『夜空の星(4)/終章』

ジョーは危機的状況の中で必死に意識を手繰り寄せ、羽根手裏剣を四方八方の敵に散らして、突破口を作った。
その間に何とかふら付きながらも立ち上がる。
怪光線の威力は大したものだ。
立ち上がった瞬間にまた血を喀いた。
眼の前がパッと赤く染まった。
彼は腕で唇の血を拭う。
(どうやら内臓をやられているらしい…。
 あの猫もそうかもしれねぇな…。
 無事でいてくれるといいが……)
ジョーはこんな時でもあの子供を宿しているメス猫の事が気になっていた。
バズーカ砲の射手を仕留め、エアガンに銛を付けて、ワイヤーで延ばし、その砲身の射出口を直撃した。
狙い違わず、砲身の中にワイヤーが見事に入り込んだ。
さすがの射撃の腕前だ。
それにより、バズーカ砲は砲身内部で爆発を起こした。
ジョーは身体の痺れが残っている事もあって、避ける事が出来ず、その場に伏せてマントでその身を守った。
敵兵が舞い飛んでいる。
自業自得だ。
自分達の武器で吹っ飛んでいるのだから、とジョーは思った。
爆発が収まると、ジョーは片膝を立てて辛うじて起き上がり、まだ残っている敵兵に向けてエアガンと羽根手裏剣を同時に放った。
何人かが倒れて行く。
残った者は戦意喪失しているようだ。
ジョーは攻撃をやめて、メカ鉄獣の怪光線射出口の爆破に急いだ。
そこに健達が到着した。
「ジョー、大丈夫か?」
「怪光線のレーザー砲にやられたが、バードスタイルのお陰で助かった…ぜ……」
そう言いながら、ジョーの唇からまた血が零れ落ちたので、仲間達は驚いた。
ジョーは思わず片膝を着いた。
「レーザー砲は…全て破壊した…。
 後は…メカ鉄獣を破壊…しなけりゃならねぇ」
「解った。ジョーは此処に残れ。
 俺達3人で分かれて、1基ずつ爆破する」
健がジョーを気遣った。
「大丈夫だ。俺は甚平と行こう」
ジョーは凄惨な顔つきになっていたが、不敵に笑った。
そこに新手の敵が現われた。
敵兵の隊長だった。
ジョーはそれを睨みつけた。
「健、此処は俺に任せて3人で任務を実行してくれ!」
「ジョー、俺が代わろう」
「いや、大丈夫さ。こんなのはどうってこたぁねぇ!」
ジョーはいきなり跳躍し、敵の隊長目掛けて走り始めた。
間に入ろうとする敵兵には眼も暮れず、ただ隊長を目指した。
隊長の横の壁を蹴り、その勢いで、頭に重いパンチを喰らわせ、ヘッドロックを掛けた。
そして、鳩尾にグリグリとパンチを入れる。
その時、敵兵がマシンガンを滅多撃ちにして来たので、ジョーは咄嗟に敵の隊長の背を盾にして避けた。
あろう事が敵兵は自らの手で隊長を撃ち殺してしまった。
しかし、ギャラクターの掟はそんな事を気にせずに仲間の屍を乗り越えて行く事だ。
一旦は戦意喪失していた敵兵達も隊長の死を見て、逆に奮い立った。
ジョーも負けじと肉弾戦に突入する。
見事な飛び蹴りで1度に3人を倒した。
着地した瞬間に反転して、後ろの敵に肘鉄を浴びせ、次の瞬間には羽根手裏剣が華麗に舞っていた。
それだけの働きをした後、ジョーはまた胸に違和感を感じ、喉に上って来るものを堪え切れなかった。
「ぐはっ!」
今度は大量の血が溢れ出た。
ボタボタと床に血が零れ落ちた。
怪光線で肺をやられていた処に今の動きで、更に肺が破れたのだろう。
急激に意識が遠のいて行くのを、彼は意志の力で持ち堪えた。
そして、意識の波をコントロールしながら、エアガンと羽根手裏剣を繰り出した。
「こいつ…相当に弱っているぞ。
 全員で押し包んでマシンガンで蜂の巣にしてしまえっ!」
チーフらしき隊員が叫んだ。
「隊長の仇だっ!」
「へっ、隊長を殺したのはおめえ達だろ?
 逆恨みもいい処だな」
ジョーは不敵な笑みを浮かべて、チーフと正対した。
チーフは一瞬たじろいだ。
ジョーの凄まじい生気のオーラに圧倒されたのだ。
「こんな処で死んでたまるかよ。
 俺はまだてめえらへの復讐を完了していねぇんだ」
再び羽根手裏剣が華麗なまでに舞った。
どう言う仕掛けになっているのか、彼がぐるりと一回転すると、周囲の雑魚兵の手の甲には羽根手裏剣が漏れなく刺さっていた。
こんな芸当はジョーでなけれぱこなせない事だろう。
その勢いを保ったままで、ジョーはエアガンを使って、敵のチーフを倒した。
その時、健達がそれぞれの仕掛けを終えて、飛び出して来た。
「爆破準備はOKだ。長居は無用だぞ。
 メカ鉄獣と共にこの基地も破壊されるだろう」
「解った…」
「ジョー…。走れるか?」
肺をやられているらしいジョーの事を健は気遣った。
「大丈夫だ。俺に構うな」
ジョーは気力だけで走った。
途中何度か立ち止まり、ペッと血を喀きながらも、仲間達に遅れる事なく、出入口まで走り抜けた。
身体の痺れはまだ残っていた。

ゴッドフェニックスに戻るとさすがに気力も尽きて、ジョーは自席でぐったりとしてしまった。
健が南部博士に事情を報告する。
『バードスタイルがある程度の防御をしてくれたようで助かった。
 どうやら敵は基地にあらゆる所に怪光線を仕掛けてあったのだな』
「ジョーがレーザー砲を破壊してくれたお陰で、俺達は任務を遂行出来ました」
『ご苦労であった。すぐにジョーの身体を診よう。
 至急帰還したまえ』
「ね…猫はどうなりました?」
ジョーが気になっていたを訊ねた
『内臓を痛めていたが、無事に可愛い元気な仔猫を出産したよ』
南部がタオルに包まれた生まれたばかりの掌に乗るような仔猫を見せた。
「わぁ〜。可愛い。まだ眼も開いていないのね」
ジュンが歓声を上げた。
『親猫も無事だ。暫くは治療が必要だが、大丈夫だろう』
「良かった……」
気が緩んだ瞬間、ジョーは堕ちた。
とうとう意識を奈落の底に手放したのだ。
健が慌てて頚動脈に触れてみる。
「大丈夫だ。意識を失っただけだ。
 竜、全速力で帰還だ!」
「ラジャー」
ゴッドフェニックスは美しい夕焼けの中を飛んだ。
早朝からの事件がこうして幕を閉じた。

治療を終えて、数日間入院したジョーは博士の許しを得て、トレーラーハウスへと戻った。
まだハンモックはそのまま掛かっている。
ハンモックに横になり、夜空を見上げた。
美しい星が瞬いていた。
思わず我を忘れて見上げていると、聴き慣れたバイクの走行音が聴こえた。
健だ。
健はやって来ると、勝手知りたる人の家とばかりにジョーのトレーラーに上がり込み、毛布を手に出て来た。
「まだ病み上がりだ。これを掛けておけ」
「ああ、済まねぇな……」
「此処から見る星は綺麗だな。
 ジョーが見とれていたのも解る気がする」
「自然の中で暮らすって、気分がいいぜ。
 まあ、此処で寝ていたお陰であのメカ鉄獣にも気付いたんだがな」
「もう現われないだろう。星空は平和にお前を見下ろしている」
「洒落た事を言うじゃねぇか…」
ジョーは低く笑った。
大声を出すとまだ胸に響いた。
「まだ療養中の身だぞ。本格的に寝る時にはちゃんと中で寝ろ」
健が心配そうに顔色の悪いジョーの様子を窺った。
「解ってるって。任務に支障が出ないように体力回復に努めなけりゃならねぇ事ぐれぇはよ」
「それなら良かった」
健は破顔一笑した。
綺麗な笑顔だとジョーは思った。
「飯でも喰って行くか?スパゲッティ位しかねぇが」
「いいさ。今日はゆっくり休め。
 ああ、そうそう。これは博士からの差し入れだ。
 テレサ婆さんの手製弁当。
 じゃあな」
ジョーに弁当を渡すと、健はあっさりと帰って行った。
「これが一番の薬だな」
彼は博士と健に対して、有難く感謝した。
そして、心尽くしの弁当を作ってくれたテレサ婆さんにも……。
ジョーは星空をもう1度ゆっくりと見渡すと、ハンモックから下りた。




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