『その男、マカラン(1)』

ジョーはサーキットで快適に飛ばし、コースを外れた。
G−2号機から降りるとまた視線を感じた。
スカウトかと思ったが、そうではない。
この雰囲気はレニック中佐だな、とジョーは思った。
「南部博士を通さずにやって来るとは、俺個人に用事でも?」
ジョーは振り向かずに問い掛けた。
「南部君に直接依頼してもいいんだが、まずは君の意志を確かめてからにしようと思ってね」
「何だか知りませんが、それでわざわざ国連軍特別射撃部隊の隊長が自ら?」
「マカラン少佐を覚えているかね?」
マカラン少佐と言えば、ギャラクターにより射撃の名手が誘拐された事件で、国連軍射撃部隊も捕らえられた事があり、救出に行った時に顔見知りとなった。
ギャラクターに操られたレニックがジョーの脚を撃ったのだ。
その時軍隊式の的確な手当てをしてくれたのがマカラン少佐だった。
「良く覚えています。あの時は手当をしてくれた礼を言いそびれた。
 彼がどうかしましたか?」
「マカラン少佐が家族共々行方不明になって、今日で1週間だ。
 我々も軍も必死になって捜索しているが、見つからない。
 そして、昨日、ギャラクターらしき組織に連れ去られたらしい、と言う有力な情報を得た」
「それなら南部博士にすぐ言ってくれれば、俺達に即刻出動命令が出ますよ」
「マカランは妻子とは別にいるらしい。
 誘拐されたのを目撃されているのは、妻子だけなのだ。
 つまり、妻子を人質に取られ、仕方なく行方を眩ましている、と私は見ている」
「で?何で俺の意志を確認する必要があるんですか?」
「君に私的な事、と言われたらそれまでだと思ったのだ。
 君に断られたらすっぱりと諦めるつもりだった。
 科学忍者隊を一々こんな事で動かす訳には行かん。
 国際警察の協力を仰ごうかどうか、と悩んでおるのだ」
「俺は…マカラン少佐には傷の手当をして貰った恩義がある。
 仲間達は何とも言えねぇが、博士の許可が出たなら俺1人でも捜索に当たるつもりはあるぜ」
ジョーは強い意志をその瞳に宿した。
彼は周囲を見回してから、ブレスレットで南部博士に今の話を報告した。
『解った。ギャラクターが絡んでいるとなれば、君に動いて貰うしかあるまい。
 レニック中佐も私の処に直接話を持ち込んでくれれば良かったのに…』
南部の声はレニックにも向けられた。
「何だか遠慮があるみたいですよ、博士にね。
 この前俺を撃った負い目があるみたいですが」
ジョーは唇を少し曲げた。
「では、捜索は俺に任せて貰えますね?博士」
『うむ。そうしよう。健はこれからテストパイロットの仕事があるのだ。
 必要があれば、ジュン達を出すが、どうかね?』
「いえ、今の時点では何とも…」
『解った。何か危険な要素があったら必ず私に連絡するように』
「ラジャー」

ジョーは早速、レニック中佐と共に行動を開始した。
まずはマカラン少佐の家族が誘拐された場所に行く事にした。
その後はマカラン自身がどこで消えたのか、彼の行動を探るセオリーを追う事に決めている。
警察の捜査と同じだが、地道に探って行くしか無かった。
ジョーはG−2号機にレニックを乗せて、まずはマカラン中佐の自宅を訪ねた。
自宅と言っても、国連軍の官舎だった。
家族が連れ去られたのを見たのは、同じ国連軍の親を持つ、子供だった。
レニックが案内する。
「こんな服を着たおじさん達に車に乗せられて行ったんだね?」
レニックがギャラクターの隊員の写真を見せて子供達に訊ねた。
「うん。無理矢理に押し込まれていた感じだったよなぁ?」
「ああ、アーちゃんが泣いてた」
「アーちゃんと言うのはマカラン少佐の娘、アーリアの事だ」
レニックがジョーに説明する。
「ミリアおばさんも真っ青な顔をしてた」
ジョーは出来るだけ優しい顔を作って、子供達に訊いた。
同じ強面でも、レニックよりは当たりがいいだろう。
何よりも、若いお兄ちゃんと言った風情だ。
「この写真のおじさん達は何人いたか覚えているかい?
「運転してたおじさんが1人。
 後は2人に1人ずつ銃を突きつけていたから、全部で3人だよ」
「どんな車だった?」
「真っ黒な…、あ、後ろに赤い変なマークが付いてた」
ジョーはレニックが出した紙とペンで、あるマークを書いた。
「こんなマークかい?」
そのマークはギャラクターのトレードマークだ。
「そうそう、こんなマーク!ね?」
「うん、僕も見た!」
「どこに行くとか言っていなかったかい?」
「お父さんが先に捕まっているような事を言ってたけど、嘘だと思う。
 あの後、マカランおじさんは部屋に帰って来たから」
「それはいつの事だい?」
ジョーが聞き役となり、レニックは黙って後ろに下がっていた。
子供達には『お兄ちゃん』の方が話しやすいらしい。
「えっとね〜。この前の満月の日」
「丁度1週間前だ。マカランが行方不明になった日と合致する」
レニックが呟いた。
「と、すれば、マカラン少佐も此処から拉致されたって事になりますね」
ジョーが顎に手を当てて、呟いた。
「僕達、有難うな」
子供達を返し、ジョーはレニックに提案した。
「部屋の中を見ておくべきでしょうよ」
「うむ…」
レニックも低く答えた。
レニックの顔パスで管理人から合鍵を借りる事が出来た。
まるで刑事のような行動だとジョーは思った。

マカラン少佐の部屋は綺麗に片付いていた。
妻が綺麗好きでしっかり家事をしている証拠だが、洗濯物が干しっぱなしになっていた。
取り込む前の時間に誘拐されたのだろう。
ジョーは部屋の中の電話機の横にあるメモ帳に眼を留め、引き出しから鉛筆を探した。
鉛筆で剥がされたメモ用紙の一番上の紙を塗りたくるようにして行くと、文字が浮き出て来た。
マカランの妻の字か、それともマカラン自身の文字か?
 『20時、アリゾナ埠頭』
と読める。
「これは?マカラン少佐の字ですか?」
ジョーが顔を上げた。
「うむ、間違いない」
「と、すると、1週間前の満月の日、マカラン少佐はこの場所に妻子を餌に呼び出された事になりますよ。
 そして、姿を消した……」
マカランはギャラクターに利用されようとしているのだろう。
ジョーにはその図式が少し見えて来た。
「マカラン少佐に射撃以外の特技は?」
ジョーはレニックに訊ねた。
「マカランは変わり種でな。科学者でもあり、医学の心得もある」
ジョーは納得した。
あの手当の手際の良さと確実さはそう言う事だったのか、と。
「と言う事は、奴らは一石二鳥を狙って何か特殊な銃弾を作らせ、それをマカラン少佐に撃たせようとしているのかもしれねぇな……」
レニックはジョーの読みに舌を巻いた。
ギャラクターと何度も生命の遣り取りをした来たからこそ読める手口なのだろう。
「マカラン少佐がギャラクターが開発させている物を作り上げるまでは家族は無事でしょう」
とまでジョーは言った。
「しかし、既に1週間が過ぎている。急がなければなりません」
ジョーの言葉に、レニックはただ頷いた。
「とにかくアリゾナ埠頭へ向かいましょう」
素早くG−2号機に取って返すジョーに一拍遅れて、レニックも動き始めた。




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