『疲弊』

コンドルのジョーは疲れていた。
この屈強な身体の持ち主が疲れを感じるなど、滅多にない事だったが、今回の出動は先日の人間の血液を蒸発させてしまう謎の物体を回収してからまだそれ程日が経ってはいなかった。
その為、ジョーの白血球の数値は改善の方向には向かっていたものの、まだ正常値にまでは手が届かない状態だった。
南部博士に出動を止められたが、ジョーは「俺が居なければゴッドフェニックスは完全ではありません!」と押し切って出動したのだ。
今回の闘いの流れは白兵戦になった。
敵の鉄獣メカの中に潜入し、爆発物をお土産に置いて来る形で決着が着いた。
ゴッドフェニックスに無事に戻り、自分の指定席であるレーダーの前の座席に付くと、息切れを隠す事は出来なかった。
完全ではない身体で、白兵戦の中獅子奮迅の活躍をした為、体力を大きく消耗してしまったのだ。
「ジョー、大丈夫?」
ジュンが心配そうに覗き込んだ。
「ジョー、また無理をして出て来るからだ。まだ顔色が悪いぞ。
 今回はお前抜きで行くつもりだったから、白兵戦に持ち込んだんだ。
 そんな身体を押して出て来る事はなかったのに…」
健が腕組みをしてジョーを見下ろす。
「だが、戦況は…その時になってみなけりゃ…解らねぇ…。
 今回は俺が…居なくても良かったかもしれんが、そうじゃねぇ事だって…あるだろ?」
ジョーが言っている事は正論だ。
健を含め、全員がその通りだと思った。
科学忍者隊は1人でも欠けてはならぬのだ。
「ジュン、ジョーに酸素カプセルを!」
健はジュンにそう命じ、ジュンがスイッチを押すと、ゴッドフェニックスの天井から酸素吸入器が下りて来た。
ジュンがそれをジョーの口元に宛がう。
「ジョー、これで少しは楽になるわ。
 無菌状態にも近い状況を作り出せるから、これで暫く我慢して」
「別に…大したこたぁねぇよ!」
ジョーは酸素吸入器を振り払おうとしたが、健に押さえ込まれた。
「何言ってる!?意地を張っている場合じゃない。まだ高熱がある癖に!」
「バレてたか…」
ジョーは唸るように言った。
「当たり前だ。何年一緒に居ると思ってる?」
「……10年前だな。…おめぇと初めて逢ったのは……」
「へぇ〜。おいらよりも小さい頃から兄貴とジョーは出逢ってたんだね」
「健は優等生って感じだが、ジョーは如何にもな悪ガキだったんじゃろなぁ」
甚平と竜が会話に参加して来る。
「何…言ってやがる?健は…『暴れん坊の健』って、有名…だったんだぜ!」
ジョーがニヤリと笑った。
まだ息切れがあるのか、言葉が途切れ途切れになっている。
「年中南部博士の別荘を抜け出して、サーキットや悪い仲間の処に入り浸っていた奴が良く言うぜ」
健がぽつりと言った。
「闘いが終わったら、2人の幼少時代の話をゆっくり聞きたいものね…」
ジュンが微笑んだ。
しかし、その日がやって来る時、2人の内の1人を欠く事になるとは、まだ誰も知らずにいるのだった。




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