『その男、マカラン(6)/終章』

科学忍者隊の5人が敵基地にどう潜入するかを打ち合わせている時に、南部博士からの通信が入った。
『諸君、マカラン少佐の的確な記憶により、解毒剤、いや中和剤は早く完成しそうだ。
 諸君は私がそれを持って行くまで待機していてくれたまえ』
「待機ですか?その間にメカ鉄獣が暴れ出したら?」
健が眉を顰めた。
他の4人も同じ気持ちだ。
『まあ、この中和剤がメカ鉄獣も敵基地も上手く破壊してくれる事だろう。
 思いの外早く届けられそうだ。とにかく待機しているように』
「ラジャー」
5人は腑に落ちないまま、南部の指示に従った。
南部が戻って来たのはそれから1時間後だった。
それまでジョーは健と一緒に窓辺で海水魚を見ながら、ぼそぼそと話をしていたし、竜と甚平は腹拵えにレストランに行っていた。
ジュンも付き合って、お茶をして来たようだ。
博士が戻った時には5人揃っていた。
「これが中和剤だ。
 マカラン少佐は自ら戦闘機を操縦して、メカ鉄獣を迎え撃つと言っている」
南部は小さな箱を開けた。
「戦闘機って…、銃の専門家がですか?」
ジョーが思わず訊いた。
「治療が終わったレニック中佐によると、戦闘機の操縦の訓練は受けているそうだ。
 だが、国連軍の戦闘機は1人乗りだ。
 非常に危険だからやめるように言ったのだが……」
「マカラン少佐は聞かなかったんですね?」
健が呟くように言った。
南部博士が「うむ…」と呟いた。
「そこでだ」
博士は小さな箱の蓋を開けた。
「これはマカラン少佐が開発したものと同じ威力のある弾丸だ。
 G−2号機のガトリング砲に詰められるサイズで作っておいた。
 5発しかない。
 2発はメカ鉄獣に使ってくれたまえ。
 その際、マカラン少佐に花を持たせてやって欲しい。
 彼の負い目を消し去る為だ。
 解るな、ジョー」
「解ってますよ。俺もそれ程子供じゃありません」
「宜しい。後の3発で敵基地を攻撃して貰おう。
 ヒマンヤ峠付近の警戒を強めている。
 メカ鉄獣が現われたらすぐにISOから連絡が入る筈だ。
 君達は出動態勢に入り、ゴッドフェニックスで待機してくれたまえ」
「ラジャー!」

やがてISOからメカ鉄獣出現の報告があった。
ゴッドフェニックスは勇躍出動する。
「あ、マカラン少佐の戦闘機が来たぞい」
竜が声を上げる。
「ジョー」
健がジョーに振り向いた。
「解っている」
ジョーはG−2号機の格納庫へと急いだ。
「こちらG−2号。ノーズコーンを開けてくれ」
『ラジャー』
竜の声がして、ノーズコーンが開かれた。
G−2号機が?き出しになる。
普通なら相当に怖い筈だ。
揺れも激しい。
「竜、マカラン少佐の援護は頼んだぜ」
『解っとるわい』
「俺は隙を見て、マカラン少佐がミサイルを発射したタイミングでガトリング砲を発射する」
『頼んだぞ、ジョー』
健の信頼感溢れる声が聞こえた。
G−2号機のコックピットには緊張感が溢れた。
マカラン少佐機が撃ち落とされそうになると、ゴッドフェニックスが旋回してそれを妨害した。
そして、ついにマカラン少佐がミサイルを発射する瞬間が来た。
ジョーはそれを見逃さず、「竜左20度旋回!」と指示を出した。
ノーズコーンを開けたG−2号機は思いの外激しく揺れた。
だが、ジョーはそれを物ともせず、ガトリング砲を的確に2発発射し、マカランがミサイルを当てた部分ではなく、敵が有害物質を撒く、メカ鉄獣の腹の部分を見事に撃破した。
実際の処はジョーの働きによって、敵のメカ鉄獣は持っている有害物資を中和された後にバードミサイルで爆破された。

だが、任務はまだ残っていた。
ヒマンヤ峠の敵基地だ。
ISOの情報部がその位置を既に把握していた。
ゴッドフェニックスはそちらに飛び、G−2号機に乗ったまま待機していたジョーは、再び直接自分の眼で明るい空を見た。
「ノーズコーンからそのまま下ろしてくれ」
ジョーは竜に指示を出す。
敵基地の中を走り捲って、ガトリング砲を発射しようと言うのだ。
場合によってはカッツェがいる可能性もあった。
 「ようし、行くぜ」
ジョーは基地へと向かって、走り込んだ。
ギャラクターの隊員達が向かって来たが、ジョーはそのままG−2号機で跳ね飛ばし、そしてコックピットから飛び出し、大立ち回りを演じた。
「カッツェはどこだ?」
羽根手裏剣を繰り出しながら、隊員の1人の首を締め上げた。
「カッツェ様はこの前線基地にはおられない…」
ジョーは「ケッ」と呟いて、その隊員を捨て置いた。
肉弾戦でキレのある闘い振りを見せ、ジョーの強いキックが唸りを上げた。
敵兵がドドドと倒れて行く。
次の瞬間には彼は回転しており、長い脚で敵兵を一掃した。
そしてエアガンが唸り、小気味良い音で三日月型のキットが敵兵を薙ぎ倒した。
そうしておいてジョーはG−2号機に戻って、そのまま中枢部へと向かった。
そして、司令室を発見すると、G−2号機毎突っ込んだ。
コックピットを開けてみるが、やはりカッツェの姿はない。
「くそぅ、カッツェめ。
 自分だけ安全圏に逃げ出しやがって!」
ジョーは容赦なく、残りの3発の内の2発をメインコンピューターに撃ち込んで脱出を謀った。
後方から強い爆発が起こり、G−2号機は激しく揺れた。
そして、ゴッドフェニックスに再び回収される。
「竜、現在の風の状況は?」
 『右斜め15度から風速15メートル』
ジョーはそれを聞いて、一瞬の内に弾道を計算した。
「残り1発。決めてやるぜ!」
ジョーは叫んだ。
最後の1発を思いを込めて、発射した。
既に内部から爆発を始めていた基地は、その最後の一撃で完全に爆破された。

敵基地の破壊の任務も無事に終わり、ジョーの長い1日はこうして過ぎて行った。
美しい夕焼けが辺りの空を染め始めた。
「竜、暫くこのままノーズコーンを開けておいてくれ」
ジョーはそう言って、無謀にもG−2号機のコックピットを開いた。
風が心地好く、また海に朱を溶いたような夕焼けが鮮やかだった。
一仕事を終えて眺めるには良い風景だった。
夜になって、南部邸に手当を終えたレニック中佐とマカラン少佐が現われた。
呼び出しを受けたジョーはバードスタイルになって、2人の前に姿を現わした。
レニックは彼の正体を知っていたが、マカランは知らない筈だからだ。
「あなたは、以前国連軍選抜射撃部隊がギャラクターに纏めて拉致された時に救ってくれた人ですね?」
マカランは冷静に話し始めた。
ジョーは困惑して南部博士の顔を見た。
博士が頷いた。
ジョーはバードスタイルへの変身を解いた。
「俺はあの時手当をしてくれた貴方に礼の1つも言う暇がなかった……」
「礼には及びません。私こそ今回は助けて貰いました。
 あのメカ鉄獣は貴方がガトリング砲を撃たなければ撃破出来なかった。
 私も軍人です。その位の事に気付かぬ筈がありません」
「バレちまいましたか……」
ジョーは米神を掻いた。
「中佐の傷の具合は?」
「大した事はない。弾丸も簡単に抜けた。
 骨にも異常はないし、全治2週間と言った処だ。
 マカランは2週間の謹慎処分を受けてしまったのでな。
 傷を受けたからと言って休んでいる訳には行かぬのだ」
「それはお気の毒様…」
ジョーは皮肉ではなく、本心からそう言った。
軍人とは厳しいものなのだ。
自分達科学忍者隊もそうだが、軍人には軍人の規律と言うものがある。
「しかし、驚きましたよ。貴方が科学者で医療の心得まであるとはね。
 奥さんと子供の事を考えたら、そっちの道に進んだ方が家族の為になるでしょうに」
ジョーが呟いた。
「射撃が好きでしてね。
 こうなった訳ですが、今回の事を重く見て、国連軍から離籍しようかと思っています」
マカランは穏やかに答えた。
「私の有能な部下だ。慰留しているのだが、仕方があるまいな、と思っているよ」
レニックが本当に残念そうに言った。
「それは残念だ。でも、家族の為にはそっちの方がいい」
ジョーはマカランの眼を真っ直ぐに見た。
「貴方には守るべき女(ひと)が2人もいるのですから」
マカランは黙って頷いた。
「ありがとう。科学忍者隊G−2号。いや、コンドルのジョー君」
マカランが右手を差し出した。
ジョーはそれを強く握り締めた。
「射撃は趣味でも出来ますよ。
 必要とあればいつでもお相手します」
「だが、君は忙しい身ですからね。
 平和がやって来たら、そんな日が来る事を願っていますよ」
いつまでも丁寧なマカランだった。
「じゃあ、その日が来る事を願って…」
ジョーはマカランの手を離した。

レニックとマカランが帰って行くと、南部がジョーに向かって言った。
「今日は大変な任務だったな。良くやってくれた」
と右手を差し出した。
ジョーはそれに応えると、「では俺もこれで…」と言った。
「テレサが逢いたがっているぞ。夕食も君の分まで用意しているようだ」
「……解りました。では、厨房に顔を出して、今日の処は帰ります」
「そうかね?」
南部はジョーが今日の任務で疲れたのだろう、と思った。
ジョーは本当に疲れていた。
普段ならこれくらいの事で疲れるような彼ではない。
何かの異変が彼の身体の中で起こっていた。
その事を最近になって自覚しつつある彼であった。




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