『狙撃者(3)』

「一国家を相手にしての事だ。
 ゴッドフェニックスで行く訳には行かないぞ・
 近隣のS国に頼んでゴッドフェニックスを預かって貰い、そこからは越境して貰う事になる。
 その辺りはレッド・インパルスに任せたまえ。
 何しろ慣れておるからな」
「ラジャー」
その時南部にホットラインが入った。
「何だって!?」
南部の顔に緊張が入り、彼の身体が硬直した。
「ジョーが…病院を抜け出した。
 多分、此処に来るだろう……」
「何ですって!?酸素吸入が必要なあの身体でですか?」
「ゴッドフェニックスには酸素吸入器がある。
 また、携帯用吸入器を大量に持ち込もう」
「ですが……」
「ジョーは1度言い出したら聞く玉ではない。
 足手まといにならないつもりではいるだろうが、充分に補佐してやってくれたまえ」
「解りました」
果たしてゴッドフェニックスに4人が搭乗すると、バードスタイルに変身すら出来なかったジョーが自席でぐったりしていた。
ジュンがボタンを押し、天井から酸素吸入器を降下させた。
「ジョー、馬鹿な事を……」
健は泣きそうになった。
「……G−2号機は…必要、だろ…?」
ジョーはやっとの思いで喋った。
それだけで唇から少しだが血が零れた。
「解ったからお前は喋るな。ゴッドフェニックスで待機して貰う。いいな」
「解ったよ……」
ゲホゲホと咳き込んで、ジョーは大量の血を喀いた。
ジュンが酸素吸入器を一旦外して、ガーゼでその血を拭き取り、ジョーの背中をさすった。
「こんな身体で…。無理よ。無謀過ぎるわ」
「…カラ、マンの事、が気になる…。
 どうして…ギャラクターに、身売りを、した、のか……」
『ゴッドフェニックス、出るぞ!』
レッドインパルスの正木から通信が入った。
「了解」
竜がゴッドフェニックスを出動させた。
「ジュン、無菌カーテンを」
「ラジャー」
ジョーの周りに透明なカーテンが下りて来た。
甚平が心配そうにその様子を見ていた。
ジョーは明らかに重態である。
その身体を押してまで、何故こんな時に出て来たのだ?
「カラマン…、は、3年前俺を、追い越そうと、インから無理矢理に、コースにねじ込もうとして、自損事故を起こし、再起、不能になった……」
ジョーは掠れた声で、出来るだけ肺に刺激を与えないようにしながら話した。
ジュンが握らせたガーゼで唇を拭く。
また血が溢れ出たのだ。
無菌カーテンの中の空気は特別なドームになっていて、菌を吸収し、綺麗な空気だけを流し込むように作られていた。
南部博士がこんな事もあろうかと、準備していたのが今役立ったのだ。
あれだけの手術をして、これほどの容態であると言う事は、やはり肺移植するしか生き残る手はないのだろう。
今、南部がドナー探しを必死に行なっているに違いないが、そう簡単に適合者が出るものなのかと、健も不安に思った。
「ベッドに…寝ていても、死ぬのが、延びるだけ、だろ?」
ジョーはへへへと弱々しく笑った。

イメリア国の隣のS国は国連加盟国だ。
南部博士の要請に快く応じてくれた。
そして、ドクターズヘリも用意しており、万が一の時にはジョーを連れ戻す用意もなされていた。
「此処からは各自のメカで行動する事になる。
 竜とジョーは待機だ」
「俺は…行くぜ……」
「ジョー、馬鹿な事を言うな。死ぬ気か?」
「どうせ、死ぬのなら…、ギャラクターと、相まみえて…死にてぇよ…」
「その身体でG−2号機を運転するのは無理だ」
「無理か、どうか……見てろよ。俺はやってやる……」
健は諦めた。
そして、積んで来た大量の酸素吸入ボンベをジョーに手渡した。
ジョーがG−2号機と心中するつもりだったとはさすがに思わなかった。
実際、ジョーは危なげなく、擬態を解いたG−2号機を運転した。
国境を越えるのも南部が用意してくれた特別パスポートで無事に済んだ。
ジョーは時折酸素ボンベを使いながら、苦しい呼吸を誤魔化していた。
体力の衰えはどうにもならなかった。
これでは肉弾戦は無理だろう。
精々羽根手裏剣とエアガンで闘う事ぐらいしか出来ない、と思った。
だが、いざとなったらまたあの銃弾を受けない為にも、バードスタイルにはならなければならない、と思った。
それまでは体力を温存しておくつもりだ。
3600フルメガヘルツの高周波に耐えなければならない。
自分の身体がそれに耐えられるのか、五分と五分だった。
実際には分が悪いと思われた。
ジョー自身もそれは解っていたのだ。
それでも、ベッドの上で死を待っているよりはいい、と彼は思った。
カラマンの事も気になったし、何より自分か絡んだ事件でもあったのだ。
じっとしてなどいられなかった。

彼らは闇雲に街に出た訳ではない。
レース賭博の噂を集めに走ったのだ。
ジョーはレーサーとしても顔が知られていたから、情報を集めるのは容易い事だった。
この国のサーキットでのレースに参加した事もあった。
集合場所を決めておき、夕刻サーキットの近くに集まった。
「明日……大掛かりなレースがある…。それに国が、懸賞を…掛けている。
 それの、後を引いているのが、ギャラクターだ。
 間違い…ない……」
ジョーは真っ青な顔をしながらも気丈に意識を保っていた。
「ギャラ、クターは、国王と…組んでいる。
 いつもの手口だと、すると、国王は、既に殺されていて…ベルク・カッツェが、入れ替わっている、可能せ……」
ジョーはそこで咳き込んだ。
唇から血が飛び散った。
「ジョー、頼むからゴッドフェニックスに戻ってくれ。
 これ以上は無理だ。
 今日のお前の調べだけでも充分な収穫だ」
健が言い、レッドインパルスの正木もそれに頷いた。
「私達が仕入れ切れなかった事象を調べ上げた君の手腕には関心する。
 だが、これ以上は足手まといだ。
 無理をすれば本当に死ぬぞ」
脅しではない。
本当にジョーの容態は危険だった。
此処まで調査に参加出来ただけでも奇跡的だった。
「結局…カラマンは…金に眼が眩んだだけ、のようだ……」
ジョーは唇を噛んだ。
あの時、無理に俺を抜こうとしなければ、まだサーキットを走って居ただろうに……。
「とにかく少なくとも夜の内は国境を越えてS国に戻りたまえ。
 仲間もいるから、我々も安心だ」
正木がそう言い、鬼石がジョーを国境まで送って行く事になった。
国境でジョーを竜に引き渡し、ジョーはゴッドフェニックスの無菌カーテンの中で、酸素吸入器を付けながら苦しい一夜を過ごす事になった。
竜が心配そうに付き添った。
高熱が出ている。
ジョーは無菌カーテンの中にいるので、汗を拭いてやる事も出来なかった。
南部の指示で逐一ジョーの容態を報告した。
竜は徹夜でジョーの様子を見守った。
その間の殆どを意識のない状態で、ジョーはぐったりとして朝までの時間を過ごした。
夜の間も健達の暗躍は続いた。
ジョーからの情報を元に国王の城に忍び込んだりして、諜報活動を続けていたのだった。




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