『砂漠の街(番外編)』

砂漠の街は、その後ISOにより急ピッチで復興がなされ、半年後にはオープニングセレモニーが開かれる運びとなった。
大活躍でこの街を救った科学忍者隊は、アンダーソン長官によりセレモニーに招待されていたが、南部博士はこれを断り、彼らを密かに警備に当たらせる事にした。
またギャラクターが現われないとは限らない。
そうとは知らず、特別席に南部博士と並んで座ったアンダーソン長官は科学忍者隊の欠席を残念がっていた。
まさか、隣の南部博士の後ろに護衛の為に立っている平服姿のジョーが、その科学忍者隊の一員であるとは知らずにいた。
「ご養子は随分立派になられましたなぁ」
豪華な座席に着いているアンダーソンがジョーを振り仰いで言ったので、ジョーは驚いた。
南部博士に引き取られてから1度この人と逢った事があったが、覚えているとは思わなかったし、あの子供と成長した自分とを結びつけた事にも感心した。
「あれから10年経ちましたが、これはまだ成人しておりません」
「そうでしたか。大人っぽくなられたので、成人しておられるとばかり…」
長官はにこやかにジョーに笑い掛けた。
「あれだけの怪我から此処まで回復されたとは、南部博士の看護が良かったんですなぁ」
「いえ、私は多忙でしたので、病院に預けて指示を出していただけです」
南部がポケットチーフで汗を拭いた。
「背丈が伸びましたな。あのお子さんが此処までしっかりされたとは驚きです。
 博士のボディーガードに就ける程になるとは、相当の訓練を積んだのでしょうな」
「そりゃ、どうも…」
ジョーは感慨深げに言うアンダーソンにどう答えたら良いのか解らず、取り敢えず会釈を返した。
(今日は何事も起こらなければいいが…)
ジョーが心配していたのは、ギャラクターの報復だ。
ただ、今の処不穏な空気は感じない。
健達からの通信もないし、ジョーが辺りを俯瞰した限り、狙撃者などがいる気配もない。
ギャラクターはもう執着心を捨てたのかもしれないが、ジョーは油断をする事なく、辺りに睨みを利かせていた。
セレモニーは無事に始まった。
街並みに紛れている健達も油断なく行動している筈だ。
尤も甚平と竜は案の定ご馳走の方に気が行ってしまっているようで、ジョーは呆れたようにそれを眺めていた。
「甚平と竜は後でとっちめなければなりませんね、博士」
と小声で南部博士に呟いた。
その時、南部博士が持っている通信機が鳴った。
『こちらG−1号。ギャラクターの隊員を2名捕らえました。
 街中を混乱に陥れようと爆竹を用意していただけですが、どうします?』
「それはどこかに縛り付けておき、他にも怪しい連中がいないか、充分に注意してくれたまえ」
南部が答えて、自席からジョーを見上げた。
ジョーは黙って頷き、双眼鏡を手にした。
「ほう、科学忍者隊はセレモニーには出席しなかったが、この砂漠の街には来てくれているのですね」
アンダーソンは南部が科学忍者隊の出席を断った理由を悟った。
「そう言う事でしたか…」と顎を撫で、「後で私の公邸で科学忍者隊にもご馳走しなければなりませんな」と言った。
「そう言うお気遣いはして戴かなくて結構です。
 私は彼らに任務として命令したまでですから」
南部が慌てた。
科学忍者隊の正体は知られてはならない。
相手がアンダーソン長官だとは言え、それは鉄則だ。
「残念ですな。また食事券でも送りましょう」
「いえ、結構街中でご馳走に在り付いているようですな」
南部が笑った。
少なくとも甚平と竜に関してはそうだ。
此処にいるジョーなどは閉じ込められているので自由が利かずに気の毒だとは思ったが、南部は後で自分の別荘で5人にご馳走を振る舞うつもりでいたのだ。
ジョーは一通り向かいのビルを双眼鏡で観察し、この特別席がある室内も充分に俯瞰した。
やはり今の処、怪しい気配は感じられない。
健達が見つけたのは、ギャラクターの指示ではなく、勝手に行動を起こした隊員なのかもしれない。

結局セレモニーは無事に終了した。
アンダーソン長官にはSPが着き、ジョーは南部博士をG−2号機で別荘まで送る事になっていた。
健達3人も後から別荘を訪ねる事になっている。
テレサ婆さんが腕によりを掛けて、料理を用意している筈だ。
『ジョー、陸路は狙われやすい。
 何かあったらすぐに連絡してくれ』
ブレスレットに健からの連絡があった。
「ああ、その余裕があればな」
とジョーが答えた時、彼は既に違和感を感じ始めていた。
「健、どうやら尾行が尾いているようだぜ。
 無鉄砲な隊員が他にもいたらしい。
 面倒を起こしたくねぇから俺1人で片を着ける。
 敵は2人だ。大したこたぇねぇ。
 すぐに片付ける」
『大丈夫か?』
「大丈夫だからそう言っているのさ」
ジョーは通信を切り、後部座席のシートベルトを発動させた。
「博士、暫く辛抱して下さい」
ステアリングを大きく切ってのカーチェイスが始まった。
キキキキキっ!と激しくタイヤが軋んだ。
此処はまだ街中だ。
他の車も走行している。
だが、敵は容赦なく襲って来た。
「健、アンダーソン長官も襲われている可能性がある。
 こっちはいいから様子を見てくれねぇか?」
ジョーはブレスレットに向かって叫んだ。
『解った!こっちは任せろ!』
健の答えを確認して、ジョーはバックミラーを覗いた。
南部博士を乗せたまま変身する訳には行かなかった。
博士が前方を見つめて、「ジョー、あのトンネルに入ったら私を下ろすのだ」と言った。
「ラジャー」
ジョーは一目散にトンネルへと走り込み、博士を拘束しているシートベルトを外した。
博士は即座に後部座席を降り、壁へと張り付くようにした。
ジョーは虹色に包まれてバードスタイルに変身し、G−2号機も姿を変えた。
広いトンネル内ではUターンも可能だった。
超スピードでUターンをすると、ジョーはトンネルを飛び出した。
相手が面喰らったのが解った。
南部博士を追っていたからとは言え、こんな場所から科学忍者隊が現われるとは予想だにしていなかったのである。
ジョーは容赦なく、ガトリング砲をぶっ放した。
南部にはいつも『護身用だぞ』と念を押されてはいるが、今そのような事を言っている場合ではなかった。
敵は飛行も出来る車だったようで、ガトリング砲の攻撃を上手く交わした。
G−2号機は飛ぶ事が出来ない。
ジョーはコックピットを開けて、窓が開いている敵の車をエアガンで狙った。
まずは運転席の男に1発。
次に助手席から銃で彼を狙っていた隊員に羽根手裏剣を浴びせた。
たったそれだけの事で片が着いた。
正直、ジョーは拍子抜けしていた。
思った程活躍する必要もなく、敵の車はバランスを崩して転落し、爆発炎上した。
ジョーはすぐに変身を解いて、南部の元へと戻った。
「もう追手はいないと思いますが、急ぐに越した事はないでしょう」
すぐにG−2号機に博士を乗せて発進した。

科学忍者隊は平服で南部博士の別荘へと招待されていた。
テレサ婆さんの心尽くしの料理が並んでいた。
健の話によると、案の定アンダーソン長官の車にも暗殺者が尾行に尾いていたが、健達が撃退したと言う。
健が締め上げた処、カッツェの指示ではなく、勝手に行動を起こしたものだと解った。
「そうか。こっちは相手が墜落して爆発してしまったものでな。
 話は訊けなかったんだ…」
「こっちも飛行型の車だったが、何とか爆発する前に引き摺り出す事が出来てな」
健が答えた。
「さあ、その話はもう止すがいい。
 テレサが食事を運んで来るぞ」
南部が2人を制した。
甚平と竜がわくわくしているのが解って、ジョーは少し呆れ顔になったが、スッと席から立ち上がった。
彼は自然な動作でテレサの配膳を手伝い始めた。
「まあ、ジョーがそんな事をしたら、女の私が動かない訳には行かないわ」
ジュンも立とうとしたが、健が止めた。
「ジョーは男だとか女だとか、そんな事を考えちゃいないよ。
 あいつはテレサ婆さんを手伝いたいだけさ。
 久し振りに逢ったんだからな。
 やらせておけ」
「解ったわ…」
健の止め方は上手かった。
ジュンを納得させつつ、ジョーにしたい事をやらせたのだ。
そうしてご馳走を皆で楽しく戴きながら、その夜は更けて行った。




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