『ゴージャシー島カーレース(2)』

ゴッドフェニックスはダチョウ型メカ鉄獣に近づいた。
メインスクリーンに拡大画像が映し出される。
「あのモッコリと膨らんだ本体の下から細かい噴射口がいくつも出ている。
 そこからジェット噴射して飛んでやがるぜ」
ジョーが呟いた。
足は折り畳まれていた。
この映像は南部博士の元にも同時中継されていた。
「南部博士、あのジェット噴射口の部分をバードミサイルで破壊して、奴を海に落としたらどうでしょう?」
健が訊いた。
『うむ。海の中であのメカがどうなるかはまだ予想も付かないが、飛ぶ能力を奪っておく事には意義があるかもしれん』
「いんや、それじゃあまた海が汚れる。
 火の鳥で焼き尽くす訳には行かんかのう?」
竜がぽつりと呟いた。
甚平が「ええっ?」と言う顔になったが、健はジョーと顔を見合わせた。
この2人は竜の気持ちも解らなくはなかったのだ。
『健。判断は現場にいる君に委ねよう』
南部はそう言ってスクリーンから消えた。
健は「よし、火の鳥でやってみよう」と力を込めて言った。
ジョーが竜の肩をポンっと叩いて、自席に向かった。
一見不仲なように見える事もあるが、少なくともジョーは竜の事を理解していた。
ジュンが甚平を「ブツブツ言わないの。男の子でしょ?」と窘めている。
いつもの光景だった。
「ギャラクターの狙いが飽くまでもこの行事をぶち壊す事にあったらいいんだがな。
 そうじゃねぇとすれば、これで片が着くとは思えねぇぜ」
ジョーが不吉な事を呟いた。
今日は勘が冴えているだけに、無視出来ない発言だった。
「その通りだ。だが、今はこれに賭けてみよう。
 科学忍法・火の鳥!」
健が叫んでレバーに手を掛けたその時だった。
『健!攻撃を中止せよ!』
南部からの緊急連絡が入った。
「どうしたんです?博士」
健が訝しそうにスクリーンを見上げる。
全員が同じ思いだった。
『大変な事になった。
 ゴージャシー島の市長とその秘書数名がギャラクターの人質となっている事が解った』
「何ですって!?」
『たった今、ベルク・カッツェからISOに通信が入ったのだ』
竜は取り敢えずゴッドフェニックスを旋回させて、敵のメカ鉄獣から離れた。
「要求は何なんですか?博士」
ジョーが低い声で訊いた。
『人質と諸君の身柄の交換だ』
「くそっ、そんな事だと思ったぜ」
ジョーが右手の拳で左の掌をパシッと叩いた。
「カッツェの奴、汚い手を使いやがるぜ!」
甚平も吼えた。
「この島を攻撃した事自体が、そもそもその目的だったんでしょうか?」
健が冷静に訊ねた。
『そこまではまだ解らん。何か裏にあるのかも知れない』
南部が沈痛な表情になった。
『その件については、今、ISOの情報部員が調査中だ』
ジョーはそれを聞いて、フランツの事を思い浮かべた。
恐らくはフランツの正体はISOの情報部員だ。
ジョーは彼が今頃、八面六臂の活躍をしているに違いない、と思った。
また擦れ違う事になるかもしれない。
「取り敢えずは俺達はカッツェの要求に応じるしかありませんね。
 人質の生命が最優先です」
健が苦渋の表情でそう言ったが、南部は『待て』と言った。
『情報部員からの連絡をギリギリまで待つ。
 恐らくは人質はメカ鉄獣の中だ。
 攻撃は出来ない。
 ベルク・カッツェの事だ。
 その事は計算済みだろう』
「しかし…その間に人質の身に万が一の事があったら?」
健がスクリーンを見上げた。
「そうですよ。
 このままでは市街地は全滅だ。
 島は破壊され、人質の生命まで奪われるような事になったら、俺達は……」
ジョーも握り締めた拳を震わせた。
『解っている…。
 だが、迂闊に敵の策に乗り、諸君が生命を奪われる事になっては行かぬのだ』
スクリーンの中の博士は苦しそうだった。
「俺達はその為に組織されてるんです。
 地球の人々の生命を守る為に!」
ジョーが唸るような声を上げた。
「違いますか?博士!」
『ジョー……』
博士は押し黙ってしまった。
暫くして顔を上げた南部博士は、
『とにかく現状での情報を整理してみる。
 少しだけ時間をくれ。
 私から指示があるまでは勝手な行動を慎むように』
そう言ってまたスクリーンから姿を消した。
竜は旋回を続け、メカ鉄獣との距離を付かず離れずに保っていた。
「こんな事、いつまで続ければいいんかいのう?
 街がどんどん破壊されて行くわい!」
彼も焦りを隠せなかった。
「ジョー…」
健がそれだけ言って、決意を込めた強い瞳でジョーを見た。
「解ってるぜ、健」
「みんな。南部博士の命令に背く事になるが、俺とジョーとで敵のメカ鉄獣に侵入する」
健は凛としていた。
「そう来なくっちゃ、兄貴ィ!
 でも、ジョーの兄貴と2人だけ?」
甚平は指を鳴らしてから、その指を口に咥えた。
「ゴッドフェニックスに科学忍者隊が残っていると思わせなければならない。
 だから、この仕事は俺とジョーでする。
 命令違反は俺の判断だ。
 博士にはそう言っておいてくれ」
「さすがは頼りになるリーダーさんだぜ」
ジョーがニヤリと笑った。
「健、ジョー…」
ジュンが心配そうに2人を見たが、止める事はしなかった。
「竜、スクリーンに拡大画像を映し出してくれ。
 俺達が入る隙間がないか検討する」
「ラジャー!」
竜がスクリーン一杯に敵のメカ鉄獣の姿を映した。
「考えられるとしたら、まずはジェット噴射口だな…」
健が腕を組んだ。
「だが、ジェット噴射が止むこたぁねぇ。
 別の場所を考えるこった。
 見ろ、健!
 あそこのダチョウの鼻の穴だ。
 あれは本当に通気孔になっているように見えねぇか?
 竜、拡大してくれ!」
動体視力に優れているジョーは、一瞬スクリーンに映ったその位置を記憶していた。
「あれだ!どう思う?健」
「ジョーの言う通りだ。あそこからなら侵入出来そうだな」
リーダーとサブリーダーは視線を交わして、頷き合った。

南部博士から次の通信があった時、既に2トップはトップドームの上にいた。
ジュンが事情を説明すると、博士は渋面を作ったが、
『仕方がない。勝手な行動を取るな、とあれ程言ったのだが…。
 その件は後で私から注意しておくとして、このゴージャシー島には隠し財宝が眠っている事が解った。
 ギャラクターの狙いはそこだ。
 健とジョーに知らせてやってくれたまえ。成功を祈る』
命令違反は結果オーライと言う事で南部が容認した形となった。
ジュンが博士からの連絡内容を伝える。
「解った。竜、とにかく俺達が乗り移る事を悟られないように上手く頼むぜ」
健が言った。
強い風がマントを翻す中、トップドームが開いた。
「行くぜ、ジョー」
「おうっ!」
2人は息を合わせて、ダチョウの鼻の穴を模した通風孔に向かって跳躍した。




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