『ゴージャシー島カーレース(1)』

太平洋上に広がる広い島、ゴージャシー島。
その名の通り、産業が盛んで人々は潤っており、豪華な建物が多く建っている。
観光客向けのホテルもゴージャスだと人気が高い島だった。
夜はライティングが美しい街で、名所として数えられた。
海岸線の緩やかなラインは、観光客が海水浴をするのにも適しており、波は穏やかだ。
海辺に建つホテルはなかなか予約が取れない程であった。
この風光明媚な島で2日間続けてストックカーレースが開かれる事が決まり、ジョーは南部博士の許可を得て参加する事になった。
勿論、任務があればそれを優先すると言う条件付だ。
久々の海外レース、彼は張り切っていた。
優勝賞金も10万ドルと言う大きなレースだ。
2日間のレースのタイムの合計で優勝が決まる。
勿論、ジョーは2日共トップを取る気満々だった。
何事も起こらないといいが…。
そう思いながらも、レースに優勝する自分の姿をイメージトレーニングしていた。
このレースは島を挙げての大騒ぎとなるらしい。
今年から例年レースが開催されると言う話で、今回は記念すべき第1回のレースだった。
ジョーは普段は任務の事を考えて、国内レースばかりに出場していたが、最近はギャラクターの動きがない事から、南部博士も許可を出したのだろう。
彼はいつものTシャツの上にレーシングスーツを着込んでいた。
スリムで上背のある彼には本当に良く似合っている。
ダーク系の深い紺色のスーツだった。
ウエストがシェイプされ、身体にピッタリフィットしているので、彼のスタイルの良さと脚の長さを強調していて、ピット外のレースファンの視線は彼に集中していた。
筋肉質な肉体美が特に女性からの注目を集めていた。
そんな視線を感じながらも、ジョーは浮かれる事なく、ピットの中でG−2号機の整備に熱中していた。
しかし、調整をしながら、ジョーは嫌な予感を禁じ得なかった。
「何だろう?この違和感は……。
 嫌な陰謀が渦巻いている気がするぜ…」
思わず独り言を言った。
このレースには先輩レーサーのフランツも参加していた。
彼はジョーのように優勝を狙うつもりはなかったが、入賞には喰い込みたいとやって来ていた。
ジョーにはドライビングテクニックも咄嗟の判断も敵わない事を彼は充分に知っていた。
そのフランツが自分の愛機のエンジンから顔を上げ、
「どうした?ジョー。手が止まっているじゃないか?」
と不審そうに言った。
「ちょっと嫌な予感がね…」
ジョーは空を見上げた。
快晴その物だ。
だが、フランツは眉を顰めた。
ジョーの勘が良く当たる事は彼も知っているからである。
悪ければ悪い程…、だ。
ジョーは耳を澄ませた。
何かが聴こえる。
この広い島のどこかで何かが起きている。
「爆音だ!爆発音だ…」
ジョーはそう叫んで街の方を振り返った。
遠くで何か巨大な鳥のような物が飛んでいて、丸い爆弾を落としていた。
爆発音はやがてサーキットまで届くようになった。
揺れも感じるようになって来た。
赤い火が燃え広がり、煙が上がっているのも見て取れた。
サーキットも騒がしくなり、レースは延期若しくは中止とのアナウンスが流れた。
避難を呼び掛ける声もあったが、こんな時に何処に逃げろと言うのか?
島から出る以外に方法はない。
だが、メカ鉄獣は神出鬼没だろう。
一瞬にして何処へでも爆弾を落とすに違いない、とジョーは思った。
現時点ではじっとしている方がいい、そうフランツに呟くと、彼は華麗な動作でヒラリとG−2号機に乗り込んで、現地へ近づこうと急発進した。
「ジョー!」
フランツの声が追い掛けたが、ジョーには聴こえなかった。
フランツは口には出さないが、ジョーの正体を薄ら薄ら知っている。
この事件は間違いなくギャラクターの仕業だろう。
彼は科学忍者隊としてそれを倒しに行ったのだ、と納得した。
そしてジョーの勘の良さに改めて舌を巻いた。

前方にはダチョウ型のメカ鉄獣が飛んでいる。
それが卵爆弾を街に投下していたのだ。
「ダチョウの癖に飛びやがるのか!?
 何てこった!俺のいる場所に現われやがってっ…!
 こちらG−2号!南部博士、どうぞ!」
『おお、ジョーか?
 今襲われているのは君がレースに赴いているゴージャシー島だね?』
「ええ、巨大なダチョウ型メカが、卵の形をした爆弾を落として回っています。
 ダチョウの癖に飛んでいますよ!」
『島を挙げてのお祭り騒ぎの日をぶち壊すのが狙いかもしれん。
 今、健達を集合させる手筈を取った。
 現地で合流してくれたまえ』
「ラジャー」
ジョーは唇を噛んだ。
レースをぶち壊しにされた事も悔しいが、何よりもあの爆弾1つで何人の人々が犠牲になるのか、と思っただけで身体が怒りで震えた。
「市街地の被害が甚大です。
 消防だけでは間に合わないでしょう」
『解った。国連軍に依頼しておく』
「お願いします」
ジョーはステアリングを切って、逃げ惑う人々を避け、山中を走った。
パニックを起こした人々を撥ねたりしてはとんでもない事になる。
いくら焦っていても彼は冷静だった。
山中の方がスピードも出しやすい。
ジョーはバードスタイルに変身し、ぐんぐんとスピードを上げると、島全体を見回せる山頂まで上がった。
ジョーはそこでダチョウ型メカ鉄獣の連続写真を撮り、ゴッドフェニックスと南部博士へと転送した。
『ジョー、ゴッドフェニックスは間もなくゴージャシー島に到着する。
 そのままの位置で待機していてくれ』
健の声がブレスレットからした。
「ラジャー」
この場所が一番合体しやすい事はジョーも解っている。
被害が拡がって行くのを悉(つぶさ)に見ながら、冷や汗を流してその場でゴッドフェニックスの到着を待った。
(サーキットを離れて来ちまったが、博士が言うように島全体のお祭り騒ぎに水を差すつもりなら、サーキットも狙われるかもしれねぇな…)
ジョーはサーキット場を離れた事を少し後悔した。
しかし、今、メカ鉄獣は市街地を攻撃し続けている。
彼が電送した写真は既に南部博士により、解析が進められているに違いない。
必要な任務だったのだ、そう思う事にした。
その時、ゴッドフェニックスが近づいて来た。
『ジョー、オートクリッパーで回収するぞい』
竜の声が聴こえた、
「おう、頼むぜ」
そうして、ゴッドフェニックスは5基のメカの合体を完了した。
コックピットまで上がって行くと、
「ジョーの兄貴、折角の休暇が台無しだったね…」
甚平が気の毒そうな顔をした。
「仕方がねぇ。だがすぐに対処出来た事を喜ぶべきかもしれねぇぜ」
「そうだ。ジョーが送ったデータを博士に解析して貰っている」
健がダチョウ型メカ鉄獣を睨み付けるようにして言った。
「破壊、殺戮…。ギャラクターのやる事は許せん」
「全くその通りだぜ」
健の隣に立って、ジョーも呟いた。
「すぐにでもバードミサイルをぶち込んでやりてぇ。
 竜、もっと近づいてスクリーンに敵を映してくれ。
 俺が博士に送った写真よりも精密に見える筈だ」
竜は健、どうする?と目線で訊いた。
健も頷いた。
「だが、必要以上には近づくな。
 まだ博士からの指令は出ていない」
「はいよ」
竜は操縦桿を引いた。




inserted by FC2 system