『捕虜』

俺の残りの人生に何があると言うのか?
もう時間がないんだ。
復讐の2文字以外に何も残ってはいない。
残り少ない生命の中でやり遂げられる事はそんな事ぐれぇしか考えられねぇ。
ベルク・カッツェ。
貴様の息の根を止めてやる。
俺はそう決意して敵の本部に乗り込んだが、最早俺には満足に闘える力さえ残っていなかった。
雑魚兵こそ、しこたま片付けたが、敵のチーフと相撃ちになり、おれはマシンガンの弾丸を喰らった。
そして、ついに憎っくき敵の捕虜と成り下がってしまった。
だがよ、このままで終わってなるものか。
俺はカッツェに病気の事は言わずに目一杯の虚勢を張った。
俺はてめぇを殺し、本懐を遂げる為だけに来た。
この残り少ない生命を燃やすには、それが最善の方法だと思った。
それこそが俺の生きた証だと思ったし、最期の任務だと信じた。
だが、俺の身体は思ったよりも弱っていた。
敵が可笑しな注射を打たなかったら、俺はもっと早くに生命を落としていたに違いねぇ。
あの妙な注射のお陰で、結局は基地を脱出して、健達に本部の入口を伝える事が出来たんだから、少しはカッツェに一矢報いたと思ってもいいのかもしれねぇ。
俺がカッツェに向かって放った羽根手裏剣はこれまで放った中で初めて外した羽根手裏剣だ。
悔しいさ……。
俺が普通の身体なら。
でも、マシンガンの弾丸を喰らっちまったから、出血で意識も朦朧としていたし、身体も思うようには動かなかったのさ。
ただ、敵の捕虜になったままで終わりたくはねぇ。
健達の足を引っ張る事は俺の沽券に関わる。
死ぬ時は1人で逝く。
そう決めていた。
本部の外まで何とか這い出て、奴らに此処の入口を教えるんだ。
それを最後の任務だと思って、俺はひたすら這って行く。
もう立ち上がる力などねぇ。
捕虜として死ぬよりは、例え余命を縮めようとも俺は這い上がる。
人質として死ぬなんて、絶対に俺のプライドが許さねぇ。
変身は解かれたが、俺は最期の瞬間まで科学忍者隊G−2号、コンドルのジョーだぜ。
もう仲間達に託すより手はねぇようだ。
悔しいがよ。
捕虜として死ぬ事だけはごめんだ。
俺は自分を挟むように俺を引き摺っていた敵兵から隙を見て銃を奪い、両足を撃って動けなくした。
そして、部屋を飛び出した。
足が縺れ、力が入らず、まともには歩けなかった。
すぐに床へ倒れ込んでしまったが、仲間達への希望を繋ぐ道だと信じて、俺は這い進んだ。
脱出寸前に更に弾丸を受けていて、俺の身体はもうボロボロだった。
動けるのが奇跡だったが、恐らくはあの妙な注射のせいだろう。
行ける処まで行ってやる。
ブレスレットが壊された以上、通信手段はねぇ。
直接伝えるしかねぇんだ。
血を喀いてその痕跡を残しながら、俺は進んだ。
俺が残した痕跡により敵兵に見つかった時の為に、奪った銃を腰に差したままで。
一歩一歩は小さいけれど、亀はウサギに勝ったんだぜ。
俺はきっとやって見せるさ。
地球を奴らの思い通りにはさせられねぇ。
健……。
もう俺にはおめぇ達に託すより手がねぇんだ。
この手で、と思ったが、カッツェも仕留め損ねた。
悔しいぜ。
心残りだぜ。
だが、仲間がもうそこまで来てくれている。
救いの神とはこの事さ。
これで俺は無駄死にをしないで済むんだからな。
感謝するぜ。
例え俺の身体が朽ち果てたとしても、魂はおめぇ達の傍にある。
おめぇ達に本部の入口を教えたら、俺の任務は終わるが、その後もしつこく魂になって付いて行くぜ。
カッツェの最期を見届けてやりてぇからな。
その時、健達の力を借りて、俺の本懐は漸く遂げられるのさ。
自分の力でやりたかったが、思ったより力尽きるのが早かった。
情けねぇが、病気のせいもあったし、仕方のねぇ事さ。
俺の生きた証として、この血痕すら愛おしく感じる。
こうして痕跡を残しながら、俺は仲間の元へと道を作って行く。
時折血を喀く事なんか、もうどうでも構わない。
これだけの傷を受けていたら、そうもなるだろう。
やがて鉄製の階段が見えて来た。
これを上れば入口に到達する筈だ。
随分先が長そうだ。
普段の俺なら数秒で上がる処を時間を掛けて腕の力だけで上って行った。
これを上り切れば、希望が待っている。
希望即ち仲間達の存在だ。
俺の大切な仲間。
そんな事は1度たりとも口に出した事はねぇが、俺はずっとそう思って来た。
おめぇ達が俺の分まで闘って勝利を勝ち取ってくれるに違いねぇ。
俺はただそれだけを信じて、1段1段を確実に上って行くのだった。
先はまだ長いが、必ずそこに希望の光がある。
俺はただそう信じて、力の限り、上り続けた。
時々失せそうになる意識を無理矢理引き戻しながら……。
希望はやがてこの手に……。
きっとこの手に……。
絶対にやって見せる。
健……。
待っていてくれ。




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