『亜硫酸ガスの脅威(前編)』

『科学忍者隊速やかにXS−052地点にてゴッドフェニックスに合体し、待機せよ!』
南部博士の指令が入ったのは、24時を回っていた。
XS−052地点は昼間の筈だ。
「G−2号、ラジャー」
と答えたジョーはベッドの上で上半身裸でシーツを纏い、うつらうつらとしていた処だった。
他のメンバーはすっかり寝入っていたかもしれない。
ジョーは急いでTシャツを着込み、冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出して、G−2号機に飛び乗った。
サーキットの中にブオンっと言うエンジン音を残して、G−2号機は走り去った。
明日の午後のレースの為に前乗りしていたのだが、任務とあっては仕方がない。
間に合うかどうかは敵次第だ。
それは宿命だと半ば諦めていた。
二兎を追う者は一兎をも得ず、と言う例えがある通りで、ジョーはまずギャラクターの殲滅に力を注がなければ、と思うようになった。
レースにはギャラクターを斃してから専念すればいい。
自分は復讐の為だけに生きる。
世界的レーサーになりたいと言う夢はあるが、まずは後回しにするしかなかった。
彼は既にこの世界で頭角を表わしていたが、レースに専念する事を考えるのはもっと先でもいい。
自分はまだこの世界では若いのだ、と自らを言い聞かせていた。
それが自分を納得させられる唯一の方法だった。
本当は後ろ髪を引かれる思いだった。
だが、両親の仇も討ちたい。
両天秤に掛ければ、自ずと1つを遠ざけるより他なかった。
レースは任務の無い時だけに絞った。

指定の地点でゴッドフェニックスに合流して、待機が完了した。
博士の指令を待たずしても、前方のセルモアネ島が襲われているのは、スクリーンに映っている。
「南部博士、全員指定の位置に集合しました。
 セルモアネ島がギャラクターのメカ鉄獣に襲われています。
 指令はあのメカ鉄獣を倒せ、と言う事ですね?」
健が訊いた。
『うむ。あのセルモアネ島には地下資源が眠っている。
 恐らくはそれを狙っての事だろう』
「あんなに小さな島に……」
ジョーの生まれ故郷の島も小さな島だったが、ギャラクターはそう言った処を前線基地にするのが好みらしい。
恐らくは此処も基地と化そうとしているに違いない、とジョーは思った。
「くそぅ…。ギャラクターの好き勝手にさせるものか!」
右手で左掌を打った。
『諸君、見たまえ。これが敵のメカ鉄獣の拡大写真だ』
南部が言うと、彼が映っているスクリーンの隣にトカゲ型のメカ鉄獣の姿が現われた。
『あのトカゲ状のメカは尻尾で攻撃する。
 尻尾はいくらでも再生し、攻撃を繰り返す。
 その攻撃の方法だが、これを見たまえ』
スクリーンの画面が変わった。
『尻尾から撒いているのは亜硫酸ガスだ。
 あれに街の人々がやられている。
 君達も知っての通り亜硫酸ガスは硫黄酸化物の一種だ。
 別名二酸化硫黄とも言う。
 車の排気ガスにも含まれているが、それを濃厚にしたのが、このメカ鉄獣から排気されているのだ』
亜硫酸ガスは眼や喉に刺激を与え、濃度の濃いものは呼吸困難を引き起こす。
「街の人々を窒息させて…」
ジョーが呟いたのを健が引き取った。
「島全体を乗っ取ろうと言う作戦なんですね」
『恐らくその通りだろう。
 あのトカゲの尻尾は実際のトカゲとは違い、非常に鋭い。
 ゴッドフェニックスの装甲を破って来る可能性も否定出来ないから、充分に注意してくれたまえ』
「ラジャー」
スクリーンから南部の姿が消えた。
ジョーはメインスクリーンに映っているメカ鉄獣を腕を組んで凝視した。
「健、どうやって攻撃する?闇雲には近づけねぇぜ」
「解っている。だが、此処で手を拱いていても、奴らの手口が解らん。
 竜、気付かれないように出来るだけ近づいてくれ」
「ラジャー」
「ジョー、いつでもパワーアップ出来るように用意だ」
「解った」
ジョーは自席に戻った。
竜、健、ジョーの3人が同時にレバーを引く事で、ゴッドフェニックスは一時的にパワーアップして、敵から逃れる事が出来る。
「健、万が一ゴッドフェニックスが破壊された時の為に、全員酸素ボンベを用意しておいた方がいい」
「そうだな」
ジョーの提案に全員が携帯型酸素ボンベの在り処を手で探って確かめた。
「よっしゃ、行くぞい」
竜が操縦桿を引いた。
「おい、トカゲの舌を見ろ!」
ジョーが叫んだ。
トカゲメカがチロチロと出している舌には、電流のように見える何かがビリビリと流れていた。
「あれは博士の情報には無かったものだな」
健も頷いた。
「尻尾だけではねぇ。あの舌にも注意が必要だって事だ」
「火の鳥で突っ込んぢまおうか?」
火の鳥嫌いの甚平が珍しい事を言ったが、
「それでは街が余計に破壊されるに違いない」
と健に言下に否定された。
「街の人達に生き残りがいた場合、ちとまずいだろうぜ、甚平」
ジョーは甚平の頭に手を乗せた。
「そうよ、もしかしたらシェルターなどがあるかもしれないし、全滅したと考えるのは早いわよ、甚平」
「マンホールの中に逃げたら助かるかいのう?」
竜が言った。
「いや、マンホールの蓋には穴がある。
 亜硫酸ガスはマンホールの中にも入り込むだろう」
健がハッキリと答えた。
その時、スクリーンに南部博士が再び現われた。
『ジョー。君が持っているエアガンのキットの中に、バリアー銃がある筈だ。
 それをG−2号機のコックピットに設置してくれたまえ。
 亜硫酸ガスを防げるだろう。
 それで君がメカ鉄獣に近づいて、中に潜入し、まずは尻尾の亜硫酸ガス発生装置を破壊するのだ』
「え?ジョー1人では危険なのでは?」
健がジョーを振り返りながら言った。
ジョーは委細構わずと言った感じで、「勿論やりますよ」と答えた。
『甚平。君ならG−2号機の中に入り込む事も出来るだろう。
 ジョーと共に行ってくれるか?』
「おいら、行くよ!博士!」
『そうか、それでは頼む。成功を祈るぞ』
博士の姿がスクリーンから消えた。
「こいつにそんな威力があったとは、気が付かなかったな…」
ジョーは問題のキットを腰から取り出した。
「ようし、やってみよう。甚平、行くぜ」
「ラジャー」
「ジョー、甚平、くれぐれも気をつけろよ」
「解ってるって!」
「あたぼうよ!」
凸凹コンビが走り始めた。
G−2号機からコックピットへ上るのは平行棒を腕の力だけで上って行くので大変だったが、逆にコックピットからG−2号機へ行く時は滑り落ちるだけで良かった。
甚平などは「ひゃっほ〜」と声を挙げながら下りて行き、ジョーに「遊びに行くんじゃねぇぞ」と窘められた。
南部からの指示通りにコックピットにバリアー銃のキットを設置した。
「準備OK。竜、ノーズコーンを開けてくれ」
「ラジャー」
オートクリッパーで地上近くまで下ろされたG−2号機は弾かれたように走り出した。
ジョーはバリアーを張りながら、敵のメカ鉄獣の真下へと入り込み、ガトリング砲で腹の装甲を撃ち破って、G−2号機をジャンプさせてその穴から中へと侵入する事に成功した。




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