『ゴッドフェニックスの空席』

クロスカラコルムでの最後の決戦が終わって暫くしてから、おらはジョーが使っていたトレーラーハウスに行ってみた。
殺風景だけどそれが逆にジョーらしいなぁ…と、おらは関心したわい。 この狭い部屋でどんな事を考えて暮らしていたんかいのう。
自分の身体が病み衰えて行く事に恐怖感はなかったのじゃろうか?

本当に水臭い奴だわい。
だけど、おら達に身体の事を打ち明けてくれたとしても、一体おら達に何が出来たって言うんじゃ?
ジョーを休ませておこうとしたって、言う事を聞くような輩じゃないって事はおら達が一番良く知っとるわ。
ベッドに縛り付けたって、弾丸のように飛び出して行っただろうなぁ。

おらには家族がいるから、ジョーの苦しみを実感する事は出来なんだぁ。
だから、おらはジョーの勝手な行動が許せない事も多かったが、今になって思えばあいつがギャラクターへの憎しみだけで生きて来たって事が本心から良く解る。
おらがジョーだったら、やっぱりあんな風に物事を考えて行動していたんじゃろうか。
お前は立派に生き抜いたと思うが、共に生命を賭けて闘って来た仲間が1人欠けてしまった事がこんなにも苦しい事なんて…。
おら、悔しいぞい。
あの時、ゴッドフェニックスでジョーを連れ帰った処で、ジョーは結局助からなかっただろう。
ジョーは安楽に死を迎える事を望んでいなかったと思う。

健の判断は間違っていなかったし、おらはその事を恨んだりはしてねぇ。
憎んでいるのはギャラクターの奴らだ。
ベルク・カッツェと総裁Xは絶対に許せん。
特にカッツェの野郎はジョーをあんなにも痛め付けおって…。
可哀想にのう……。
苦しかっただろうに。
本部の入口を伝える為に抜け出して来たジョーを見つけた時、弱った身体に敵の弾丸まで喰らっていて、おら、その痛々しい姿を直視出来なかったわい…。
あんな身体で良くも自力で脱出して来たもんじゃい。
ジョーの執念じゃのう。

おら達に身体の変調を隠して闘っていた事も、ジョーが科学忍者隊から外される事を恐れていたからだと知った。
馬鹿野郎…。
おら、おめえの詫び言なんて聞きたくなかった。
ジョーらしくないわい。
いつも粋がっている強気のジョーこそが、おらの中にいつまでも生き続けているお前のイメージなんじゃい。
心から、生きていて欲しかった……。
あの時のお前の顔は一生忘れられんぞい。
その言葉、低い声音。
もう聞く事も叶わないんだな……。
ずるいよ、ジョー。
かっこ良く1人で逝っちまって……。
『これが俺の生き方だったのさ』
死ぬには余りにも若過ぎるじゃないかよ!
その若さで自分の人生を生き切ってしまったと言うんかい?
おらとたった1つしか違わんじゃないか……。

ギャラクターのブラックホール作戦のカウンターゲージは『0002』で止まっていた。
おら、地球が救われたのは、何かしらジョーの執念が働いたんじゃないか、って良く思う。
何てったって『2』はジョーの番号じゃからのう……。

ジョーの人生はギャラクターへの復讐だけで終わってしまったのかと思うと、おらは悔しくてなんねぇぞい。
お前にはこれから輝かしい青春が待っていた筈なのによ。
闘いがお前から全てを奪い取ってしまったんだな。
自分の余命宣告まで受け止めて、それでも闘いを全(まっと)うしたジョー。
すげぇな。 おらにはジョーのような生き方が出来たとは思えんわい。
ギャラクターの子に生まれ、ギャラクターに両親を殺されたジョーだからこそ、あの人生を生きたんじゃろうなぁ……。

おらにはおら、ジョーにはジョーの生き方がある。
それでいい筈だ。
おらも今後の身の振り方はこれから考える。
科学忍者隊の仕事の他にもやりたい事はあるからな。
ゴッドフェニックスの空席はお前の為に空けてある。
いつでも戻って来いよ。
おら、ジョーの幽霊なら大歓迎だわい。

ゴッドフェニックスでのパトロール中に、荒れたクロスカラコルムの地を周回しながら、竜は一頻りジョーの空席に向かって心で話し掛けていたのだった。
竜は溢れ出る涙をそっと拭ってコックを引いた。
同乗している仲間達もそれぞれの思いを抱えて、この地を見下ろしていた……。




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