『ダーツと羽根手裏剣』

「うわぁ〜!こんなに沢山のお菓子、どうしたの?ジョーの兄貴」
『スナックジュン』のカウンターの上には山盛りの菓子が乗せられている。
ジョーの戦利品だった。
ジュンは買物に行って不在。
健と竜も今日はまだ此処にはやって来ていなかった。
「サーキット仲間にダーツバーに連れて行かれたんだ。
 俺は未成年だから、オレンジジュースを出されて腐ってたら、仲間がやってみろ、と言うからよ」
ジョーの羽根手裏剣の腕前を考えれば、その成績は容易に想像が付く。
「で、景品を貰ったんだが、ガキ扱いされて菓子ばかり寄越しやがった…」
ジョーがふてぶてしく長い足を組んだ。
「此処に持って来れば誰かが喰ってくれるだろ?」
「ジョーの兄貴は食べないのかい?」
「甘いもんは得意じゃねぇ。甚平、おめぇにやるから喰えよ」
「ええ〜?こんなに沢山は無理だよ。おいらも竜みたいになっちゃうよ」
甚平が言ったそのタイミングで竜と健が入って来た。
「おらが何じゃって?」
言い乍ら、竜の眼はカウンターの上にある菓子に釘付けになった。
「すげぇな、どうしたんじゃい?こりゃあ?」
「ジョーの戦利品だってさ。尤も本人はガキ扱いされたって、腐ってるけどね」
甚平が答えた。
「パチンコにでも行ったのか?南部博士に叱られるぞ」
健が眉を顰(ひそ)めた。
「サーキット仲間にダーツバーに連れて行かれたのさ」
ジョーはまだ腐っている。
「は〜、羽根手裏剣の達人にダーツバーは持って来いじゃのう!
 ジョーには朝飯前じゃわい」
「俺達も大人達から見たら、まだまだガキって事なんだな…」
健が頷く。
「つい、甚平が居るから自分達は大人の気分で居たがな」
ジョーがぼやいた。
「あら?でも、ジョーは充分に大人よ」
買物から帰って来たジュンが裏から入って来た。
途中から会話も聞いていたのだろう。
「ちょっと気が短い処を除けばね」
一言付け加えるとウィンクをした。
「女心も解るし、人の心の機微だってジョーは本当は深く知ってるのよ。
 私達の中で一番大人に近いわ。年齢詐称かと思う位よ」
ジュンが笑った。
ジョーが大人びている理由はその生い立ちにある。
ジュンはその事に付いては触れずに、
「まあ!凄いお菓子ね〜!」
と話を逸らした。
「俺には無用のもんだ。みんなで喰えよ」
ジョーの前のコーラの氷が溶けてカランと音を立てた。
ジョーは水っぽくなったコーラを飲み干すと、立ち上がった。
「あら、もう帰るの?」
「ちょっと約束があってな」
ジョーは勘定をカウンターに置いて、スラリとした背中を向けながら後ろ向きに手を振って店を出て行った。
先程まで腐っていたが、もうそんな様子には見えなかった。
「ジョーの奴、デートにでも行くんかいのう…?」
ジョーの置き土産の菓子を既に手にしながら、のんびりとした声で竜が呟いた。
「竜、食べ過ぎるなよ!女の人にモテたけりゃ、ジョーの兄貴位に鍛えてシェイプしないとな!」
甚平の皮肉に、「小生意気なガキじゃわい!」と竜がカウンター越しに彼の額を軽く小突いた。




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