤと笑っている。
「さすがに科学忍者隊のバードスタイルはこの怪光線をも防ぐ防御力があったようだな」
「だが、この特大バズーカ砲の砲弾には一溜まりもねぇだろうぜ」
ギャラクターの隊員達は台にセットした特大バズーカ砲、いや、大砲と言っても良さそうな巨大なバズーカ砲を運んで来た。
ジョーは絶対絶命のピンチに陥った。
意識が無くなったジョーなど、ギャラクターにとっては赤子の手を捻るようなものだろう。
怪光線でも死ななかったあの猫でも、ダメージは相当に受けていた。
バードスタイルのジョーも、かなりの衝撃は受けたのだ。
だが、ジョーは少しずつ意識を覚醒させて行った。
自力で切り抜けなくては、科学忍者隊ではない。
身体中に痺れがあったが、ジョーは半身起き上がり、羽根手裏剣を周囲に飛ばした。




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