『占い師・如月(後編)』

ジョーはギャラクターの隊員から聞き出した古代遺跡に向かって、バードスタイルになってG−2号機を飛ばした。
「若者を煽動して一体何をするつもりだ?ベルク・カッツェっ!」
ジョーは悔しげに唇を噛んだ。
ジュンがどうなっているのかも気になる処だ。
『こちら南部。G−2号応答せよ』
「こちらG−2号、どうぞ」
『ジュンが発見された。若者達を先導して、バスをジャックし、ISOに向かっているようだ』
「何てこった…」
『今、健達が催涙ガスを使って動きを止めようとしている処だ。
 ジョー、君はどこに向かっているのかね?』
「残っていたギャラクターの兵士を締め上げて、カッツェの居場所を吐かせました。
 場所はAG−48地点の古代遺跡です。
 今、全速力で向かっています」
『そうか。暴動を抑えたら、健達も応援に向かわせる』
「ラジャー」
ジョーは山道を最大時速で走った。
やがて目標の古代遺跡が見えて来た。
ギリシャの雰囲気を漂わせる、何とも魅惑的な場所だった。
幻想的とも言える。
今回の事件にはピッタリな気がした。
「こんな所を基地にしやがって。
 古代遺跡を破壊しなければならねぇかもしれねぇぜ」
ジョーはG−2号機からヒラリと下りて、両拳をギュっと握ると、中に入って行った。

中は異様に静かだ。
騙されたのか?
そう思った時に、1つの影が見えた。
その影はマシンガンを持っている。
やはりギャラクターだ。
ジョーは影に向かって跳躍し、重いキックを入れた。
敵は悶絶して倒れ、マシンガンが勝手に咆哮した。
その物音は仲間達を集めるのには充分だった。
ギャラクターの隊員達がわらわらと現われた。
ジョーは駆け出して、敵兵を長い脚で蹴り回した。
素晴らしい脚力だ。
それだけの動きをしても眼が回らない。
三半規管が優れているのだ。
回転を終えると、もう既に羽根手裏剣を繰り出していた。
的確に羽根手裏剣が敵の腕や手の甲を貫いて行く。
中には喉笛を突かれた者もあった。
ジョーは敵兵を切り拓きながら、先へと進んだ。
「ベルク・カッツェ!何処にいやがるっ!」
と言いながら、1つの扉を蹴り破った。
そこには美しい黒髪の女性がいた。
チャイナドレスを着た如月だ。
生きていたのか…?
如月は猿轡をされて、後ろ手にロープで縛られていた。
「あんた、運がいいぜ。
 ギャラクターのやり方は大体惜しげもなく相手を殺すからな」
まずは猿轡を外してやりながら、ジョーは言った。
「私が私を殺せないように強い念を送ったのです」
強い目線で如月が答えた。
この眼でカッツェを威圧したのだろう。
だが、瞳の表情を和らげると優しげな柔らかい顔つきになった。
これが普段の彼女の顔だろう。
本物の如月はカッツェの変装した姿よりもずっと透明感があって美しかった。
気品がある。
ジョーは正直にそう思った。
ロープを優しく解き、「歩けますか?」と訊いた。
「ええ、大丈夫です」
ジョーは如月を守りながら中枢部へと進み、任務を完了しなければならなかった。
あの怪しげな大きなキャッツアイを破壊しなければ若者達の洗脳は解けない。
ジョーは行きがてら、如月にその事を説明した。
「何と酷い事を……」
如月は絶句した。
「キサラ…さん。この先は危険かもしれません。
 ですが、俺は1人で来ている。
 貴女を置いて行く訳には行かないし、このまま一緒に行って貰うしかないんだ」
「大丈夫。気にしないで行って下さい。
 私も絡んでいる事なのですから」
如月は気丈にもそう言った。
本当なら怖くて脚が竦む筈だろう、とジョーは思って、如月の細い脚を見た。
ガタガタと震えていた。
一旦G−2号機に連れ帰った方が得策だと思った。
二度手間になるが仕方がない。
「キサラ…さん。一旦外に出ましょう。
 やはり貴女を連れて行くのは危険過ぎる」
「でも、一刻を争うのでしょ?それなら行きましょう。
 私には構わないで下さい」
如月はジョーの背中を押した。
「後悔、するかもしれませんよ?」
ジョーは優しく笑って見せたが、バイザー越しで如月には解らないかもしれない。
だが、如月にはそれが見えていたようだ。
「大丈夫です。貴方ならきっと私を守ってくれる。
 そして若者達を助けてくれます!」
彼女はそう言い切った。
ジョーは頷くと左手で如月の手を引いて走り始めた。
唇には羽根手裏剣、右手にはエアガンが握られていた。
やがて、如月が立ち止まった。
「キャッツアイはこの近くにあるわ。
 『気』を感じます。邪悪な気…」
ジョーは周囲を見回した。
「あそこだ!」
大きな扉が前に見えていた。
そこがこの基地の中枢部だろう。
ジョーは扉を身体毎体当たりして突き破った。
中には透明な大きなケースに入った水晶玉大のキャッツアイが設置されていた。
それに向かって紫のマスクのベルク・カッツェが何やら怪しい呪文を唱えていた。
若者達はカッツェによって操られていたのだ。
コンドルのジョーの闖入に、カッツェは呆気に取られて、呪文を唱えるのをやめた。
敵兵がジョーに襲い掛かって来たが、ジョーは如月を背中に庇いながら、身を低くして敵兵を纏めて足払いし、混乱に陥れた。
その間に羽根手裏剣を乱舞させ、華麗なテクニックで的確に敵兵の喉を貫いて行った。
「カッツェ!若者達を操って、ISO本部を襲わせようとは何て汚ねぇ奴だ!」
ジョーはペンシル型爆弾を取り出し、眼にも見えないスピードで、キャッツアイに向かって投げつけたが、外側の透明なケースが防御の役割をして跳ね返された。
跳ね返ったペンシル型爆弾が爆発を起こした。
ジョーは咄嗟にマントで如月を守った。
「大丈夫ですか?」
「ええ、有難う…」
「くそぅ。強化ガラスを使っていやがる!」
ジョーは辺りを見回した。
水晶玉大のキャッツアイをその中に入れた時のスイッチがどこかにある筈だ。
敵兵と闘いながら、それを見定めた。
……あった!
カッツェの足元だ!
ジョーはそれを狙ってエアガンを発射した。
カッツェが飛び退いた。
狙い違わず、スイッチが押され、透明ケースが左右に開いた。
ジョーは再度ペンシル型爆弾を投げつけ、今度はキャッツアイの破壊に成功した。
「南部博士。キャッツアイの破壊に成功しました!」
ジョーは短く通信をすると、更に敵兵との肉弾戦を演じた。
キャッツアイを爆破された時点で、ベルク・カッツェは消えていた。
「くそぅ。カッツェめ!」
ジョーは呻いたが、後の祭りだった。
とにかくエアガンのバーナーで、この部屋にあるコンピューターを焼き切って回った。
爆破をすると古代遺跡まで破壊してしまう事になる。
その位の知恵はジョーにもある。
コンピューターを使用不能にすると、ジョーは如月の手を取って、脱出を始めた。
敵兵がまた襲い掛かって来たが、先程までとは勢いが違った。
この基地のコンピューターはもう使い物にならない。
自分達が形勢不利である事は良く解っていたのだ。
既に部下を見捨てて逃げ出したカッツェに命令され、仕方なくジョーを襲っているに過ぎない。
彼らは及び腰で、敢えて完膚なきまでに倒す必要はない、とジョーは考えた。
そうして、如月を連れて、ジョーは古代遺跡の外へと無事に脱出した。
ゴッドフェニックスが上空を飛んで来ていた。

「ジュンは元に戻ったのか?」
ジョーの問いに、ジュンが前に出て来た。
「ごめんなさい。ジョー。貴方、途中から怪しいって気付いていたのね」
「ああ。怪しい臭いがプンプンしていた。
 俺の嫌な勘はどう言う訳か当たるからな」
「ジョーのお陰で若者達も正常に戻った」
健がジョーの肩を叩いた。
「この方が本物の如月さん?」
ジュンが問うたので、ジョーは黙って頷いた。
「本当に綺麗な方……」
ジュンがうっとりと如月を眺めた。
スラリと背が高くて、ジョーと並んでいると意外にも良く似合っていた。
ジョーに黒髪の女性が似合うとは、科学忍者隊のメンバーも少し驚いていた。
如月は擬態を解いたG−2号機でフルフェイスのヘルメットを被ったジョーに送って貰う事になった。
別れ際に彼女はハッとした。
ジョーの背中に背負わされた運命が彼女には全て見えたのだ。
その重さに愕然としたが、如月は口にはしなかった。
その代わりに、「助けてくれたお礼に…」とそっとキラリと輝くペンダントを差し出した。
「男の人はこう言った物を身につけないでしょうけれど。
 ポケットにでも入れておいて下さい。
 少しは魔除けになるでしょう」
如月は微笑んだ。
「キサラ…さん?」
「最後まで『キサラギ』とは呼んで下さらなかったわね。
 イタリア人の貴方には発音しにくかったのかしら?
 でも、いいわ。
 新しい道を歩み始める為に、私はkisaraと改名して出直します。
 貴方が名付け親ですよ。
 それだけ今回の事件を重く受け止めています」
「kisaraさん。あんたは強い人だ。
 そして何でも見分ける強い力を持った人だ。
 俺の未来を占って貰うつもりはねぇが、もしその気になったら訪ねて行くぜ」
ジョーはそう言ってG−2号機へと乗り込んだ。
走り始めるとヘルメットを外して、溜息をついた。
綺麗な女性だった。
少し年上のミステリアスな存在だったが、kisaraと言う占い師の存在はきっと忘れないだろうと思った。




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