『その男、マカラン(4)』

ジョーはエアガンで巻き取ったマシンガンをマカランに投げた。
マカランは戸惑いながらもそれを受け取った。
「マカラン少佐!奥さんとお子さんは無事に救出しました!」
健が叫んだ。
それが一番に伝えなければならない事柄だった。
マカランはそれを聞いて表情をキリリと変えた。
そして受け取ったマシンガンを手に身を翻した。
先程まで自分にマシンガンを突きつけていたギャラクターの隊員の腕を、後ろ側に捻ってそのままマシンガンの銃床を背中に叩きつけ、気を失わせる。
さすがは国連軍選抜射撃部隊のメンバーだけの事はある。
「へへへへへ。残念だがこの研究データは貰って行くぜ」
もう1人の敵兵がディスクを手に嘲笑ったが、マカランは意に介さなかった。
「それは出鱈目なデータだ!
 こんなチャンスもあろうかと思ってな」
マカランは静かな笑みを健とジョーに向けた。
「そう言う事だったのか…」
健はジョーにニヤリと笑って見せた。
ギャラクターの隊員達が雪崩れ込んで来た。
「そうとなりゃ、早い処此処を爆破して脱出しようぜ。
 レニック中佐も心配だ」
ジョーは羽根手裏剣を放って闘いを始めながらそう言った。
「中佐に何かありましたか?」
マカランがマシンガンで敵を威嚇しながら、眉を顰め、心配気に訊いた。
「左肩を撃たれた。
 簡単な止血だけは施したが、あんたに手当して欲しい」
ジョーが手短に説明した。
ペンシル型の時限爆弾を羽根手裏剣を投げる要領で部屋の各所に投げつけながら、ジョーは闘った。
健はその間にマカランを自分の背中に回し、守る事にした。
健を狙う敵がいると、マカランもマシンガンを撃ち放した。
ジョーはなかなかやるじゃねぇか、と内心思いつつ、跳躍して敵兵の喉に膝蹴りを入れた。
これには敵兵も昏倒せざるを得ない。
激しい衝撃を受けた筈だった。
そのまま身体を回転させ、長い脚を1周させると、敵兵がバタバタと薙ぎ倒されて行く。
ジョーの脚力は本当に大したものである。
彼は闘いの最中に一時たりとも休まない。
1つの攻撃が終わった瞬間には、また羽根手裏剣を繰り出している。
それが的確に決まって行く。
 合間にはエアガンも活躍した。
肉弾戦も当然辞さない。
科学忍者隊の斬り込み隊長とも言えるサブリーダーはそれこそ八面六臂の活躍をした。
その間に健はジュンに通信した。
「ジュン、レニック中佐はどうした?」
『今、救出してゴッドフェニックスに向かっているわ。
 甚平1人で大丈夫そうだから、私は今そっちに行く処よ』
「解った。マカラン少佐は救出した。
 この基地を爆破する必要がある。
 この部屋にはジョーが時限爆弾を仕掛けた」
『解ったわ。私はすぐに動力室を爆破しに行くわ』
ジュンの頼もしい返答があった。
爆弾に関しては彼女が一番詳しかった。
それにジュンは1を聞いて10を知るタイプだった。
健がわざわざ指示を出さずとも、自ら動力室を爆破すると言った。
「健、司令室を探さねぇと!」
「ああ、解っている!」
「マカラン少佐には危険だが、一緒に来て貰うしかあるめぇな」
ジョーがマカランを見た。
マカランは力強く頷いた。
「私なら、心配無用です。気にしないで下さい」
マカランはこんな時でも丁寧な人物だった。
それを聞いたジョーは健と目線を交わした。
アイコンタクトで、この部屋を出るタイミングを計ったのだ。
健はマカランの背を軽く押した。
そして3人は走り始めた。
ジョーが先兵となり、羽根手裏剣で敵兵を牽制しながら進んで行く。
部屋を出て十数歩走った処で後方で爆発が起こった。
ジョーが仕掛けたペンシル型爆弾が爆発したのだ。
小さいが威力は大きい。
ジョーは健と2人でマカランを伏せさせ、マントでその身体を守った。

「司令室はどこにあると思う?
 やはりこの研究棟の中だろうな?」
ジョーが呟いた。
「私は1度ベルク・カッツェの前に引き出されました。
 多分あの部屋がそうでしょう。
 此処から近い。案内します」
マカランがそう言って、「向こうです!」と奥を指差した。
健がマカランの前を、ジョーが後ろを守った。
敵兵がわらわらと現われた。
内容はさておき、数だけはいるのがギャラクターの隊員だ。
マカランもマシンガンを持っている。
「私に構わず存分に闘って下さい」
マカランは2人を援護するようにマシンガンを使った。
ジョーはエアガンのワイヤーで纏めて敵兵の首を絞め、羽根手裏剣で仕上げた。
健は「バードラン!」と叫んでブーメランを投げ、それを再び手中にした時には、何人もの敵兵が倒れていた。
肉弾戦でも、この2トップの闘い振りは際立っていた。
気迫に満ち、鳥よりも速いその動きが敵兵を翻弄した。
ギャラクターの隊員同士で相撃ちになっている者もいた。
「へっ、自業自得だぜ」
ジョーは左右の拳を繰り出しながらそんな事を言う余裕すらあった。
次の瞬間には別の敵兵の腹部に重い膝蹴りを浴びせる。
彼らは止まる事を知らない。
「あっ、あそこです!」
マカランが指差した場所に、大きな扉があった。
「ようし、健、乗り込もうぜ。カッツェがいるかもしれねぇ」
「それはどうかな?
 俺達が侵入した事はとっくにカッツェの耳に入っている事だろう」
「また、逃げ出してるってか?」
ジョーは唇を噛んだが、それでも先へと進んだ。
扉の前には掌紋認証システムが設けられていた。
ギャラクターの隊員達でも、選ばれた者だけが入れるようになっているのだ。
ジョーはそれをエアガンのバーナーで焼き切った。
ドアが半分だけ上に開いた。
けたたましい警報音が鳴り響いた。
ジョーはトップを切って、一躍部屋へと踊り込んだ。
ジュンが動力室を爆破する時間を考えると、それ程時間はない筈だ、と彼は思った。
眼の前に現われた敵に、早速長い脚で一撃を与え、彼は羽根手裏剣を唇に咥えた。
その唇には不敵な笑みが浮かんでいた。
人質を取るやり口など、彼は絶対に許さない。
これから更なる本格的な闘いの火蓋が切って落とされようとしていた。
司令室に居る隊員達は、他の部署よりも精鋭が集められているのだ。
それも短時間に闘いを決しなければならない。
ジョーは健と背中合わせになり、敵兵をその咆哮で威嚇した。




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