『砂漠の街(4)』

敵陣の中に勢い良く飛び込んだジョーは、「うぉりゃ〜!」と気合を発しながら、羽根手裏剣の切先を使って、敵の仮面を切り裂いて回った。
彼が通り抜けた後にはドサドサと敵兵が倒れて行く。
健も負けてはいない。
しなやかな肉体を使って、自由な動きで敵を凌駕して行く。
2人の闘い方は違うのだが、確実に実力は伯仲しており、甲乙付け難い。
それぞれの武器を逆に持たせたら、その差は歴然と出るのであろうが、彼らは自分の武器とその肉体を一体化させて、縦横無尽に闘って見せる。
誰にも自分の武器の取り扱いで負ける事はない。
羽根手裏剣は全員に持たされた武器だが、好んで使うのはジョーのみだった。
子供の頃からダーツに秀でていた。
これは射撃に通ずるものがあるのだろう。
羽根手裏剣と射撃の名手である科学忍者隊のG−2号ことコンドルのジョーは2つの武器と自らの肉体を完璧な武器として使用する為、敵に恐れられていた。
ガッチャマンこと健も同様であるが、彼には時々甘さが見られた。
実際には1度怒らせると怖いのは彼の方であるのだが…。
ジョーは側転をしながら唇に咥えた羽根手裏剣を放ち、左手を着いた瞬間にエアガンを抜いて撃っていた。
自らが動きながらも動く敵を射抜く、その技は神業と言ってもいい。
オリンピックの代表選手に選ばれれば、確実に金メダルを獲得出来るだけの技術を彼は持っていた。
その事はあの『国連軍選抜射撃部隊』の隊長である、レニック中佐が認めていた。
だから彼はジョーを自分の配下に欲しがったし、それは無理だとしても、いつかは射撃の選手にならないか、とスカウトしに来た事もあったのだ。
レーサーと射撃選手、両立出来ない事はない、と言うのがレニックの言い分だった。
それ程の腕前を惜しげもなく、ギャラクターの前で披露しつつ、ジョーは更に回転して長い脚を繰り出した。
バレリーナのようにクルクルと回ると、彼が回った分だけ敵兵が薙ぎ倒されて行った。
ジョーの回転は斜めに回っている刃(やいば)のように見えた。
それ程に早く正確な素晴らしい回転だった。
ひと段落した処で、ジョーはカッツェを護衛するかのようにカッツェのすぐ横に立ってマシンガンを手にしていた敵兵を、言葉を発する余裕も与えずに、瞬時に喉に凄まじい蹴りを入れて倒した。
意識を取り戻して起き上がれたとしても、当分は呼吸が困難になり、話す事も出来ないに違いない。
それを見て怯えるように紫のマントを翻したカッツェの前には、健が白いマントを華麗に舞わせて仁王立ちしていた。
「また部下を見捨てて逃げるのか?カッツェ!」
健の眼は激しい怒りと憎悪に満ちていた。
あの父親との悲劇の別れは、この男が引き起こしたものだ。
せめてあれがコンピューター制御で、有人ロケットでなければ…とジョーですら考える事がある。
カッツェを自分の手に掛けたい、と思っているのはジョーも同じだった。
そして、その前にあの紫の仮面を剥いで、素顔を晒してやりたいとも思っていた。
ジョーはカッツェが自分の両親を直接手には掛けていないとは言え、その暗殺を指示していた事実は知っている。
彼自身も殺され掛けたのだ。
南部博士に救われなかったら、自分は今頃生きてはいない。
ジョーは周囲に羽根手裏剣を正確に飛ばしながら、健と向かい合い、カッツェを挟み撃ちする形を取った。
「さあ、カッツェ。万事休す、だな。
 ガッチャマンも俺もてめぇにはちょいと私怨があってな…」
ジョーはエアガンを構えてニヤリと笑った。
凄みのある笑いだった。
健よりもジョーの方がカッツェに対しては積年の恨みがある。
その時、眼の前から突然カッツェがするりと消えた。
いや、ジョーの動体視力が優れている眼には残像が一瞬残った。
カッツェが立っていた場所がエレベーターのようになっていて、瞬時にそこに鋼鉄の蓋がなされたのだ。
「くそぅっ!カッツェめ!」
健は悔し涙を浮かべそうな表情になりながら、その鋼鉄の蓋をガンガンと踏み付け、歯噛みをした。
「健、悔しいのは俺も同じだ。
 だが、今はこの司令室を爆破する任務が先だぞ」
ジョーは落ち着いていた。
早速ペンシル型爆弾を取り出して、あちこちに羽根手裏剣を投げる要領で確実な場所へと投げつけていた。
健はマキビシ爆弾を手際良く取り出して、纏めて右手に持ち直すと、メインコンピューターへ放った。
2人は爆発から自身を守る為に、マントで身を守りながら伏せた。
そして、それぞれがブーツの踵から時限装置付きの爆弾を取り出し、3分間にセットをして、お互いに部屋の反対側に貼り付けた。
その時、別の場所からの爆発音も響いて来た。
『こちらG−3号。機関室を爆破したわ』
「こちらもコンピューターの破壊に成功した。
 これでゴッドフェニックスへのミサイル攻撃が停まるだろう。
 3分後に司令室が完全に爆発する。
 全員ゴッドフェニックスに帰還せよ。
 帰還次第残り1発の超バードミサイルでこの巨大なメカを完全に撃破する」
『ラジャー』
健の指示に対する、ジュンと甚平の答えがブレスレットから聴こえた。
「竜!カッツェが逃げ出さなかったか?」
ジョーがゴッドフェニックスに残っている竜に訊いた。
『お主達がいる飛行空母メカのミサイル攻撃に遭って、それを交わしている間にロケットが飛び出して行ったのが見えたぞい』
「それだな…。そいつの行方は?」
『残念じゃが、レーダーからはすぐに反応が消えた』
ジョーは健と顔を見合わせてから、息を合わせて走り始めた。
「すぐに反応が消えたと言う事は、まだカッツェは砂漠の街の地下の基地にいるかもしれねぇな、健」
「ああ!」
「行こうぜ!どうやら俺達が司令室のメインコンピューターを爆破した事で自爆装置も作動したようだぜ」
ジョーは言葉で健の背中を押した。
脱出口は先程、ジョーがバードミサイルで破壊した回転刃の一部だった。
4人が揃った処へ、竜がゴッドフェニックスで拾いに来た。
4人は跳躍し、トップドームへと無事に飛び移った。
コックピットに戻ると、後はメカ鉄獣自身の自爆装置の発火を待つだけだった。
飛行空母型メカ鉄獣の残骸が海へと落下して行った。
「こうして地球の海は荒らされて行くんじゃわ…」
竜は溜息を1つ、零した。
竜の述懐も尤もだ、とジョーは思った。
毎回、メカ鉄獣の残骸は海や街中に降り注いでいる。
街には人々が生活している。
海の中にだって生物はいる。
自分達は敵を斃す為にやっている事だが、実際には巻き込まれている人々や他の生物がいるのだと言う事を、ジョー達はマンモスキャニオンで行なわれたカヌーでの任務の時に思い知らされていた。
海の男・竜の思いはまた格別だろう、とジョーは少し彼を思い遣った。
だが、『自分達がやらねば誰がやる?』と言う確固とした思いがある事も、また事実だった。




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