『砂漠の街(2)』

「どうする?健!敵よりも上昇するしかねぇんじゃねぇのか?」
「そうだな。どちらが上まで行けるかだ。
 竜、垂直上昇!」
「ラジャー!」
「奴らが大気圏外まで抜けられるような奴だと厄介だぜ」
激しい衝撃に耐えながらジョーが呟いた。
「白兵戦に持ち込もう。
 チャンスを狙って接近し、俺とジョー、ジュン、甚平であの飛行空母に飛び移る」
竜が留守番なのは仕方なかった。
空の遥か彼方上空の事である。
ゴッドフェニックスを乗り捨てて行く訳には行かない。
「竜、その間はゴッドフェニックスを守って持ち堪えていてくれよ」
「解っとるわい。みんな、気をつけて行け」
「よし、敵の飛行空母のどこから侵入出来るか、まずは検討だ」
飛行空母は円盤のような形をしていた。
乗り込み口は真下にあるようだが、彼らを歓迎して開けてくれる筈もない。
円盤の周囲が刃のようになっていて、ぐるぐると回転していた。
そこがミサイル発射装置になっているのだ。
「あの刃をコンドルマシンで打ち砕いてやる。
 回転出来なくなるに違いねぇ。
 そこから侵入したらどうだ?」
ジョーが黙考した後、腕を組んだままの状態で言った。
「そうだな。ジョー、頼めるか?
 バードミサイルでもいいが、それにはこの街から引き離して海上に連れ出さねばならん。
 街に危害が及ぶ可能性があるからな」
「それなら先に海上へ誘き出す方がいいだろうよ。
 どちらにせよ、侵入して中から爆破する事になるに違いねぇだろう?」
「それもそうだな」
健も頷いた。
「竜、反転旋回。敵を海上に誘き寄せる。
 ジョー、バードミサイル発射準備」
「ラジャー。いつでもOKさ!」
ジョーは勇躍赤いボタンの前に立った。

バードミサイルの狙いは違う事なく、ジョーが言った回転刃(やいば)に命中し、その回転を止めた。
ミサイルの発射口が1つ塞がれたが、勿論これで全部ではない。
「よし、行こうっ!」
竜を除く全員がトップドームへと上がった。
「竜、回転が止まっている。
 上手く乗り込みやすい位置に近づけてくれ」
健がブレスレットで指示を出した。
『ラジャー』
竜の明快な返答があり、竜は正確に仲間達が飛翔出来る位置へとゴッドフェニックスを近づけた。
「GO!」
健が叫んで、4人は敵の飛行空母へとマントを使って華麗にそして軽快に乗り移った。
ゴッドフェニックスは旋回してその場を離れた。
その間にも動かなくなったミサイル発射口からミサイルは発射された。
竜が上手く交わしてくれる事を祈りつつ、4人は中へと侵入した。
「ギャラクターが『ヒヤリウム005』を強奪する事を目論んでいるのであれば、街ごと破壊するとは思えない。
 地下から既に何かの仕掛けをしているかもしれない。
 その場合には、この飛行空母型メカ鉄獣を破壊した後、地下にある基地を破壊しなければならないかもしれないぞ」
健が言った。
「ああ。恐らくはそうなる事だろうぜ」
ジョーも頷いて、
「とにかく事は迅速を要する。行こうぜ」
と皆を促した。
「ジョーは俺と司令室を急襲する。
 ジュンは甚平と機関室を爆破してくれ。
 此処なら海上だし、大丈夫だろう」
「ラジャー」
「ジョー、行くぜ!」
「ああ!」
2トップが動き始めた。

この2人のコンビはいつ見ても磐石だ。
恐れるものは何もない。
身体能力が伯仲しており、科学忍者隊随一の戦闘能力を誇る2人だった。
お互いの力を認め合い、信頼し合っている。
「円盤型だから解りやすいぜ。
 中央に向かって行けばいいんだからな」
ジョーが油断なく羽根手裏剣を飛ばしながら言った。
「ああ。急ごうぜ。
 お前の言うように、地下に基地があったら厄介だ」
「おうっ!」
2人の闘いは阿吽の呼吸とも言えるものだった。
健がブーメランを飛ばし、ジョーは羽根手裏剣と言う投擲武器とエアガンを使い分ける。
肉弾戦に切り替えるタイミングも同時だった。
互いに武器を使う時は相手を傷つけないようにしなければならない。
その辺りの呼吸がピッタリなのだ。
ジョーは倒立して敵兵の首を両足で挟んで、そのまま脚力だけで敵兵の群れへと投げ込んだ。
敵兵が巻き込まれて雪崩を起こしたように倒れ込んで行く中に、健が飛び込んで行く。
ジョーもそれに続いて、重いパンチを敵兵の鳩尾に決めて行く。
それと同時に長い脚を繰り出して、後ろ側の敵にも勢いのあるキックを決めていた。
健も敵に体重を掛けて勢い良く肘鉄を喰らわせ、どうっと音を立てて敵兵が倒れた。
2人の周りには、敵兵の山が出来ていた。
「よし、進むぞ」
「おう」
2人は息を切らす事もなく、前へと進んで行った。
その時、南部博士からブレスレットに通信が入った。
『君達が言っていた厄介な事が現実となった。
 地下モニターで詳細に調べた結果、水路の下に大掛りな広い空間が作られている。
 地下に基地がある事は間違いない』
「解りました。俺達は今、メカ鉄獣を海上に誘き出し、中に侵入しています。
 こっちを片付け次第、基地に向かいます」
『頼んだぞ。成功を祈る』
博士の通信は切れた。
「全く、仕事が増えるのは構わねぇが、この間にも水路の地下から『ヒヤリウム005』が奪われているかもしれねぇとなると、本当に厄介だ。
 とにかく急がなければならねぇ」
「ああ、そう言う事だ。ジュン、そっちの進捗状況はどうだ?」
健がブレスレットに話し掛けた。
『まだ機関室には到達していないわ』
「解った。南部博士からの連絡は聞いたな?」
『ええ』
「急いでくれ。こっちも急ピッチで任務を遂行する」
『ラジャー』
ジュンと甚平の声が重なった。

ジョーは率先して敵兵を切り拓き、健を司令室に向かわせる作戦を取った。
2人でコンビを組む時はこのパターンが多かった。
ジョーは元々、科学忍者隊の中では斬り込み隊長的役割を果たしている。
健は仲間達全体を俯瞰していなければならないからだ。
それがNo.2としての自分の役割だと思っていたし、自分の性分にも合っていた。
羽根手裏剣とエアガン、そして自分自身の肉体を駆使して、全身を武器に前へと敵を切り拓いて行く。
その手腕は健も充分に信頼し、ジョーにならその役割を任せられると思っていた。
「飛行空母の規模からして、そろそろ中心区域に入ったんじゃねぇか?
 敵の数も増えて来たしよ」
ジョーが言った時、2人は多くの敵兵にぐるりと囲まれ、背中合わせになった。




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