『占い師・如月(前編)』

「怪しい占い師が荒稼ぎしているらしい、って本当か?」
ジョーが『スナックジュン』で色めき立っていた。
「怪しいかどうかは解らないわ。
 カリスマ占い師と呼ばれているの。
 当たるんですってよ。
 私も視て貰おうかしら?」
ジュンは夢見る乙女の顔になった。
「つまりはあれか。健との間が上手く行くかどうか…」
ジョーは甚平と顔を見合わせた。
「その…やめておいた方がいいんじゃないかな?」
甚平が恐る恐る言った。
「もし、悪い結果が出たら、お姉ちゃんもうやって行けないんじゃないの?」
「希望は持っていた方がいい。俺もそう思うぜ」
「甚平。明日の朝、整理券を貰って来て頂戴」
「ええっ?」
「整理券が必要な程、並ぶのよ。
 ニューウラジュクの『如月』と言う占い師は、そこら辺で訊けばすぐに教えてくれるわよ」
「キサラ、……ギ?」
ジョーは『キサラギ』と言う言葉が発音しにくいようだった。
「ジョーの兄貴、だから『キサラギ』だってよ!」
甚平が不満そうな顔をして言った。
「そのキサラ…が良く当てるってのか?
 ギャラクターが何か企んでいるんじゃねぇのか?」
「もう〜、ジョーったら何でもギャラクターに絡めて考えるのね。
 そうだ!貴方も視て貰いなさいよ!」
ジュンが良い事を思いついた、とばかりに両手を打った。
「馬鹿言え!どうして俺が占い師なんかに……」
「いいじゃない、『占い師如月』は相当な美女だって言う話よ」
「そんな事言ったって、俺が乗ると思うのか?」
「占いの費用は1万円ですって!
 じゃあ、明日甚平と2人で並んで整理券を取っておいてね!」
ジュンはさっさと話を決めて、仕入れへと出掛けてしまった。
「どうして俺まで巻き込まれるんだ?」
「おいら達が行くのを反対したからじゃない?」
「くそぅ、何だって俺が占い師キサラとやらに…」
「だからキサラギだってば!」
「そんな事はどっちでもいい!俺には関係ねぇ事だ」
「駄目だよ、お姉ちゃん1度言い出したら聞かないんだから。
 ジョーの兄貴だって、『デーモン5』のコンサートに付き合ったじゃないか」
「あれはよ、健もいたし、仕方なくよぉ……」
「決めた!兄貴も誘おう!」
「馬鹿野郎!それはやめた方がいい。
 ジュンとバッティングさせてどうするんだ?」
ジョーの言っている事は的を射ている。
「じゃあ、ジョーの兄貴だけでも付き合うんだね〜」
「くそぅ!」
ジョーは悔しげに舌打ちした。

整理券を取っても、占いまでにはかなり待たされた。
そして、並んでいるのは女性ばかり。
背が高いジョーは嫌でも目立った。
時間を見計らってジュンが甚平と交代にやって来た。
「お姉ちゃん、ずるいよ〜」
と言いながらも、甚平はホッとしたように整理券をジュンに手渡す。
「開店準備宜しくね〜!」
と手を振るジュン。
「おいおい、いくら何でも可哀想じゃねぇか!」
ジョーが呆れた。
「大丈夫よ、帰りに有名パティシエのケーキを買って行くわ。
 それでご破算よ」
「そんな単純なもんかね?」
ジョーは呆れて見せた。
「じゃ、俺もこの辺で…」
壁に寄り掛かっていたのを弾みを付けて離れようとした処を、ジュンに思いっきり足を踏まれた。
「いてっ、おいっ!」
「ジョーも一緒に占って貰う約束だったでしょ?」
「完全に俺だけ浮いてるじゃねぇか…」
ジョーは不貞腐れた。

先に視て貰ったジュンはニコニコ顔で出て来た。
「忍耐強く待て、ですって」
ハートマークでも付きそうな言い方だった。
「そりゃあ、良かったな…」
逃げ出そうと思えば逃げ出せた。
だが、ジョーは占いを終えて出て来る若者達の目つきが気になって残っていた。
また彼の嫌な予感が何かを嗅ぎ取っていた。
「さあ、ジョーの番よ。
 如月さんは本当に綺麗な方だったわ」
ジョーはジュンに背中を押されて、無理矢理部屋の中に押し込まれた。
そこは不思議な空間だった。
アロマの香りがして、暗い部屋の中を光が揺らいでいた。
そう言った装置を使って演出をしているらしい。
この空気は吸わない方が得策だとジョーは思い、咄嗟に出来る限り息を止めた。
中央の大きなテーブルに女性がスポットライトを浴びて座っている。
ジュンが言ったように美しい女性だった。
長く木目細かく艶のある美しい黒髪を垂らしていた。
「いらっしゃい。如月と申します。
 男性がいらっしゃるとは珍しい事」
「いや、その…無理矢理に……」
話す時だけは呼吸をせざるを得ない。
会話は最低限にしたかった。
「さっきのお嬢さんね。貴方の恋人ではなさそうだけど…」
「そ…そりゃあそうですよ!」
「貴方はおモテになりそうだけど、最近辛い別れをなさったわね」
ジョーは如月の言葉に固まった。
「まあ、お座り下さい」
勧められるままに如月の正面に座ってしまった。
「キサラ…さん?そんな事まで解っちまうんですか?」
ジョーの戸惑いが相手に敏感に伝わった。
「貴方はこの後、様々な運命に翻弄されます」
如月の眼が妖しく光った。
彼女の前には大きな球形のキャッツアイがあり、本物の猫の眼のような不気味さを醸し出し、怪しげな光を発していた。
その光を見た時、ジョーは全身に痺れが走ったような気がした。
(こいつを見てはまずい……)
ジョーは必死に目線を逸らそうとしたが、眼が引き付けられるようだった。
彼は強い意志の力でそれを辛うじて避けた。
相手もジョーのその様子には気付いたらしい。
如月の眼光が鋭くなった。
ジョーは悪い予感が当たった、と思った。
この如月は偽者若しくは最初から存在しない人間だ!と看破した。
咄嗟にその場にあった本を投げつけたが、やはり如月はカッツェの変装だった。
姿はそのままだが、声がカッツェの物となった。
「この若造、只者ではないな?」
そう言いながら、投げた本はさらりと交わされた。
そして、何かが目映い光を放ち、爆音がして、カッツェは姿を消した。

占い館から出て行ったジョーは、待っている者達に、
「キサラ…とやらは急病だそうだ。俺も視て貰えなかった。
 嘘だと思うなら中を見てみな。もう誰もいやしねぇ」
と告げた。
辺りを見回してもジュンは既にいなかった。
普通なら自分から誘ったのだから待っている筈だ。
ジョーはすぐさま南部博士に連絡、事情は甚平に訊くように言った。
「ジュンは洗脳されているかもしれません!」
そして、怪しい特殊なキャッツアイを破壊しないと皆の洗脳は解けない、自分はこのまま追うから、健達にジュンを頼みます、と南部博士に告げた。
「若者達の暴動も心配です」
『解った。そちらは健達に任せよう。
 ジョー、1人で大丈夫か?』
「ジュンがギャラクターに取り込まれたとなったら、此処は俺1人で対処するしかありません。
 それにキサラ…何とか言う占い師は、殺されているか、どこかに監禁されているものと思われます」
『実在すると言うのかね?』
「かなり前から話題に上っていましたし、カッツェがそこを利用して擦り替わったと考えるのが妥当だと思います。
 だとすれば、彼女も助け出さなければなりません」
『気をつけたまえ。ジュンは何としても健達に探し出させる』
「ラジャー。とにかくあの特殊なキャッツアイを俺は破壊します」
ジョーには当てがあった。
カッツェの部下を1人締め上げて、カッツェの行き先を聞き出していたのである。


※このストーリーは、kisara様のホームページ開設のお祝いに捧げます。
 連載になってしまい、申し訳ないです。(^_^;




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