『狙撃者(4)/終章』

夜は明けた。
賭博とは言っても、サーキットで行なわれるものだから、日中にされるものだ。
王室が関与している事は間違いない、と言うのが健達3人とレッド・インパルス2人の意見が一致する処だった。
とすれば、ジョーが言っていた大掛かりなレースが開催される今日はそれが大々的に行なわれるに決まっている。
国王も臨席すると言う。
健は城に潜入してみて、国王を見た時に、その年齢の割には敏捷な動きをしている事に気付いた。
誰も見ていないと油断したのだろうが、あれがもしベルク・カッツェの変装であれば、ギャラクターの介入は間違いない、と見た。
そこでレッド・インパルスと城の内部を調査して回った処、地下牢に白骨死体があったのだ。
国王の衣装を着ていた。
これでベルク・カッツェが国王に成りすましていると言う事が明白になっていた。
彼らは一旦ゴッドフェニックスに戻ったが、意識を失ったまま生死の間を彷徨っているジョーにはその事を聞かせなかった。
「竜、密かにドクターズヘリを依頼して、ジョーを今の内に南部博士の元に返してくれないか」
健が腕を組んで呟いた。
「そうだのう。夜中じゅう見ていたが、あれは危険じゃわ」
竜も頷いた。
その時、ジョーが呟いた。
「俺は此処に残るぜ……。
 カラマンが、どうしてギャラ、クターに、買われ、たのか、どうしても、知りてぇ……」
「それは俺達が調べる。
 お前がどうしてカラマンの事を気にしているのかは知らないが、俺達を信用してくれ」
実はカラマンはレーサーを引退してから家族を放り出して放浪の旅に出てしまった。
その家族の生活の面倒をジョーが見ていたのである。
だから、彼はカラマンの事を気にしていたのだ。
ジョーはその事を言わなかったが、健達はこの後すぐにその事実を知らされた。
『諸君。ジョーのドナーが見つかった!
 すぐにジョーをドクターズヘリで運んでくれたまえ!』
南部からの通信が入った。
『本来はドナーの名前は知らさぬ事になっているのだが、特別なケースだから言おう。
 ジョーはカラマンの家族に生活費の援助をしていたそうじゃないか。
 そのカラマンが移植適合者だ』
「カ…カラ、マン…が?」
ジョーが腕を撃った事で自分から転落死したカラマンがジョーの右肺のドナー適合者とは何たる皮肉……。
ジョーが戸惑っていると、
『ジョー。カラマンの家族がそれを望んでいる。
 君はすぐに戻って移植手術を受けるのだ』
ジョーが眼を見開いた。
「カ…ラマンの、家族に、事実を…知らせた、んですか?」
ジョーは言いながら、激しく血を喀いた。
「ジョー、それ以上喋るのはやめろ!」
健が止めたが、ジョーは聞かなかった。
「そ…そんな、事、って……」
更に唇から血が溢れ出して、ジョーは再び危篤状態に陥った。
『ジョー、警察が知らせてしまったのだ。
 君がした事は事故である事も家族は納得している……。
 健、大至急ジョーを戻してくれたまえ!
 頼んだぞ。
 ドクターズヘリにはこちらからすぐに連絡しておく』
「ラジャー!」
健は血塗れになってグッタリしているジョーを、自ら無菌カーテンを開けて、抱き上げた。
「ジョー、心配はするな。カラマンはカッツェに騙されただけだ。
 そうに決まっている。
 きっと家族を捨てたのにも何かの事情がある筈だ」
「健、おらがジョーを運ぶ。
 ジョーの事は任せとけ。
 もう国境に行かなければならんぞい。
 おらもジョーを預けたら追い掛ける!」
「解った。人数は多い方がいいだろう。
 ジョーを見送ってから全員で行こう」
健が答えた。

ドクターズヘリのスタッフの表情から見て、ジョーの容態はもう生命の灯火を消そうとするかしないかの処まで来ている事が解った。
それでも此処に来たがったのは余程カラマンの事が気に掛かっていたのだろう。
健はジョーに、
「必ずカラマンの事は調べ上げてやる。
 そして仇を取ってやる」
と呟き掛けて、スタッフにジョーを託した。
ヘリはすぐさま空へと上昇して行った。
一刻を争う状況だったのだ。
健達はジョーの無事を祈りながら、サーキットへと乗り込む事になった。
健が睨んだ通り、国王にはカッツェが変装していた。
そして、カラマンはカッツェに騙され、ギャラクターに入隊していた事も解った。
家族への送金をするつもりだったが、その途はベルク・カッツェによって閉ざされ、放浪の旅に出た事にされてしまった。
カラマンはそのヒットマンとしての腕をカッツェに買われただけだったのである。
この事実を知った時、健は怒りを堪え切れなかった。
「カッツェっ!」
渾身の一撃を国王からカッツェの姿に戻った彼に、ぶつけた。
カッツェは紫のマントを翻して吹っ飛んだ。
ジョーがカラマンを気にしていたのはやはりそう言う事だったのだ。
彼はその独特の勘で、ギャラクターが関与していると言う事を悟っていたに違いない。
ジョーをあのような銃弾で傷つけた事にもむかっ腹が立っていた。
健はカッツェに対して容赦が無かったが、誰も止めなかった。
普段なら「もうやめて!」と言い出しそうなジュンまでが黙ってそれを見守った。
ジョーをあのような状態にしたのは許せなかった。
ドナー適合者が見つかったからとは言っても、ジョーが危険な状態に在る事には変わりなかった。
肺を移植したとしても、正常に動くかどうかは解らなかったし、身体が拒否反応を起こす危険性もあった。
まだ手放しで喜べる状況ではなかったのである。

科学忍者隊とレッド・インパルスは一国家を相手取り、存分な闘いを見せて、この国、イメリア国には独裁政治を嫌った国民達が投票で選んだ大統領を立て、少しずつ改革が行なわれていると風の噂に聞いた。
ジョーは順調に回復していた。
さすがに鍛え上げられた身体は拒否反応を起こす事もなく、新しい肺に順応して行った。
思ったよりも早く戦列に復帰出来そうだった。
健はカラマンの事を全て話した。
そして、家族はジョーに感謝していると言う事も。
ジョーは『自分が間接的に殺した』と気に掛けていたのである。
「心配は要らないさ。奥さんも働いている。
 実家に戻ったそうだから、もうお前の助けも要らないそうだ。
 長い間どうもありがとうございました、と言っていた。
 お前が面会謝絶だったんでな」
健は枕元に分厚い封筒を置いた。
「それは……?」
ジョーが見ると、札束が入っていた。
「全額は無理ですが、これまでお世話になって来た分のほんの一部です、そう言っていたぞ」
封筒を持ったジョーの手が震えた。
「返さなくても良かったのに……。
 やはり俺が殺した、と思っているのかもしれねぇな」
「それはないぞ、ジョー。
 あの人の眼は澄んでいた。嘘は言っていない」
「そうか……」
ジョーは溜息をついた。
その溜息も半分はカラマンから貰った肺から吐き出されているのだ、とジョーは実感した。
「俺は後どの位で戦列に復帰出来る?」
「あと、1ヶ月半は掛かると先生は言っていたぜ」
健が顔を上げた。
「リハビリが必要なんだそうだ。それでも大分短い期間だそうだぜ」
「ようし、俺は2週間で此処を出てやる!」
「ジョー、無理はするな」
「俺はやるのさ。カラマンの家族のような人々を2度と出さねぇ為にもな…」
ジョーが瞳に強い光を宿した。
本当に2週間でやってしまいそうだ、と健は思って、急に嬉しくなった。
「還って来たら『スナックジュン』で快気祝いをやるぞ。
 みんな待っている。少しはゆっくりして来い。
 ……でも、早く、還って来い」
「言ってる事が滅茶苦茶だが、早く帰(けぇ)るぜ」




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