『狙撃者(1)』

その日は無公害都市Xのオープニングイベントがあり、南部博士も招待されていた。
ジョーが博士の傍にいてその護衛を担当し、健達は市井に紛れて、治安を見て回っていたが、甚平や竜などは半分物見遊山気分を楽しんでいた。
面白い出し物が沢山あったからである。
しかし、ジョーは最初から緊張を解さなかった。
意識がピーンと張り詰めている。
それを南部博士も敏感に受け止めていた。
「ジョー、嫌な予感がするかね?」
そっと囁くと、ジョーは頷いた。
「嫌な感じがプンプンしますね」
ジョーが呟いて反対側のビルの屋上を見た時、彼は何かが光ったのを見た。
彼はハッとした。
ライフルだ!と咄嗟に思った。
反射的に大腿部の隠しポケットからエアガンを取り出したが、射程距離が全く違った。
ジョーは博士を突き飛ばすようにして押し倒し、自分がその銃弾を胸に受けた。
彼の胸から血が噴き出し、辺りからは悲鳴が上がった。
だが、その状態で横っ飛びになりながら、ジョーは割れた強化ガラスの間から狙撃手の利き腕を見事に撃ち抜いた。
だが射程距離の問題で威力が足りない。
敵を仕留めるには至らなかった。
しかし、敵はライフルを取り落としてバランスを崩し、ビルの下へとドサっと音を立てて落下した。
これはジョーが狙ってした事ではない。
「ジョー!しっかりしたまえ」
ジョーの周りには血溜まりが出来始めていた。
出血が酷かった。
撃たれたのは右胸だが、肺をやられたらしく、ジョーは何かを言おうとして、唇から大量の血を噴いた。
それが南部博士の上着を赤く染めた。
「健、向かいのビルから落ちた男が狙撃者だ。
 ビルの屋上も調べてくれ」
『ラジャー』
南部の指示で健達が風のように動いた。
「ジョー…。しっかりするのだ。
 今、救急車が手配されたぞ」
「……レッ…レッ、ド…イ、ン……」
ジョーは唇から血を喀きながら、微かな声でそう言って意識を手放した。
見るからにその容態は重篤だった。
南部は唇を噛んだ。
敵はこの強化ガラスをも撃ち破る弾丸で襲って来たのだ。
国連軍の手を借りて、もっと周辺の警護をしっかりすべきだった。
ギャラクターが邪魔をしに介入する事は、予測出来た事だ。
それにしてもジョーが言い掛けた言葉が気になった。
「……レッド・インパルス?」
レッド・インパルスの隊長は既に亡かった。
正木と鬼石と言う隊員が諜報活動を行なっていたが、彼らは今、某国に潜入している筈で、この場所にいるとは思えない。
だが、ジョーはレッド・インパルスの姿を見たと言うのだろうか?
全く謎だった。
南部はポケットチーフでジョーの胸部からの出血を圧迫止血した。
自分の手が血に塗れても気には止めなかった。
自分を守ってジョーは倒れたのである。
ジョーはピクリとも動かなくなった。
南部は頚動脈に触れてみたが、辛うじて波打っている程度で、非常に微弱だった。
耳を当てると呼吸も弱く、心肺停止状態寸前である事が解った。
「誰か!AEDを!」
南部が叫ぶとすぐに周囲の者がそれを運んで来た。
ジョーの血塗れのTシャツをたくし上げると、血が絞られたかのようにポタポタと落ちた。

「狙撃者は国連軍の調査によると、国際警察が第1級手配者として国際指名手配をしていたアルマティット・カラマンと言う殺し屋と判明しました」
ジョーが手術を受けているISO付属病院の手術室前に集まった健達が報告をした。
「ビルの屋上にはギャラクターが居た痕跡はありませんでした。
 ただ、このカラマンが撃ったライフルの薬莢があったので拾って来ました。
 恐らくは特殊な銃弾でしょう。
 あの特殊ガラスを破って、ジョーに重傷を負わせたぐらいですから」
健が表情を曇らせた。
「健、君にはショックな事かもしれないのだが……。
 ジョーが意識を失う寸前に『レッド・イン』と言ったのだ」
「レッド・インパルス?」
「アンダーソン長官に所在を確認して貰ったが、間違いなく、今潜入中の某国にいる事が解っている。
 つまりはレッド・インパルスに成りすました者がいて、それをジョーが見たのではないかと思うのだが……。
 一体これはどう言う事なのか……?」
「南部博士も測り兼ねている、と言う事なのですね?」
健が腕を組んだ。
「それで、ジョーの容態は?」
ジュンが一番気に掛かっている事を訊ねた。
「容態は悪い。ライフルの銃弾が余程強力だったらしく、ジョーの右肺がぐちゃぐちゃになっている。
 現在、形成手術に手間取っているようだ。
 場合によっては肺移植が必要になるかもしれない」
「すぐにドナーが見つかるとは限らないのではありませんか?」
ジュンが訊いた。
全員が沈痛な面持ちになった。
「その通りだ。つまりは『人の死』を待つ事に他ならない……」
「ジョーがそれを良しとするでしょうか?」
健は暗澹とした気分になった。
「しかし、今は心肺停止状態から脱したばかりで、人工心肺によって生かされている状態だ。
 手術その物が終わっても、様々な機器に取り囲まれて生きて行くしかないのだ」
「それなら俺の肺を生体移植すれば?」
健が詰め寄った。
「馬鹿者!科学忍者隊が片肺になってどうすると言うのだ!?」
南部の厳しい声が飛んだ。
「すみません。俺も取り乱したようです。
 全くその通りです」
健は肩を落とした。
ジョーの生命を助けたいが為に、つい言い出してしまった事だったのだ。
「とにかく、この事件についてはジョー抜きで頑張って貰うしかない。
 某国に潜入中のレッド・インパルスの2人も一旦任務を中断して我々の調査に加わってくれる事になった。
 諸君は正木君、鬼石君と協力して、事に当たって貰いたい」
「ラジャー」
その時、手術を終えたジョーが酸素吸入器を当てた状態でストレッチャーで運ばれて来た。
「危篤状態です。
 彼は頑張ってくれてはいますが、非常に危険な状態です」
執刀医師が南部にそう告げた。
一同は奈落の底へと突き落とされた。
そこにレッド・インパルスの赤い制服の2人が音もさせずに現われた。




inserted by FC2 system