『その男、マカラン(3)』

ギャラクターの扮装をしたレニックとジョーは相手が眼に入る距離で別行動をした。
ジョーは変身しているので、余り近くに居ると如何にも怪しい。
レニックは自分の手に馴染んだ銃の他にギャラクターのマシンガンを手にしている。
これだけの武器があれば、何かあっても暫くは自分の身を守れるだろう、とジョーは思った。
とにかくマカランとその妻子を探す事が急務だ。
敵兵はジョーが引き受けた。
適当にレニックにも羽根手裏剣で攻撃した。
怪しまれない為だが、ジョーは当然ギリギリで外していた。
レニックはその羽根手裏剣の凄まじさを体感する事になった。
耳のすぐ横を通り過ぎるその時の音は、言葉では形容出来ないようなスピード感と鋭さを感じざる音だった。
一瞬だが肝を冷やした。
つくづく敵にはしたくない男だと、ジョーの事を評した。
ジョーの肉弾戦は見ていて気持ちが良いぐらいに技が次々と決まり、まるで演舞を見ているかのようだ。
日本で言うなら時代劇の殺陣だな、とレニックはこの場には似つかわしくない事を考えていた。
ジョーが華麗に回転しただけで、その長い脚から繰り出される重いキックによって、敵兵がドサドサと倒れて行くのだ。
レニックはギャラクターの扮装をしているので、共に闘いたくても闘う事が出来ない。
時折やはりジョーを標的から外しながら、マシンガンを放つ。
しかし、ジョーの動きが余りにも早い為、いつ本当に当たってしまうかと冷や冷やしながら撃っていた。
ジョーが彼の銃の弾道も読んで行動している事をレニックは知らない。

敵兵を切り拓きながら、ジョーは進んだ。
レニックはジョーを追い掛ける振りをしてその後に続いた。
ジョーは部屋がある毎にそのドアを蹴り破った。
敵兵がわらわらと出て来る事は覚悟の上だ。
羽根手裏剣で軽々と仕留めておいては、次に進む。
その繰り返しを何度も続けた。
やがて2人は地下牢に出た。
そこに猿轡をされたマカランの妻子を発見する。
レニックがギャラクターの制服を身に着けているので、2人はついに処刑されるのかと怯えた。
レニックはマスクを外して見せた。
「レニック隊長!」
マカランの妻、ミリアはレニックの顔を知っていた。
「ジョー、此処の鍵は私が破る。後は任せてくれ」
そう言うとレニックは2人の人質に下がるように言って、鍵の部分を自分の銃で撃ち破った。
ジョーはその間にも敵兵と丁々発止の闘いを続けている。
彼が風のように通り抜けるとその後には敵兵がバタバタと倒れていた。
レニックが2人を救出した時、健、ジュン、甚平の3人が到着した。
「まだ、マカラン少佐が見つかっていない」
ジョーが言うと、健は
「ジュン、甚平、2人をゴッドフェニックスまで無事に脱出させてくれ」
「ラジャー!さあ…」
ジュンが2人を優しくエスコートした。
「レニック中佐。健も来た事だし、一緒に脱出しては?」
ジョーは一応訊いたが、答えはNoだと解っていた。
「私の部下の事だ。私も行く」
「俺達は貴方の事を守り切れるかどうか解りません。
 それでも、と言うなら…」
健が厳しい口調で言った。
「行くぜ、健!」
「ああ!」
2人は最早レニックの事を気にせずに、自分達のペースで行動し始めた。
風を巻く様なスピードで通路を駆け抜けて行く。
ジョーも凄いが、あの男もどうやら彼と同等の能力を有しているらしい、とレニックは思った。
リーダーだから当然だと言えば当然なのだが、これまでジョー以外の科学忍者隊とはそれ程接点がなかったのだ。
ジョーは的確に羽根手裏剣とエアガンで敵兵を倒し、健はブーメランを派手に使う。
そうして2人の周囲には敵兵が折り重なった。
ただ気合を発するだけのジョーと、「バードランっ」と叫ぶ健の派手な闘い方との個性の違いをレニックは目の当たりにした。
ジョーは敵兵の腹に両腕で何度もパンチを浴びせている。
常人には見えない程のスピードだが、さすがに射撃部隊の隊長として、優れた動体視力を持つレニックにはそれが見えていた。
自分が同様の事をしようとしても身体が付いて行かない。
科学忍者隊とは本当に凄い身体能力を持った少年の集まりなのだと、改めて知った。
小さい甚平の事など馬鹿にしていたが、ジョーは「誰よりもすばしっこい」と彼を評していた事を思い出した。
「素晴らしい戦闘部隊だ……」
思わず感嘆して声に出してしまった程だった。
マスクは外したままだった。
もういいだろう、と気分的に着心地の悪いギャラクターの戦闘服も身から剥がして、国連軍の制服姿に戻った。
その僅かな隙だった。
レニックは左肩を撃たれた。
「中佐!大丈夫ですか?」
ジョーが駆け寄る。
「だ……大丈夫だ」
「だから、俺達はあなたを守り切れないと言ったじゃないですか?」
ジョーはレニックがハンカチを出して止血をしようとしているのを手伝った。
「貴方は撤退して下さい」
健が言う。
「君達の足を引っ張るつもりはない。私はこのまま行く」
「既に足を引っ張っているではありませんか?」
健の厳しい声が飛んだ。
彼はまだ闘っている。
「ジョーが貴方の手当を手伝っている間に、彼が襲われたら、交わすのが一瞬遅れます。
 その一瞬が俺達の生命取りになるんですよ」
健の言っている事は正論だった。
レニックも軍人だから、その事は良く解る。
普段、部下に向かって言っている言葉だった。
「解った…。此処に隠れている事にしよう」
「そうして下さい。退却するのも危険でしょう。
 さっきの仲間がまた侵入して来る筈ですから、彼女達と一緒に退却して下さい」
健はレニックを物陰に引っ張り、壁に寄り掛かるように座らせた。
「出血は大した事はない。耐えて下さい」
「マカラン少佐の事は俺達に任せておけ」
健とジョーはそう言い残すと、また風のように走り始めた。
健はジュンにブレスレットでレニックの事を頼んだ。
「健、あそこは別棟になっている。
 もしかしたら研究棟かもしれねぇな」
ジョーが指差した方向には、渡り廊下で仕切られている別棟があった。
「可能性はあるな。行ってみよう」
健は頷き、2人は走る速度を加速させた。
敵兵が現われても、軽々と蹴散らす。
雑魚兵はいくら出て来ても、2トップの敵ではなかった。
「農薬を研究させて何かサイバー武器を開発しているに違いねぇ。
 それを量産してマシンガンにでも詰めて街中でぶっ放す気だぜ。
 奴ら、気が触れてやがる!」
「それがギャラクターだからな」
「マカラン少佐はわざと時間を稼いでいるだろうぜ。
 だが、もう1週間だ。せっつかれているに違いねぇ」
「危険である事は間違いないな」
健も頷いて見せた。
「とにかく妻子は助けた事だし、早くマカラン少佐を探してこんな所は爆破してしまえ!」
「そう言う事だ。行くぜ、ジョー」
「おうっ!」
気絶した敵兵を撒き散らしながら、2人は阿吽の呼吸で先を急いだ。

研究棟らしく建物に入ると、ガラス張りの部屋に、白衣を着せられたマカラン少佐が顕微鏡を覗いているのが見えた。
左右からマシンガン を突きつけられている。
軍人でもあるマカランは隙を狙っているように見えたが、1度見せられたきりの妻子の安否が気に掛かって、行動に移せないようだった。
「早く奥さんと女の子が無事である事を知らせてやらないと…」
健が呟いた。
「無事に脱出したと解れば、マカラン少佐も射撃の名手だ。
 俺達の戦力になるぜ」
ジョーが応じた。
2人は息を合わせて跳躍し、ガラスを長い脚で蹴り破った。
破片が粉々に散って、ジョーの頬を切った。
一筋の血が流れたが、大した傷ではない。
すかさずジョーはマカランに突きつけてられているマシンガンをエアガンのワイヤーで巻き取った。
「科学忍者隊!」
マカランの瞳が輝いた。




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