『ゴージャシー島カーレース(4)/終章』

人質の3人は無事に国連軍に受け渡された。
空の上の遣り取りだっただけに、人質はかなりの恐怖を味わったようだったが、ゴージャシー島を守る為には、着陸している余裕は全くなかった。
「全員、着席してシートベルトを付けろ!」
健の指示が飛んだ。
「竜、出来るだけ敵を引きつけ、上空へと誘導しろっ」
「ラジャー」
竜は巧みな操縦で敵のメカ鉄獣を誘導して行く。
カッツェが脱出したので、恐らくは自爆装置が働いているものと思われるが、必ずしもそうとは限らない。
爆発する前に火の鳥で焼き切ってしまうのが一番島への被害が少ない安全な方法だった。
「科学忍法火の鳥!ジェネレーターアップ!」
健がタイミングを計って、レバーを引いた。
急激に機内温度が上がって行く。
バードスタイルは熱には強いが、それでも火の鳥の衝撃は強い。
5人が苦しみ抜いて使える技なのだ。
ジョーは自席で歯を喰い縛って耐えた。
全員を焼き切ってしまいそうな、激しい苦しみが襲って来た。
科学忍法火の鳥は科学忍者隊をも痛めつけるので、最後の手段として使われて来た。
終わった後には全員が気を失っている程の技だった。
小さい甚平も耐えているのだ。
不覚は見せられない。
だが、段々と息が苦しくなって来る。
火の鳥になっている時間が長ければ長い程、その苦痛は大きい。
火の鳥はダチョウ型メカ鉄獣の腹を突き抜けて、上空へと華麗に舞った。
その火の勢いで、メカ鉄獣を焼き切っていた。
体内に持っていたダチョウの卵型爆弾が粒子となって消えた。
こうして、ゴージャシー島にとっても、ジョーにとっても飛んだ災難の1日が終わった。

延期または中止とアナウンスされたカーレースだったが、翌日から2日間行なわれる事になっていた。
市街地の被害は甚大だったが、サーキットは無事だった。
市街地の復旧作業が急ピッチで行なわれるのと同時に、市長はこのレースをこの島の売りにしたい為、強行する事にしたのだ。
この島は隠し財宝がたんまりとあり、ギャラクターの狙いを阻止出来た事で、島の復旧にそこから巨額な費用を拠出する事が出来た。
本当に賑わった島なのだ。
南部博士の許可が出て、ジョーはレースに出場する事になり、健、ジュン、甚平、竜も島に留まって、彼のレースを観戦する事になった。
レースはサーキットの中を60周すると言うもので、2日間の合計タイムが短かったものが優勝となる。
ジョーは前日泊まったホテルで、充分に闘いや火の鳥の疲れを癒していた。
フランツと同じホテルだった。
健達は南部博士が急遽押さえた別のホテルに宿泊した。
その日、フランツも疲れ切った様子で帰って来た。
やはりISOの情報部員としての活躍をして来たのだろう、とジョーは思ったが、勿論それは言わなかった。
そのフランツはレースをキャンセルして帰国する事になっていた。
「レースが延びたんで、2日目に参加出来なくなった。
 仕事なんで仕方がない。
 ジョー、頑張って来いよ」
そう言って、フランツはレース当日の朝にホテルを旅立って行ったのだ。
ジョーはその背中を見送ってから、G−2号機でサーキットへと向かった。

サーキットではレースの前日に出発順序を決める予選が行なわれており、ジョーはポールポジションを取っていた。
2日目のレースは1日目のレースの順位によってポールポジションが決まる。
エンジンを吹かしながら、ジョーは興奮と心地好い緊張感に襲われて来た。
久し振りのレースだった。
空は快晴。
レース日和だ。
10万ドルと言う高額な賞金よりも、ジョーはただ自分が優勝する事しか思い描いていなかった。
再びギャラクターが逆襲して来ない事だけを願って、彼はスタートの合図と共にアクセルを一杯に踏み入れた。
レースは接戦が続いた。
さすがに世界中の名だたるレーサーが集まっているだけの事はある。
だが、ジョーは1位を譲る事があっても、必ず抜き返した。
G−2号機の性能もあるが、彼のドライビングテクニックの賜物だ。
抜かれたままでは我慢ならない、と言う彼の性格もレーサー向きなのだろう。
しかし、危険を察知して、必要であればレースを捨てる事も彼は知っていた。
それが出来なければレーサーとしては大成出来ない。
ただ我武者羅に走れば良いと言うものではないのだ。
特にチームで動いている訳ではないジョーは、自分自身で戦略を立て、メカニックもこなさなければならない。
愛機の事を知り尽くし、コースを知り尽くし、そして、万が一の時は咄嗟に冷静な判断が出来なければ、レーサーは務まらない。
ジョーのそう言った能力は並外れていた。
レースに関しては決して熱くなるだけの男ではなかった。
南部もそれが解っていたから、彼がこの世界に入る事を許したのだろう。
健達が観客席で一喜一憂しながら応援したこのレースは、2日間ともジョーがトップでチェッカーフラッグを通過し、文句なしの優勝を浚った。

「ジョーの兄貴、10万ドルの賞金は何に使うの?」
帰りのゴッドフェニックスの中で、甚平が眼を輝かせて訊いて来た。
「少なくとも誰かさんに集(たか)られないように銀行に注ぎ込むが、半分は…」
と言ってジョーは口を噤んだ。
半分は施設に寄付しようと決めていたのだが、それを仲間に告げる程、彼はオープンではなかったし、自分の胸に秘めておくタイプだった。
「半分、いや、3分の1はパーッと車に注ぎ込んで、残りは将来自分のチームを作る為の費用として貯金するのさ」
「何か予想通りの返事だなぁ」
甚平が詰まらなそうな顔をした。
「そうかい?そりゃあ、悪かったな」
ジョーは甚平の頭に肘を乗せた。
丁度良い高さだった。
「まあ、精々『スナック・ジュン』で沢山使ってやるぜ」
「あら、いつもコーヒーばかりで碌に食事を食べない癖に……」
ジュンが笑った。
「そうだよ、ジョーの兄貴はもっと食べないと…」
「それはあっちの欠食児童も同じだろ?」
「あら、あちらはツケのお客さんだから」
ジュンの言葉に健が小さくなったように見えて、ジョーはおかしかった。
「帰ったらジョーの祝勝会じゃのう」
竜が振り返った。
「イタメシ屋で良かったら俺が奢ってやるぜ。
 店の選定も任せてくれるんだったらな」
ジョーはまだ賞金が手元に入っていないのに、気前良く言った。
「本当?」
甚平がまた眼を輝かせた。
子供っぽいのは当然だが、ジョーにはそれが眩しく見えた。
可愛い弟と言った存在だ。
「本当だ。俺が嘘を言った事があるか?」
「ジョーは嘘を付かないぜ、甚平」
健が甚平の肩に手を置いた。
「それじゃあ、急いで帰るかのう?」
竜が舌なめずりをして、操縦桿を引いた。




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