『Next One』

嵐のような激しい闘いは済んだ。
全員が碌に口も聞けない程疲弊していた。
さすがにジョーや健までが疲れ果てていた。
肉弾戦の連続だったのだ。
それも基地を4つも回って破壊した。
何処にもカッツェがいなかった事も、彼らを疲れさせた遠因かもしれない。
こんな時にメカ鉄獣でも出て来られたら溜まらない。
珍しく竜が、
「おら、疲れ果ててしもうて、操縦するのが辛くなって来たわい」
と言った。
「おいおい…。仕方ねぇな。俺が代わってやろう」
ジョーは陸上が専門なのに、何故か竜の代わりにゴッドフェニックスの操縦をする事が多かった。
空が専門の健の方が適任だと思われるが、何故か健は1度しか操縦をした事がない。
「ジョー、疲れたら私が代わるわ」
ジュンが声を掛けた。
「おう」
ジョーは竜と席を代わった。
初めて操縦した時は、随分下手な操縦だったものだが、何時の間にか彼は上達していた。
甚平に馬鹿にされた彼は、意地になって竜の操縦を見て見様見真似で操縦法をマスターしたのだ。
竜程ではないが、帰還する時の操縦位は問題ない。
「竜、基地に入る時だけは代わってくれ」
「解った…。すまんのう」
竜はジョーの座席からはみ出しそうになりながら、大きなお腹を抱えて座って、ぐったりとした。
今日は彼も肉弾戦に大いに参加したのだ。
いつもゴッドフェニックスで留守番を決め込んでいるから、特別疲れたのだろう。
大きな身体で良く動いているものだ、とジョーは感心する。
自分があの身体だったら、コントロール出来ないのではないか、と思う。
だが、竜は自然にあの身体になったのだろうし、問題なく動けるのに違いない。
そう言えば、いつだか、2人の身体が一時的に入れ替わった事があったが、あの時は不便だったな、とジョーは思い出した。
1人でニヤリと笑っていると、隣の席に座っている健が声を掛けて来た。
「何を笑っている?余裕だな、ジョー」
「いや、ちょっとした思い出し笑いだ。気にするな」
ジョーはそのまま暫くニヤニヤしていた。
「何だ、気持ちが悪いな…」
健はボソッと呟いて、眼を閉じた。
リーダーの彼は今日の闘いの反省点を考えていた。
もっと効率の良い戦略は無かったのか、とシュミレーションをするのだ。
それを毎回ではないが、彼は任務のように行なっていた。
ジョーはその事を知っていたので、健を静かにしておいた。
サブリーダーとして、リーダーを補佐するのが彼の任務だ。
ゴッドフェニックスの操縦を買って出たのも、そう言った事からだった。
ジョーだって疲れている。
だが、こう言う時に力を発揮するのが彼だった。
リーダーとサブリーダーのコンビネーションは闘いの中だけではなく、こんな処にも生きていた。
ジョーとしては不本意な言葉だろうが、『女房役』と言ってもいいかもしれない。
この役割は健と同等の能力を持つジョーにしかこなせないのだ。
健もジョーの思いを理解している風だった。
彼が父親を亡くしてから、2人の心は近づいた。
反発し合う事もあった2人の目的が一部だが一致したからなのだろう。
南部博士は「科学忍者隊は個人の復讐の為にあるのではない」と普段から良く言っているが、この2人の心の内には秘めたある思いがある。
それは、ベルク・カッツェとギャラクターを斃したいと言う強い思いだ。
他のメンバーよりもより強い思いが、2人を支配していた。
同じベクトルに意識が向いた事で、2人の互いへの信頼度は確かに高まったのだ。
元々闘いの中ではお互いの背中を任せられる仲だった。
それが今は更に一歩踏み込んでいる。
彼らは幼い頃から共に過ごして来たが、今、まさに親友と呼べる仲になっていた。
ジョーは自分の役割を正確に理解し、健の補佐をする。
時々先走って健に窘められる事もなくはなかったが、健が暴走するとジョーが落ち着き、ジョーが暴走すると健が冷静になる。
この絶妙なバランスが科学忍者隊を強くしていた。

健が考えを纏め切らない内に、ゴッドフェニックスは潜水した。
「そろそろ、おらが代わろうて。
 ジョー、すまんかったのう…」
竜がそろそろと立ち上がって来た。
やはりゴッドフェニックスの操縦は竜が一番だ。
重機の操縦にも長けているし、適材適所とは良く言ったものだ、とジョーは思った。
「ああ、後は任せるぜ」
重荷を下ろした、と言う顔をして、ジョーは操縦席を譲った。
ゴッドフェニックスは無事に格納庫に収まり、報告を終えて、彼らは任務から解放された。
「健、上のラウンジへ行こうぜ。俺が何か奢ってやる」
ジョーが誘った。
「ちぇっ、兄貴はいいな〜」
甚平が少し口を尖らせた。
「馬〜鹿。今日の『反省会』だよ」
ジョーは甚平の額を軽く小突いた。
今日の戦略については、健の判断で正しかった、とジョーは思っている。
それ以上の方法は採れなかった筈だ。
その事を伝えてやろうと思った。
だから健を誘ったのだ。
ラウンジで食後のコーヒーを飲みながら、ジョーは健にその事を伝えた。
「あんまり考え込み過ぎると余計に疲れるぜ」
「そうだな…。つい…」
「おめぇはリーダー気質だからしょうがねぇんだが、一旦任務を離れたらもう振り返るのはやめろ。
 俺達にあるのは『Next One』だけさ。
 それでいいじゃねぇか。
 『次』の闘いが一番大切なのさ。
 そうして行けば、いつか俺達の本懐は遂げられるに違いねぇ…」
「ジョーにそんな風に諭されるとは思ってもいなかった…」
健は正直だな、とジョーは笑った。
「……何か可笑しな事を言ったか?」
「いいや。これを飲み終わったら家に帰ろうぜ。
 今夜はゆっくり眠る必要がある。
 『スナックジュン』も今夜は営業停止だろう」
「ああ、2人とも疲れていたからな」
「珍しく身体中が筋肉痛だぜ」
若いので、すぐ当日に出るのだ。
一晩寝れば治るだろう。
「帰ってシャワーを浴びて寝るとするか。
 飯も済んだしな」
ジョーは尻ポケットから財布を取り出して、伝票を手に会計へと向かった。
相変わらずリーダーはオケラだった。
ジョーは夕食をご馳走する事で精一杯の思いやりを示したのだ。
「ジョー、ご馳走様」
屈託のない笑顔を健が見せた。
この笑顔が見たかったのだ。
ジョーは安心した。
「さあ、帰(けえ)ろうぜ。
 明日も朝からパトロールだ」
「ああ……」
長身のコンビは連れ立ってラウンジを後にした。




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