『砂漠の街(5)』

飛行空母型メカ鉄獣を撃破した科学忍者隊は、ゴッドフェニックスで砂漠の街から少し離れた場所へと着陸した。
そこで南部博士に連絡を取り、先程博士が調べたと言う地下の空洞の解析映像を送って貰った。
その空洞は街全体の地下に広がっていた。
厳密に言えば、勿論ただの空洞ではない。
映像を見れば一目瞭然、かなり緻密に通路が作られているように見える。
「ちぇっ、こりゃあ大規模だぜ、兄貴ィ…」
甚平が舌打ちをした。
「こんな物を作られて気付かねぇISOもどうかしてるんじゃねぇのか?」
ジョーが呟いた。
全く彼の言う通りだった。
あれだけの科学力を結集して、砂漠の街に水路を展開したのだ。
そこまでの事が出来たISOがこんな大きな問題を見逃していたとは、ザル警備だと言われても仕方がない。
どうして気付かなかったのか、ジョーが訝しがるのも当然の事だった。
「まあ、ギャラクターの事だからな…。
 上手くISOの裏を掻いたんだろう」
健がジョーの肩を軽く叩いた。
「とにかく、『ヒヤリウム005』を奪われる事は絶対に阻止しなければならん」
「ああ、解ってるぜ。
 だが、完成してから奪い取って行く辺り、ギャラクターも性質(たち)が悪いと言うか、それとも情報収集能力が乏しかったのか……。
 建造を始める前に材料の段階で奪って行った方が楽だったんじゃねぇのか?」
「ジョー、珍しく嘆くじゃないか」
「いや、別に嘆いてなんかいねぇさ。
 さっさと地下基地を叩いてやろうじゃねぇか」
「いつものセオリーからして、中枢部と動力室を探せば何とかなる筈だ。
 但し爆発の規模を抑えなければ街に被害が及ぶ。
 その匙加減はジュン、頼めるか?」
「解ったわ。任せといて。
 その辺りは現地に行ってみてから南部博士と相談しながらやってみるわ」
ジュンの頼もしい答えが返って来た。
「よし、全員で降り立つぞ」
「え?おら、留守番しなくてもいいの?」
健の言葉に竜が嬉しそうな顔をした。
声も心なしか弾んでいる。
「5人で行くのは当然だろ?
 ゴッドフェニックスで街の地下基地に突っ込む訳には行かねぇんだ。
 全員で隠密行動をするしかねぇのさ」
ジョーが竜を振り返って言った。
「まずは基地の入口がどこにあるか、だな…。
 全員で探るんだ。
 G−2号機からG−4号機まではゴッドフェニックスから分離して捜索してくれ」
「ラジャー」
そうして5人はゴッドフェニックスから離れ、バードスタイルを解いた。
街の人々は護衛の国連軍が撃破されたからとは言っても、普通に暮らしているのだ。
科学忍者隊は平服姿で市井に紛れ込んで探るしかない。
「何かあったらすぐに連絡する事。
 ジュンと甚平は行動を共にしてくれ。いいな」
健の言葉を合図に、5人はそれぞれの方向に散った。
健と竜はメカを使えないので、一番そこから近い地域を当たる事になった。

ジョーはストックカーの擬態に戻ったG−2号機で、街の外側からゴッドフェニックスの位置とは反対方面へと走った。
G−2号機は悪路走行性が高いので、砂漠にタイヤを取られる事もなく、最大時速を出しながら、目的地へと到着する事が出来た。
砂漠の街はジープで1周しても2時間程で回れる小さな街だ。
G−2号機ならあっと言う間に半周する事が出来た。
そこからは街中を逆走しながら、探って行く事になる。
ジョーはまず街の外側から辺りを俯瞰した。
勿論、此処まで走って来る間にもそうしたのだが、定位置に停まって観察するとまた違って見えて来る
双眼鏡を手に、彼は街中を見た。
彼のいる場所の比較的近くに、高層ビルが立ち並んでいる区域があった。
この街はこちら側が中枢部になっているのだろう。
中央に中枢部を置かなかったのは、水路の編成の問題でもあるのかもしれない。
ジョーはその高層ビル群をじっと観察した。
新しく作られたばかりの街だ。
街として機能し始めて間もない。
まだオープニングセレモニーも開催されていなかったのだ。
そのような新しい街なら、こう言ったビルの中に地下へのエレベーターが設置されている可能性があると彼は見た。
高層ビルの数を数えると目立つ物だけで12個のビルがあった。
それぞれの位置は双眼鏡で見る限り、それ程離れてはいない。
効率良く探れそうだ、とジョーは思った。
双眼鏡を後部座席に投げ込んで、ジョーはアクセルを踏み込んだ。

まずは一番目立つ塔のように高いタワービルを目指した。
(こう言う建築物には仕掛けがし易いからな…)
ジョーは鋭い勘でそう言った事を嗅ぎ分ける。
エレベーターの前に立ってみる。
行き先表示は地下3階までとなっているが……。
(取り敢えず地下3階まで下りてみよう)
ジョーはエレベーターではなく、階段を使って駆け下りた。
念の為に用心したのである。
地下3階に降りると、案の定『職員用』のエレベーターがあり、更に下に降りられるようになっていた。
一般人は使用出来ないようになっていて、IDカードを翳す事で乗り込めるシステムになっていた。
ジョーは誰かの話し声を耳聡く聞き取って、階段室へと隠れた。
エレベータに作業服を着た男2人が乗り込もうとしていた。
ジョーは乱暴かと思ったが、軽い催眠ガスをエアガンで天井に向かって発射した。
自分は息を止めておきながら、素早くそのエレベーターに乗り込んだ。
驚く程長い時間、エレベーターは作動している。
このエレベーターにはボタンが無かった。
ジョーはそれを見て此処が基地の入口だと確信した。
(当たりだな…。一番目立つビルを入口にしているとは、ギャラクターも迂闊な奴らだ…)
健達に連絡するには、実際にギャラクターがいる事を確認してからにしなければならない。
万が一間違っていた場合、仲間に無駄な行動をさせる事になり、その分時間を有効に使えなくなるからだ。
「バード・GO!」
ジョーは監視カメラがない事を確認して、虹色の光に包まれながらエレベーターの中でバードスタイルに変身した。
やがてエレベーターはガタリと揺れて、最下階へと到着し、ドアが自動的に開いた。
ジョーは辺りを窺いながら、そっと足音を立てずにエレベーターから降りた。
壁に隠れて覗くと、見慣れたギャラクターの隊員服の足元がチラリと見え、ジョーは天井へと静かに跳躍して張り付いた。
そして、ブレスレットを天井に押し付けるようにして、健達にバードスクランブルを発信した。
敵兵がエレベータの方へと談笑しながら歩いて来る。
「あれ?もう来てるぞ。
 おかしいな、今から来ると連絡があったのに…」
どうやら地下3階でジョーが眠らせた2人の事を言っているようだ。
何か約束でもあったのだろうか?
ジョーは天井からヒラリと舞い降り、1人には肘鉄を、もう1人には羽根手裏剣を浴びせた。
2人はバタバタと倒れた。
その音を聴きつけて、ギャラクターの隊員達が一気に現われた。
「来たな!」
ジョーは念押しの為にもう1度右手の人差し指でバードスクランブルを発信すると、「とうっ!」と気合を掛けてジャンプし、敵兵の渦の中へと飛び込んで行く。
ジョーは鋭い刃(やいば)のように、自分の肉体を全て武器と化して、敵兵の中を駆け抜けて行った。




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