『砂漠の街(3)』

背中合わせになった2人は周囲の敵に油断のない視線を走らせた。
バズーカ砲を持った者が3人いる。
隊服の色がライムグリーンになっているので、恐らくはチーフ級の隊員なのだろう。
あの3人に要注意だな、と2人は黙して視線を交わした。
まさに暗黙の了解、お互いを理解している2人であった。
ジョーは目線で、
(あの3人は俺に任せろ)
と健に告げた。
健はジョーには勝算があるのだろう、と頷いてそれを受けた。
ジョーは意外と物事を考えている。
ただ熱いだけの男ではない事は、健が一番良く知っていた。
なかなかのアイディアを発揮して、科学忍者隊の窮地を救って来た人間でもあるのだ。
ジョーは3人のチーフの位置関係を正確に把握した。
3人は正三角形になる位置に立っていた。
ジョーはわざとその中心点となる場所に移動した。
つまりは一番標的になりやすい位置だった。
自らの身を餌としたのだ。
敵のバズーカ砲が火を吹いた刹那、ジョーは20メートルはあると見られる高い天井に向かって瞬時に跳躍し、その天井を脚で蹴った。
その勢いで身体を捻って反転し、羽根手裏剣を3本正確に飛ばした。
バズーカ砲は重さがあるので扱いが難しい。
その為動きが緩慢になる。
ジョーはそれを解っていて利用したのである。
バズーカの砲弾はそれぞれ宙を行き交い、味方を混乱の渦へと陥れた。
そして、その隙を利用して、健と2人、大いに肉弾戦を演じた。
硝煙の臭いが立ち込める中、2人の技が決まる度に敵兵が倒れて行く。
気持ちの良い程のスピード感溢れる活劇が演じられていた。
早回しの映画のアクションシーンのように、彼らのスピードアクションが展開されて行く。
バードスタイルはそのマントの力で、彼らを飛翔させ、素早い動きを更に敏捷にする。
元々の身体能力も物を言ったが、彼らはバードスタイルでの戦闘訓練をこなした事で、生身の強さを益々生かす事に成功したのだ。
「科学忍法ランダムフライ!」
健の掛け声で、2人は自由に飛び回って、敵兵を翻弄した。
以前メガザイナーが登場した時に5人で行なった技だが、2人でも充分に相手を混乱させる事が出来た。
敵は彼らのどこに狙いを付けたら良いのかが全く解らないのだ。
天井が高い為に室内でも出来る技だった。
ジョーは飛びながら、羽根手裏剣を撒き散らした。
勿論、無計画にではない。
自分が激しく動きながらも、キッチリと的確な狙いを定められる。
彼の動体視力は本当に大したものだった。
1人に1本ずつ、見事に羽根手裏剣が決まって行った。
全く1本も無駄にしていないのだから、その技には恐れ入る。
その間に健は「バードランっ!」と叫びながら、ブーメランを周回させている。
ジョーは真逆で気合を発するのみで闘って行く。
闘い方の個性はそれぞれ違ったが、2人のコンビネーションで危機は脱した。
「よし、行くぜ。ジョー」
「ああ。そろそろ司令室がある筈だぜ」
2人は足並みを揃えて、風のように走った。
敵兵が所々で現われたが、最早2人の敵ではない。
既に最大の危機を逃れて来た。
後は司令室での闘いが待っている。
そして、中枢部を爆破すればいい。
ジュンと甚平も機関室に爆弾を仕掛けている頃だろう。

やがて機械音が一際大きな部屋を見つけた。
「此処だな」
 ジョーは体当たりしたが扉はびくともしなかった。
「バーナーで焼き切ってやる」
ジョーはエアガンのキットをバーナーに交換し、扉を丸く焼き始めた。
「健、暫く持ち堪えていてくれ」
「俺に構うな」
健は襲い掛かって来る敵と1人で闘いを続けた。
扉は随分と重厚に出来ており、破るのに時間が掛かった。
その間健は1人で闘っていた。
健の武器ではこの扉を破れない。
この際仕方がなかったのだ。
ジョーも健なら大丈夫、と安心している部分があり、頑丈な扉を焼き切る事に集中した。
だが、やがて闘っている健の後ろでバズーカ砲がまさに火を吹こうとしていた。
また別のチーフ級の隊員が現われたのだ。
ジョーはその気配で一瞬早くそれに気付いた。
「健!危ねぇっ!」
ジョーは咄嗟に健に体当たりをして彼を突き飛ばし、羽根手裏剣でバズーカ砲を撃つ敵のチーフの腕を貫いておき、自分のマントで健と自分の身体を覆った。
敵兵が巻き込まれて何人も吹き飛んだ。
ジョーが顔を上げると、健を狙ったバズーカ砲が、奇しくもジョーが焼き切ろうとしていた扉を破ってくれていた。
既にジョーが円の3分の2程をバーナーで丸く焼き切ってあったので、バズーカ砲がそれを突き破る役割を果たしてくれたのだ。
これは偶然の産物だったが、有難ぇ、とジョーは思った。
「健、大丈夫か?!」
「ああ、済まん…」
健は頭を振って起き上がった。
「ジョーこそ、怪我はないか?」
「ああ。俺は大丈夫だぜ。
 上手い事、てめぇらで入口を作ってくれやがったな。
 ようし、行くぜ、健!」
「ああ!」
2人はその穴から司令室へと踊り込んだ。
するといきなり聞き慣れたあの声が部屋に響き渡った。
「ハハハハハハ!良く来たな、科学忍者隊。
 此処まで来たとは褒めてやってもいい。
 最高に熟練したチーフ達を配備したのに、それを撃ち破って来たのだからな。
 やはりガッチャマンとG−2号・コンドルのジョーは無敵のコンビらしいな。
 味方に欲しい位だ……。
 我が兵士達は何とも不甲斐ないからな」
カッツェの甲高い耳に障る声が聞こえた。
「やっぱり居やがったか?カッツェめ……。
 ちょっとお喋りが過ぎるんじゃねぇのか?」
ジョーが憎々しげに睨みつけた。
「カッツェ!『ヒヤリウム005』を奪い取って何を計画しているのかは知らんが、貴様らのメカ鉄獣の材料にされる訳には行かんのだ!」
健が腕を伸ばしてカッツェを指差した。
「ふふふ、だが、既に運び出しは始まっているぞ」
カッツェが愉快そうに笑った。
「けっ!必ず阻止してくれるぜ」
ジョーは言うが早いか、高く高くジャンプしてカッツェの周囲を守る敵兵の中へと勢い良く突っ込んで行った。




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