『ゴージャシー島カーレース〜番外編』

ゴッドフェニックスで基地に帰還すると、南部博士からの命令違反に対するお咎めもなく、すぐに解放された。
ジョーは皆にイタリア料理をご馳走すると約束していたので、G−2号機に健と竜を乗せ、ジュンと甚平はそれぞれのメカで着いて来る事になった。
「だが…、この服装ではあの店しか行けねぇか…」
ジョーは小さく呟いた。
余りにも豪勢な場所には、それなりの服装をしなければならない。
ドレスコードがあるような店に、これからそれぞれ着替えをして行くには時間が遅いだろう。
ジョーは気軽に若者も入れる店を選んだ。
駐車場に入ると、ジュンと甚平も続いて入った。
「此処だ。見掛けは決してお洒落じゃねぇが、食事は豪勢だぜ」
「何だか、ジョーの祝勝会をするつもりが、ご馳走になる事になってしまって、悪いみたい…」
ジュンが呟いたが、ジョーは「気にするな」と言ってまるで顔パスのように従業員の挨拶を受けて、奥の個室を頼んだ。
「この部屋ならゆっくり楽しめるだろうぜ」
ジョーは慣れた様子だったが、他の4人はおどおどとして座った。
「緊張するこたぁねぇよ。この店は気取る必要がねぇからな。
 Tシャツにジーンズでも問題なく処遇してくれる」
「いらっしゃいませ」
イタリア人の支配人がニコニコして現われた。
「また優勝したそうですね。
 ニュースで観ましたよ。
 おめでとうございます。
 しかし即日ご帰国とは忙しい…」
支配人は丁寧に料理長まで連れて挨拶に来た。
ジョーはこの支配人の気に入りだった。
「今日も祝勝会ですか?」
「気の置けない仲間と食事会みたいなものですよ」
ジョーは笑って、「注文は俺に任せて貰っていいか?」と全員の顔を見た。
健を始め、全員がこくりと頷いた。
ジョーは流暢にイタリア語のメニューをいくつも告げた。
どうやらフルコースにするつもりらしい、と言う事は健達にも解った。
前菜からメインディッシュ、デザートに至るまで、詳細に注文している事位は理解出来たからだ。
メニューが配膳される時には事前にノックがあったので、5人でゆっくり話す事が出来た。
「こんな時間が取れるのは久し振りだな」
健が感慨深げに言った。
ジョーは自分に宛がわれた料理の一部を竜と甚平に回した。
「相変わらず食べないのね。ジョーは……」
ジュンが眉を顰める。
「俺にはこの位の量でいいのさ。
 そう言うジュンだって甚平に回してるじゃねぇか」
「女子にはボリュームがあるもの。
 それに甚平は食べ盛りだしね。
 それよりジョー、竜には余り回しちゃ駄目よ」
「ああ、解ってる。甚平はともかく、竜に回しているのは、脂身のない肉と野菜ばかりさ」
竜は情け無さそうな顔になり、他の4人は笑った。
ノックがしてスパゲッティーの大皿が3枚配膳された。
トングが付いていて、それぞれには取り分け皿が配られた。
「好きなのを取って喰えよ」
「ジョーから取れよ」
健が勧めた。
「お前の祝勝会なんだぜ」
「解った…」
ジョーはボンゴレスパゲッティーを少しだけ皿に取り分けた。
ナポリタンも少し取った。
「甚平。折角の人が作った料理を喰う機会だ。
 ゆっくり楽しめよ。
 時間はあるんだから、焦って喰ったりするな」
「うん。有難う、ジョーの兄貴。
 此処の料理は本当に美味しいよ」
「最後のデザートはシチリアレモンを使ったスイーツが揃ってる。
 ケーキとジェラートだ。
 楽しみにしてろよ」
健は眼を見張り、
「ジョーは舌が肥えていると思ったが、本当にいろいろな店を知っているんだな」
「サーキット仲間に連れ歩かれているだけさ」
「だが、さっきの支配人の態度。
 お前は上客だと見たぜ」
「ドレスコードもなくて、気取らなくていいから、良く来るだけさ」
「ふ〜ん…。レーサーって儲かるんだな」
「健、今更職業替えは無理だろうよ。
 たまたま俺は上手く行って賞金が貰えて何とか暮らせているだけだぜ」
「この歳で自立して暮らしている私達って、大したものよ。
 本来なら、親元にいて学校に通っていてもいい年頃なんですもの」
「んだな。おらは南部博士と知り合わなかったら、猟師になっていたに違いねぇわ」
「おいらとお姉ちゃんはどうなっていたんだろうね?
 まだ孤児院にいたのかな?」
「そうかもしれないわね…。
 私はそろそろ自立を迫られている歳だわ」
「俺とジョーは南部博士の処にいたから、結局は普通にテストパイロットとレーサーになっていたのだろうな」
健が呟いた。
科学忍者隊にならずとも、この2人はそう言う運命にあったのかもしれない。
忍者隊の任務が重過ぎて、なかなか本業に身を入れられずにいるのだが。
「いつかは平和がやって来るだろうぜ。
 そうしたら俺達も好きな道を歩めばいいのさ」
ジョーがレモンジュースを煽るように飲んで言った。
レモンの酸味が喉に沁みて、ジョーは噎せ込んだ。
「おいおい、珍しいな、ジョー」
健が席を立って、ジョーの背中をさすった。
少し骨が浮き出ているような気がして、健はハッとした。
「ジョー、少し痩せたんじゃないか?」
「レースに向けてダイエットしているからな。
 気にするなよ」
ジョーは健の手を振り払った。
「ジョーはダイエットなんかする必要はないわよ」
ジュンが顔を上げた。
「レースはレーサーの体重によっても左右されるのさ。
 今日のようなストックカーレースではなく、レーシングカーでもレースに出る事があるんでね」
「任務に差し支えない程度にしろよ」
健が憂い顔を見せた。
「解ってるさ」
ジョーはニヤリと笑って見せた。
彼はチリン、とベルを鳴らした。
「これからデザートを楽しむぜ」
5人の夜はこうして更けて行った。




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