『砂漠の街(7)』

「さて、これからどうする?
 何時までもこうしているつもりか?」
ジョーが敵兵に鋭い肘鉄を入れながら、健を振り返った。
決して油断はしていない。
彼らは闘いながら余裕で会話をしている。
「国連軍が来るのを待っているしかねぇってのか?」
ジョーが焦りを滲ませた。
確かに地上の街に被害を出さない為にも、この地下基地を爆破する訳には行かないだろう。
そろそろ『ヒヤリウム005』の奪還に取り掛からなければならない。
「とにかくジュン達が追って来る。
 全員揃ったら、戦闘組と奪還組に分かれよう」
「そうするしか、ねぇか」
「ジュンも爆弾の設置から解放されたから、甚平と2人を戦闘組に回して、力のある俺達が奪還組に回ろう」
「いや、別にトラックを奪い取ればいいだけだろ?
 戦闘組は俺達2人が妥当じゃねぇのか?
 トラックの運転は国連軍がするだろうよ。
 ジュン達にそれのフォローをして貰えばいい。
 3人居れば安心だろう」
「う〜ん……」
健は少し考え込んでいたが、
「そうだな。戦闘力の事を考えるとそれがいいか」
ジョーは健に反対意見を言われるものと思っていたので、拍子抜けしたが黙っていた。
「そうと決まれば、思いっきり暴れてやるのみさ!」
彼は影のように健の脇から消えた。
ビュンと風を切る音がした。

ジュン達は竜が運転するトラックで駆けつけた。
「健!国連軍がもう外まで迫っているわ。
 ビルの外の道路を掘って通路を作ってから、すぐにこちらに駆けつけるそうよ」
「悠長に道路工事かよ?」
ジョーは呆れたが、
「だが、トラックを地上に出すには結局それが一番最短のコースさ」
健が窘めた。
「国連軍は工事屋ではない。
 有効な破壊兵器を持っているだろう。
 街を傷つけない最低限の爆薬を上手く使って、掘り下げて来るに違いない。
 その辺りはプロだろうから、任せておけばいい」
「で?此処の収拾はどうするよ?」
ジョーが少しイライラしながら言った。
「これではキリがないわね。
 健の爆弾を1個ずつ使ったらどう?」
「あれでも、結構な威力だぞ、ジュン」
「あれ位なら大丈夫よ」
ジュンは自信ありげに答えた。
「よし、やってみよう。
 4人は俺と少し距離を取っていてくれ」
「ラジャー」
4人は健の周囲から飛び散るように離れ、それぞれが戦闘を開始した。
健はまずは採掘現場に向けてマキビシ爆弾を投げて敵兵を崩した。
ジョーはそれを横目に見ながら、敵兵に膝蹴りを浴びせ、ターンして長い脚での華麗な蹴りを繰り出していた。
彼1人で闘っていた時に比べると、百人力だった。
言葉には決してしないが、仲間の有難味を感じるジョーであった。
その時、彼はカッツェが別の採掘場にいる可能性がある事を思い出した。
「そうだった…!
 健、採掘場は此処だけとは限らねぇ。
 俺はこの空きトラックで先に進んでみるぜ!
 此処は任せる!」
「解った。国連軍がやって来たら、甚平を連れて行ってくれ。
 それまで待つんだ」
「おうっ、解ったぜ。
 だが、それでは戦力が分散する。
 行くのは俺1人で充分だ」
ジョーはそう言うと、闘いに没頭した。

やがて国連軍がジープに分乗してこの道路へと進入して来た。
それを見ると、ジョーは荷物を搭載していない空のトラックの運転席に飛び乗った。
「健、行くぜ!何か発見したらすぐに知らせる」
「解った。充分に気をつけてくれ。
 こっちの手筈が付き次第、俺もお前を追う」
「じゃあな!」
ジョーはスピードを出してその場を去って行った。
「ジョーの兄貴ってバイタリティーがあるよね〜」
「ほれ、甚平。感心している場合じゃねぇわい」
竜に促されて、甚平は『ヒヤリウム005』の奪還作業の方に移った。
健は相変わらず敵の残兵をマキビシ爆弾で散らしていた。
その間もまだ残っている敵の残兵をジュン達が片付けている。
竜はトラックに乗って逃げようとする者を引き摺り下ろしては、張り手を喰らわせて気絶させていた。
粗方片付き始めると、健は国連軍の責任者と手筈の相談をした。
その頃には、ジョーは既に別の採掘場へと辿り着こうとしていた。
トラックが近づいたのを見て、敵兵が誘導を始めた。
「何だ、1台だけか?」
そう言って運転席を覗き込んだ敵兵は、そこに誰もいない事に気付いて驚いた。
その時、ジョーは運転席を抜け出して、トラックの上に仁王立ちしていた。
「向こうの採掘場は粗方片付けた。
 今頃『ヒヤリウム005』は国連軍の手により、奪い返されている筈だぜ」
『何だと!?』
マイクを通したカッツェの声が響き渡った。
そして、岩肌が動き、カッツェが姿を見せた。
「科学忍者隊め、また邪魔しに来おったか?」
「当たりめぇだ。貴様らのやる事を見逃す訳には行かねぇ」
「ふふふ、どうやら1人のようだ。やってしまえ!」
カッツェが紫のマントを翻して、部下を鼓舞した。
ジョーはそれを見てニヤリと笑った。
「そう簡単に片付けられて溜まるかよ?
 此処まで来ておいて、何もお土産なしでは帰れねぇぜ」
そう言ってカッツェを鋭い眼光で睨み付けると、ジョーはまた敵兵の中へと勢い良く突っ込んで行った。
闘いを開始しながら、健に通信をする。
「健、案の定、新たな採掘場があったぜ。
 こっちにはベルク・カッツェもいる」
『解った。こっちは片付いたから、ジュン達に任せて俺も行く』
「頼むぜ、リーダーさんよ」
ジョーは激しく敵とぶつかり合いながら、ブレスレットに向かって言った。
その声には相変わらず張りがあった。
息も切らしてはいなかった。
その間にも羽根手裏剣がピュピュッと音を立てて、鋭い切先を敵に向けて飛んでいた。
彼は敵と闘いながらも、次の攻撃目標を既に立てている。
だから、傍目には同時攻撃に見えるような技も簡単にこなすのである。
その身のこなしはCG映画のアクションシーンを実際に観ているような感覚に捉われる。
それをベルク・カッツェは偽装岩場に取り付けられた台から高みの見物をしていた。
ジョーはカッツェが消えてしまわないように、そちらにも気を払いながら闘っていた。
今の処、カッツェは口煩く部下達に攻撃の指示をしている。
この場をまだ離れない処を見ると、採掘場は此処がメインなのかもしれない。
先程とは規模が違う。
そして、あのような採掘場がまだ他にも多数ある筈だ、とジョーは思った。
地上に水が噴き出た区域を当たって行けば、国連軍にも探し出せるに違いない。
それにしても随分と手の込んだ事をしたものだ、とジョーは呆れながら、ふと、これはギャラクターに情報収集能力が無かったから今頃になってのこのこやって来たのではなく、計画的だったのではないか、と思った。
『ヒヤリウム005』を奪い取るのと同時に、ISOの妨害をすると言う一石二鳥を狙ったのだ。
カッツェなら有り得る。
だからわざと街が完成してから襲った。
ジョーのこう言った勘は良く当たる。
多分、彼の読みは当たっているだろう。
「くそぅ、ベルク・カッツェめ!」
高い所から自分を見下すかのように見物しているカッツェを、ジョーは憎々しげに睨みつけた。




inserted by FC2 system