『正月休み』

竜は年末年始に帰省する事になっていた。
「正月位ギャラクターも休んでくれればいいんだがのう。
 何かあったら飛んで帰って来るから、みんな頼むぞい」
「飛んで帰って来るったって、ゴッドフェニックスで行く訳じゃなし、俺達の誰かが代わりに操縦してお前を拾いに行ってやるしかねぇぜ」
見送りに来ているジョーが言った。
「え?ジョーの兄貴の『運転』だけは勘弁して欲しいな〜」
甚平が1人ごちると、ゴツンと頭に軽くジョーの拳が降って来た。
「甚平、それならおめぇが操縦してみろ。それから『運転』は車だ。
 ゴッドフェニックスは『操縦』だからこの際覚えとけ!」
「ふふふ、ジョーったら!竜、気をつけてね。休暇中に出動がない事を祈ってるわ」
ジュンがジョーの拳が降った甚平の頭を撫でてやりながら言った。
「竜。これは南部博士から預かって来たお土産だ。持って行け」
健が手提げ袋を手渡した。
「博士…忙しいのに……」
受け取った竜の眼には涙が浮かんだ。
「発車のベルだ。早く乗れよ」
ジョーが親指でエクスプレスを指差した。
「んじゃ、行って来るわ!」
竜は駆け足で乗り込んだ。

「竜はいいなぁ…。帰る所があってさ」
甚平が呟いた。
「甚平、そう言うのを無い物ねだり、と言うんだぜ」
ジョーが今度は優しく、甚平の頭に手を置いた。
ジョーには甚平の気持ちが痛い程良く解る。
この感情だけは、両親が健在な竜とは共有出来ない、此処にいる4人だけが抱え持っている感情だ。
「竜の土産の海の幸でも期待しておくとしようぜ」
ジョーが膝を付いて甚平のキャップを直してやる。
185cmも身長があるジョーに対し、甚平はまだ120cm。
ジョーの3分の2にも達していない。
他人から見ると、不釣り合いな小さい弟と言った感じだ。
「さあ、折角此処まで出て来たんだから、ショッピングでもして帰りましょうよ」
ジュンが提案すると男3人は渋い顔をした。
「ジュンの買物に付き合うと長いからなぁ…」
健が肩を竦めた。
「健、お前はジュンに付き合ってやれよ!甚平、邪魔者はさっさと消えようぜ!」
「え?ジョーの兄貴ィ〜」
不服そうな甚平。
ジョーはそのまま甚平の腕を引っ張って行く。
「たまには俺が旨いもんを喰わせてやっからよ。人が作った物を食べるのもいいもんだぜ」
「ホント?お姉ちゃんの買物に付き合うより、そっちの方がずっといいや!」
「こいつぅ!全く現金な奴だ…ハハハハ……」
ジョーと甚平の声が遠去かって行った。
健は呆気に取られた様子でそれを見送り、ジュンは密かにジョーに感謝した。
ジョーは先日レースで勝ち取った賞金で懐が暖かいのだろう。
甚平に豪勢なご馳走をしてくれるに違いない。
身勝手でクールなようでいて、実は仲間への思い遣りが一番深いのではないか、とジュンは良くそう思う事がある。
「ジョーは大人よね…」
去り行く長躯を見送りながら、思わず感慨深げに呟いていた。
そして自分の後ろでこっそり逃げ出そうとしている健に背中を向けたまま、
「健!ジョーの心遣いを無駄にするつもり!?」
とちょっと棘のある声を出して、健をビクっとさせるジュンであった。
(同じ年だって言うのに、この差は何なのかしら?)
プンプンしながら、ジュンは健の手を引っ張って早足で歩き出した。
実はジョーも体良く逃げ出しただけに過ぎないのだが、恋は盲目、ジュンにはそこまでの事は見えなかったようだ。




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