『その男、マカラン(5)』

2人はそれぞれの視界180度以内を守っていれば良かった。
背中はお互いに相手に預けている。
生命を賭けたその信頼は厚い。
ジョーは鋭い気合を掛けて、敵兵に足技を繰り出した。
時間はそれ程ない。
だが、此処でじっくり闘わねばならない状況に陥っていた。
健はマキビシ爆弾を数個取り出して、敵兵の中に放った。
小さい爆弾だが威力はある。
ジョーは先程の研究室でも使ったペンシル型爆弾を部屋の各所に素早く投げつけながら、その合間に羽根手裏剣も飛ばしていた。
敵兵の喉笛や手の甲に次から次へと突き刺さって行く。
長い脚を回転させて、敵兵を薙ぎ払ったかと思うと、ジョーはエアガンの三日月型のキットを使っていた。
タタタタタっと小気味良い音が響き、敵兵が一気に倒れて行く。
その闘い方には全く無駄がない。
計算された動きに見えるが、これは彼の身体に叩き込まれた天性のものだ。
無意識の内に一番効率の良い闘い方を選んでいる。
また羽根手裏剣がピシュシュシュシュッと言う音を立て、四方に飛び散った。
その技たるや最早芸術の域に達している。
指先の僅かな動きと手首のスナップで思い通りに調節しているのだ。
1度に何本もの羽根手裏剣を投げて、それが全て的確に命中するなど、ジョー以外にはこなせないだろう。
ジョーは倒立をすると、目前の敵の首を脚で挟んだ。
そのまま弾みを付けて、敵兵を仲間達の中に投げつける。
凄まじい脚力だ。
ジョーは反転して、またエアガンを繰り出す。
闘いの中で、司令室のコンピューターをチラチラと目線に入れていたジョーは、それの中枢部に当たると思われるメイン装置に向かって、ペンシル型爆弾を投げつけた。
「健、そろそろ最初の爆弾が爆発する頃だぜ」
「そうだな。やはりカッツェは居なかったし、そろそろ潮時だろう」
その時、2人を邪魔しないように離れてマシンガンを使っていたマカランはその全弾を撃ち尽くし、追い込まれていた。
健がブーメランを投げつけてその敵兵を斃し、ジョーはまたエアガンのワイヤーで倒れた隊員のマシンガンを巻き上げて、そのままマカランの方へと放った。
彼の意のままになるエアガンである。
「さあ、科学忍者隊。早く逃げるのです。
 実はまだ私が作ったデータが残っています。
 先程はハッタリを言いましたが、あれが本格的に開発されたら拙(まず)いのです。
 私がデータを破壊します」
「何を言っているんだ?俺達はあんたとその家族を助けにやって来たんだ。
 あんたを置いて行ける筈がないでしょう?」
ジョーが詰め寄って、マカランを無理矢理に引っ張った。
「あのデータはこのコンピューターの中に組み込まれたのではありません。
 ベルク・カッツェが持ち去ったに違いありません。
 例え昨日までの開発途中のデータだったとしても、ギャラクターならそれを悪用する方法はいくらでも知っている筈です」
「どうするつもりなんです?」
健が訊いた。
「こいつを……」
マカランは敵のチーフらしき男を引っ張って来た。
2人が闘っている間に、彼が脚を骨折させておいたのである。
「こいつを連れて本拠地まで飛ぶのです」
「馬鹿を言わないで下さい。
 それこそ俺達の仕事です!」
「そうだ。あんたには守るべき女(ひと)が2人もいるじゃねぇか?」
ジョーの言葉にマカランは詰まった。
「あんたは軍人だが、根っからの軍人じゃねぇ。
 家族を守る為に此処まで連れて来られたんだからな」
ジョーは無理矢理にマカランの手を引いて、脚を骨折させられたチーフを踏み付けた。
「おめぇらの本拠地はどこだ?カッツェはどこにいる!?」
「………………………………………」
チーフは口を噤んだ。
だが、ジョーは骨折していない方の脚を踏み、
「こっちの脚も同じようにしてやろうか?」
と脅した。
「ぐっ……」
チーフは一旦くぐもった悲鳴を上げた後、
「ヒマンヤ峠に…基地がある…」
と呟くように言った。
ジョーはチーフを捨て置いた。
そして、マカランに振り返った。
「とにかく脱出するんだ!データは俺達が取り返してやる!」
「ジョー、時間がないっ!」
「おうっ!」
ジョーはマカランの手を強引に引いて走り始めた。
健がその後ろを守りながら退却する。
ペンシル型爆弾が爆発を始めた。
同時にジュンからも動力室を爆破した、と連絡が入る。
「あんたはその農薬から開発した毒素を解毒する薬を南部博士と一緒に作るんだ。
 それであんたの贖罪になるだろうぜ。
 後は俺達がヒマンヤ峠に出向いてギャラクターと闘う。
 早くゴッドフェニックスに戻って妻子の無事を確認しろ。
 そして、レニック中佐の手当をしてくれ」
ジョーは走りながら、マカランにそう言った。
マカランはついにその言葉に負けて、本気を出して走り始めた。

ジョーが先兵となりながら退却を謀ったが、敵兵は逃げる事に夢中で戦闘を仕掛けて来たりする事は無かった。
レニックは先に甚平がゴッドフェニックスに退却させており、ジュンも動力室の爆破と共に退却。
そして、ジョー、マカラン、健の順で敵基地より脱出した。
2人でマカランを挟んで、トップドームまで跳躍する。
マカランはコックピットで妻子と無事に再会を果たした。
「私の為に済まなかった…」
と妻子を抱き締めてから、マカランはキッと表情を硬くして、レニック中佐の方へ振り返った。
「中佐、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。
 すぐに傷口の手当をします」
「いや、大丈夫だ。そこのみみずくの竜とやらが適切な手当をしてくれた。
 肩の紋章に当たって弾丸の威力が半減したようだ。
 大した傷ではない。出血ももう止まっている」
レニックは立ち上がって見せたので、ジョーも一安心した。
「私とした事が君達の足を引っ張ってしまったな。
 済まない事をした…」
「いや、無事で良かったです…」
ジョーはボソッと答えただけで終わりにした。
それよりもこれからヒマンヤ峠へ向かわなければならなかった。
南部博士に連絡を取り、レニックとマカランの妻子を国連軍に引き取って貰う事になった。
レニックは病院へ、マカランの妻子は一時国連軍預かり、そしてマカランは南部博士の元へと向かう事に決まった。

国連軍への引き渡しが終わり、一旦ゴッドフェニックスは基地へと引き上げた。
レニックは国連軍がISOにいる南部博士の元へと送り届けた。
南部博士と基地で通信をする。
『マカラン少佐は無事にこちらに到着した。
 まずは作ったものの元素を書き出して貰っている。
 解毒剤の開発に力を入れるから、君達はギャラクターが毒素を開発してメカ鉄獣に組み込む前に出来る限り事前に防ぐのだ』
「ラジャー!」
全員が答え、まずはスクリーンにヒマンヤ峠の地図を映し出して作戦を練り始めた。




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