『砂漠の街(6)』

ジョーは敵兵の中を駆け抜けながら、積極的に攻撃を加えて行った。
とにかく、まずは基地の奥深くに侵入して行く必要があったので、彼は急いだ。
羽根手裏剣を雨あられと降らせつつ、エアガンの三日月型のキットで、敵兵を薙いで行った。
彼の動きには全く無駄がない。
武器と肉体が一体化した、演舞のような闘い振りを見せていた。
その長い脚から繰り出されるキックは強烈で、彼の脚力で蹴られた者は、当分意識を取り戻す事はない。
闘いの最中に手加減などしていられない。
特に鍛え上げられているギャラクターの隊員が相手である以上、全力で当たらなければならない。
ジョーは跳躍しながら、敵兵に膝蹴りをし、回転して周囲の隊員を回し蹴りで一蹴した。
バタバタと倒れて行く敵兵の合間を縫って、ジョーは通路を走った。
通路が途切れると急に視界が広がった。
何と大型トラックが何台も走れる広い道路が、この地下に造られていたのだ。
そして、大型トラックには何やら積み込まれている。
案の定既に『ヒヤリウム005』は盗み出されていたのだ。
「健!基地の中に大掛かりな道路が出来ていて、『ヒヤリウム005』が既に盗み出されているぞ!」
『ああ、街中が大混乱だ。
 水路が破壊されて水が溢れ出し、水道水は使えなくなっている。
 今、全員で向かっているから、充分気をつけろ!』
「カッツェの奴、やりやがったな!
 とにかく様子を見てみるから、早い処応援を頼むぜ」
『解っている!すぐに行くから待っていてくれ!』
健の通信が途絶えた。
ジョーはそのまま地下道路へと潜入した。
大型トラックが引っ切り無しに往来している。
(これでは『ヒヤリウム005』が全て盗まれてしまうのも時間の問題だぜ!
 折角建造された砂漠の街をこれ以上、壊されて溜まるか!)
ジョーは歯噛みをする思いで、それを見届けていた。
1人でどう出る?
仲間達の到着を待つしか手はないのか?
その時、ジョーの目前を1台の大型トラックが走り抜けた。
荷下ろしをして、これからまた新たな荷を積みに行くらしい。
ジョーは咄嗟にジャンプをして、この大型トラックの上へとピッタリと張り付いた。
このまま行けば、ギャラクターが水路を破壊して、『ヒヤリウム005』を盗んでいる現場に行く事が出来るだろう。
だが、それは1箇所ではないかもしれない。
とにかくまずは現場を押さえる事だ。
そこから何をすべきか先の展開が考えられるに違いない。
道は突貫工事だったようで、揺れが激しかった。
ジョーは掴まる所のない大型トラックの屋根に必死にしがみついた。
少しずつ身体をずらして、屋根の右側に寄り、片側の縁に手を掛けた。
トラックは左ハンドルだったからである。
何かの検閲があったとしても、左側から行なわれるに違いない。
少なくとも助手席には隊員が乗っていなかったのをジョーは確認済みだった。
ただ、荷台に仲間が乗っている可能性はある。
油断はならねぇ、と彼は自分を戒めた。

やがてトラックは広い採掘場のようになっている場所へと出た。
地下をトンネルのように掘り進め、水路に使われている『ヒヤリウム005』が剥き出しになっていた。
水捌けをさせる為に、地上に向けて穴を空けて噴出させておいては、『ヒヤリウム005』を切り取って奪って行く、と言う方法が採られていた。
(くそぅ、ギャラクターめ…)
ジョーは苦虫を噛んだような顔つきになった。
街の人々が苦しんでいる筈だ。
これを少しでも早く復旧させる為にはこれ以上の作業を止めなければならない。
ジョーはそう決意をして、停まる寸前のトラックからヒラリと飛び降り、勢い良く風のように走った。
まずは最前線で作業をしている隊員に羽根手裏剣を浴びせて纏めて倒し、作業を中断させた。
その瞬間、彼に向かって一斉にマシンガン攻撃が襲い掛かって来た。
ジョーはマントでそれを防ぎつつ、敵を倒しに掛かった。
とにかく走る。
走って走って走り捲って、そして、彼が通り抜けた場所には累々と敵兵が折り重なるように倒れて行った。
とにかく作業を阻止するしか今はないのだ。
ジョーは倒れた隊員の代わりに作業を始めようとする者を徹底的に叩いた。
『ジョー、何処にいる?俺達も到着したぞ』
健からの通信がブレスレットに入った。
「『ヒヤリウム005』の採掘場だ。
 この電波を頼りに来てくれ!」
ジョーが闘いの最中(さなか)にある事は、物音から健達にも伝わった筈だ。
『解った!待っていろ!』
頼もしい健の答えが返って来た。
ジョーはそれを敵兵に拳を叩き込みながら聞いた。
敵兵がもんどり打って倒れた。
腹を抱え、海老のように丸まって苦しんでいる。
気絶出来た方が楽だったろう。
痛みを感じなくてもいい。
ジョーのパンチにはそれだけの威力がある。
彼は更にエアガンを使いながら、纏めて敵を倒し、羽根手裏剣で確実に仕留めて行く。
羽根手裏剣の冴え具合は相変わらずだ。
何と言っても切れがいい。
ピシュっ!と風を切り、物凄いスピードで飛んで行く。
ジョーはマントを使って跳躍し、上空から回転しながら、エアガンを発射して行く。
射抜かれた敵がその衝撃でバタバタと倒れる。
狙いはいつだって正確だ。
まるでジョーに撃たれる為に敵がそこにいたかのような錯覚にさえ陥る。
それだけ彼の手腕が優れていると言う事に他ならない。
空中から着地したジョーは、また忙しく肉弾戦を演じ始める。
また強烈な膝蹴りを敵兵に浴びせた。
相手は火花が散ったような感覚を受けて、どうっと倒れ込む。
ジョーの五感は冴え渡った。
敵のマシンガンの集中砲火は空(くう)を切り、何故かジョーを避けて通って行くようだ。
羽根手裏剣をまたドッと投げ放ち、ジョーはマシンガンを持つ手元を狙い撃ちして行く。
次から次へと羽根手裏剣が敵の手の甲に当たり、マシンガンが取り落とされた。
落ちたマシンガンが勝手に咆哮して、敵兵が混乱に陥った。

健達が来るまでには、まだ時間が掛かるだろう、とジョーは思った。
彼は大型トラックに乗ってやって来たのだ。
健も同じ方法を採ってやって来るだろうか?
ジョーは敵兵の中を縦横無尽に駆け抜けながら、とにかく作業をさせない事だけに熱中した。
今はそれしか彼に出来る事はない。
これ以上の作業を喰い止めるしかないのだ。
ジョーは嵐のように駆け抜けた。
彼が孤軍奮闘している時に大型トラックが敵兵に向かって突っ込んで来た。
ドアを開けてそこからヒラリと舞い降りたのは健だ。
彼はトラックその物をジャックして此処に駆けつけたのだ。
ジュン達は置いて、とにかくジョーの応援に現われた。
彼女達も後から追い掛けて来るのだろう。
「ジョー、待たせたな」
「おう、助かるぜ」
「だが、既に随分活躍したみたいじゃないか?」
健はあちこちに倒れている敵兵を俯瞰した。
「だがよ、いくら倒しても切りがねぇ。
 とにかく作業を中断させる事だけを考えて此処まで闘って来た」
ジョーは敵兵に羽根手裏剣を喰らわせながら答えた。
「そうだな。博士の指示によると、此処は爆破せず、焼き討ちにするそうだ。
 それは国連軍がする」
「つまり俺達は、こいつらを制圧して、『ヒヤリウム005』を奪還すればいいって事だな」
「ああ、そう言う事だ。
 だが、これだけのトラックを俺達だけで奪還する事は難しい。
 それも国連軍がやる。
 元々は護衛の国連軍が撃墜された事が事の一端とも言える。
 事件の収拾は国連軍に付けさせるのだそうだ」
健はブーメランをその手から敵兵の中へと放った。
それが回転して彼の右手にしっかりと収まる。
「国連軍だけの責任じゃねぇように思うがな。
 まあ、そんな事は俺達の知った事じゃねぇ」
「その通りさ、ジョー」
健はこの基地に潜入してからそれ程まだ闘ってはいなかったが、ジョーは敵のメカ鉄獣に侵入し、また此処に侵入して闘い続けている。
正直な処、健は舌を巻くような思いでジョーを見た。
ジョーと言う男、全く余裕なのだ。
だが、健は自分もそうだと言う事に気付いていないだけだった。
要するに2人ともタフ過ぎる位にタフなのだ。
ジョーは健と付かず離れずの距離を保ちながら闘った。
敵兵の作業を中断させ続ける事が今は肝要だった。
「ジョー、カッツェはいたか?」
「いや、見ねぇな。最前線にいるだろうと思っていたんだが……。
 俺は思うんだが、採掘場は此処だけとは限らねぇぜ。
 被害はもっと拡大しているかもしれねぇ」
「そうだな。カッツェめ、今度逢ったら許さんっ!」
健の言葉を聞きながら、ジョーは「とうっ」と気合を発して、羽根手裏剣を放った。




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