『その男、マカラン(2)』

アリゾナ埠頭へはG−2号機でも30分掛かった。
切り立った崖から成り立っており、激しい海風が吹き荒れ、波が打ち上げていた。
そのような場所に呼び出されて、どこに連れ去られたのか?
1台の車が残っていた。
「これはマカラン少佐の車かもしれませんね?
 南部博士に言って、警察に手を回してナンバー照会して貰いましょう」
ジョーが言ったが、レニック中佐はそれを制した。
車の中に、マカランの妻子の写真があったのだ。
「これは軍の控え室にあった写真と同じだ。
 間違いなくマカランの車だろう。
 こんな処から一体何処へ……?」
「ヘリ、でしょうね。敵はヘリで迎えに来た。
 戦闘機でも船でも現実的じゃない。
 ヘリコプターで来たのなら充分に考えられます」
「うむ…。その可能性は高いな」
レニックはジョーの観察力、判断力に正直舌を巻いていた。
ギャラクターの手口を知り尽くしている。
「しかし、これで手掛かりが途切れた事になる……」
ジョーは呟いた。
マカランの車の中や、周囲には争った形跡はない。
1週間が過ぎているとは言え、何かがあればその形跡が残っている事だろう。
マカランは大人しく敵の指示に従って、此処から連れ去られた事になる。
「くそぅ。ギャラクターが動き出すのを待つしかねぇのか……。
 こんな場所じゃあ、目撃者もいないに違いねぇ」
「いや、こんな場所だからこそ、変わったヘリが来たら眼に付くかもしれんぞ」
レニックの言葉にジョーは眼を見開いた。
成程、そう言う見方も出来る。
「崖の麓の街に行ってみましょう。
 2人で手分けをして聞き回るんです」
「世話を掛けるが、そうしてくれるか?」
あのレニックの口から出たとは思えない言葉だった。
ジョーは黙って頷いた。

「1週間前の夜ねぇ。知らないなぁ…」
そんな答えを何度聞いただろう。
ジョーは足を棒にして歩いた。
彼にとっては『運動』にすらならない。
レニックの方が疲れているのではないか、とジョーはふと気になった。
2人は待ち合わせ時間を決めて行動していた。
有意義な情報が入ったのは、待ち合わせ時間の10分前だった。
「満月の夜なら間違いない。見たよ、ヘリコプター」
と答える人間が現われたのだ。
ジョーは先程子供達に見せた直筆のギャラクターのマークを見せた。
「こんな模様…実際は赤いんですが、見ませんでしたか?」
「似てるよ。ハッキリとこれだ、とは言えないけど。
 何しろ、夜だしね。ヘリがチカチカと光る明かりの中に浮いて見えただけだから」
50代のサラリーマン風の男は、仕事から帰って来た時にそれを見たと言う。
「どちらの方角に行きました?」
「方角的にはヤツシロ山の方だけど……詳しくは解らないなぁ」
「有難うございました」
ジョーは聞き込みを終えて、レニックとの待ち合わせ場所へと向かった。
レニックは何も掴めていなかった。
「ヤツシロ山に行ってみる価値はあるでしょう。
 中佐はどうします?」
「当然、行くとも!」
「ギャラクターの隊員がいるかもしれませんよ」
「そんな物が怖いようでは、国連軍特別射撃部隊の隊長は務まらん」
「そうでした。愚問でしたね…」
ジョーはまた唇を曲げた。
「一応、南部博士に報告をしておきましょう」
ジョーはブレスレットに向かって、此処までの報告を済ませた。
『マカラン少佐の大学時代の専攻が解った。高分子科学だ』
「高分子科学?」
『特に有機化学的研究領域に詳しいらしい。
 つまりは農薬などの研究をするのが有機化学的領域だ』
「農薬ですって?悪用すれば、とんでもない化学物質を作り出す事が出来るのでは?」
ジョーは驚きを隠せなかった。
『恐らくは、そう言った化学兵器を作らせる事が目的なのではないだろうか?
 これにはマカラン少佐の射撃の腕も関係していると思われる。
 なぜなら有機化学を研究している人物など掃いて棄てる程いるからだ』
「つまり、何かの武器に利用しようとしている、って事ですね?」
「何と言う事だ…!」
2人の会話を聞いて、レニックは頭を抱えた。
マカランはレニックが一番信頼している部下だが、いざとなったら、自らの手で射殺しなければならない事も覚悟した。
それが軍人と言うものだった。
「とにかくヤツシロ山に向かいます。
 手掛かりはそれしかありません」
『ジョー、くれぐれも気をつけてくれたまえ。
 ギャラクターが居た時には必ず連絡するのだ。
 レニック中佐もいる。単独行動は慎むように』
「私は足を引っ張ったりはしない」
レニックが言った。
『それは解っています。
 でも、ギャラクターは貴方の手には負えないかもしれません』
南部が言い切った。
レニックは苦虫を噛み潰したような顔をした。

ヤツシロ山に着いたのは、もう夜になっていた。
しかし、もし此処にマカランが捕らえられているとするならば、一刻を争うだろう。
マカランの妻子、ミリアとアーリアも危険な目に遭っているかもしれない。
「もしギャラクターが居たら、俺に任せて下さい。
 マカラン少佐とその家族の事は、レニック中佐、貴方に任せますよ!」
ジョーは秒速で走りながら、レニックにそう言った。
さすがのレニックもジョーの脚の速さには付いて行けなかった。
ジョーはバードスタイルに変身し、山の麓を影のように走り回る。
夜間なのは却って都合が良かった。
不自然な金網が地上にあるのを見つけたのは、それから暫く経ってからの事だった。
(これは通風孔か?それとも出入口か?
 とにかくこんな物があるのは怪しい!)
ジョーは一旦後から付いて来るレニックの元に戻り、その事を告げた。
「俺が支えますから、一緒に行きましょう」
「解った。頼んだぞ」
通風孔らしき金網を外し、レニックの肩を支えたジョーは、一気に中へと飛び込んだ。
「案の定だ……」
中に降り立つと、そこは無機質な鉄で出来た立派な基地だった。
ジョーは物陰にレニックを押し込み、南部博士に通信した。
「こちらG−2号。ギャラクターの基地を発見しました」
『何?やはりヤツシロ山か?マカラン少佐はどうした?』
「それはまだです。これからレニック中佐と探ります」
『解った。ゴッドフェニックスを発進させる。
 頼んだぞ、ジョー』
「ラジャー」
ジョーは通信を切ると、警備兵の肩を軽く叩いた。
口を押さえ込み、軽く鳩尾にパンチを入れると、その身体を先程居た物陰に引きずり込んだ。
「レニック中佐。この制服を着ていた方が安全にマカラン少佐の元に近づけるでしょう」
「解った。そうしよう」
レニックはジョーの提案に乗り、着替える事にした。




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