『核兵器悪用を阻止せよ!(2)』

キタセン国の上空に入る前に『領空侵犯機には攻撃を仕掛ける』と言った警告は全くなかったが、案の定攻撃が仕掛けられた。
だが、ゴッドフェニックスはその射程距離内に入る事なく、攻撃を避けた。
「竜、暫く遊んでやれ。核兵器を持ち出して来るかどうか、様子を見よう」
「カッツェが此処にいれば、間違いなく持ち出して来るだろうな」
ジョーが腕を組んだ。
「だがよ、此処で使ったら自国へも影響が出るだろうぜ。
 カッツェはそんな事はお構いなしだろうが、キタセン国の国家首席がどこまでカッツェに心酔しているか、だな」
「ああ…。場合によっては洗脳され、利用されているだけかもしれん」
健が眉間に皺を寄せた。
「解らんぜ。過激な事をするんで有名な独裁者だからな。
 国民の事なんて何一つ考えちゃいねぇだろ?」
ジョーは皮肉を込めて言った。
国を束ねる者が自分の利益ばかりを求めては行けない、と彼は言っている。
全くその通りだ。
「何か企んでいる臭いがプンプンする。
 カッツェが世界征服を持ち掛けてそれに乗った、って処が妥当なんじゃねぇか?」
「ジョーの言う事にも一理あるが、予断は禁物だ。
 竜、とにかく先方を煽れ。
 俺達の任務は核兵器を凍結させ、使用出来なくする事だ」
「内政干渉だとか言って喚きそうだが、博士の命令だからな。
 ISO内で決定した事なんだろうぜ」
「ジョー、準備はOKか?」
「ああ、いつでもスタンバイ出来るぜ」
ジョーは既にバズーカ砲のケースを肩から提げていた。
彼の身長でも床に支(つか)えそうなぐらいの長さがある。
それだけ威力を増強した特殊バズーカ砲だった。
以前ジョーが撃った事があるタイプだ。
「ジョー、それの射程距離は500メートルだと博士が言ったな」
「そうだ。飽くまでもゴッドフェニックス内からぶっ放すのであれば、そこまで近付かなければならねぇ。
 俺が下りて1人で臨むのなら別だがな」
「それは余りにも危険だ。だから博士もゴッドフェニックスから撃つと言う方法を考えたのだろう」
「G−2号機からでは無理だろうか?」
ジョーが言った。
「万が一の事を考えたら、ゴッドフェニックスの方が安全だ。
 博士はG−2号機の機動性より、ゴッドフェニックスの安全性を採ったんだ」
「だがよ、皆が危険に晒されるじゃねぇか。
 G−2号機なら俺だけでいい。
 ゴッドフェニックスが核兵器にやられるような事になったら、科学忍者隊は全滅だぜ」
健とジョーの言葉の応酬は続いていた。
「だから、博士はお前の腕を頼ったんじゃないか?
 必ずやってくれると信じてな……。
 機首部分から撃つにしても危険な役目である事には変わりがない」
「確かにな。生命綱は付けても、ノーズコーンを開いたら身ひとつと違ぇはねぇ。
 まあいい。とにかく指令通りにやってみよう。
 敵の動きを見ていてくれ。
 俺はスタンバイに入る」
ジョーはコックピットを後にした。

G−2号機が格納されている位置にやって来ると、ジョーは用意して来たバズーカ砲をケースから出し、まずはそれを生命綱に繋げた。
ゴッドフェニックスの揺れで取り落としてしまえば元も子もない。
弾はたったの一発だ。
無駄には出来なかった。
そして、それから自身の身体に生命綱を着けた。
腰に着けるベルト方式になっている。
これがG−2号機の格納庫の左右に繋がった。
そして、ジョーは腹這いになり、バズーカ砲を構えた。
座って構えてもいいが、ノーズコーンが開いたら危険極まりない。
此処はベストな構えと言えよう。
「こちらG−2号。準備は万端だ。
 そっちの様子を教えてくれ」
『まだ核兵器が出て来る様子はない。
 そのまま待機していてくれ』
健の声が聴こえた。
「こっちでは全く状況が解らねぇ。
 逐一知らせてくれ」
『解っている』
退屈な待機時間だった。
だが、いつ出番が来るか解らない。
緊張感は解かぬまま、ジョーは構えを続けた。
『ジョー!敵を煽るからちょっと乱暴な操縦になる。
 気をつけてくれ』
「ラジャー」
健からの通信があり、ノーズコーンにも揺れが来た。
生命綱があるとは言え、ジョーはノーズコーン内で振り回された。
脳震盪を起こさないように、頭を打撲する事と、腕を負傷する事だけには、特に注意を払った。
身体が何度も浮き、床に叩き付けられた。
それでもバズーカ砲だけは手放さなかった。
ショックで暴発しないようにロックを掛け、抱え込んでいた。
「竜の奴、随分乱暴だな…」
と呟いた時、健からの通信が入った。
『カッツェの登場だぜ。煽った甲斐があった。
 これから問題の核兵器が登場するかもしれない』
「解ったぜ。心して待機している」
ノーズコーンの中は、まるで目隠しされているかのように、外の状況が解らない。
ただ、激しく揺られているだけだ。
健が逐一情報を伝えてくれたのは有難かった。
『飛行艇が飛び出して来た。
 あれに核兵器が積まれている可能性がある。
 今博士に分析して貰っているから待ってくれ』
「その時が来たら、俺に断りを入れる前にすぐにノーズコーンを開けてくれ」
『解った!』
「飛行艇に核兵器を積んでいるとなったら、やはり自国の被害は考えていねぇって事になるな」
『そのようだな。とにかく連絡を待て。以上』
「ラジャー」
ジョーは答えて、バズーカ砲を構え直した。
緊迫した時間が過ぎて行った。
ジョーはゴッドフェニックスの激しい揺れに身を任せていた。
旋回などすると、身体を叩き付けられる事も度々だった。
打たれ強い彼はそんな痛みよりも、今は任務の事だけを考えていた。
とにかくこの場所は離れ小島のように何も見えない。
何が起こっているのかは推測するより他なかった。
(全く他に方法はなかったのかよ?)
と焦りを滲ませつつ、ジョーは待った。
『ジョー、聴こえるか?南部だ』
「どうでしたか?」
『あの飛行艇に核兵器が積まれている事は間違いない。
 ミサイル型だそうだ。
 これは情報部員からの連絡により判明した。
 飛行艇の規模からして、君が持っているバズーカ砲で飛行艇毎、凍結させる事が可能だ。
 従って、君には飛行艇その物を狙って貰いたい』
「そんな事をして、飛行艇が墜落してバラバラになったらどうなりますか?」
『心配には及ばん。その弾丸には粒子単位で凍結させる能力がある』
「解りました。早速掛かります」
『頼んだぞ。今回の任務は君の双肩に掛かっている』
「ラジャー」
通信を切ると、ジョーは竜を呼び出した。
「竜、博士から直接通信があった。
 ノーズコーンを開けてくれ。
 飛行艇毎凍結させる」
『ラジャー』
ノーズコーンが開かれた。
外から見たら、ジョーは丸見えの状態だった。
意外に風が強い。
生命綱が頼りなく感じられた。
眼が光に慣れるのを待った。
適応能力が高いので、すぐに敵の飛行艇を目視出来た。
「健!あの、黄色い飛行艇がそうだな?」
『そうだ。頼んだぞ』
「ああ、任せとけ!」
たった1発の砲丸に願いを込めて、ジョーは狙いを定めた。
一番効率の良い場所を探す。
「竜、飛行艇の真上に回ってくれ」
『ラジャー』
ゴッドフェニックスは急上昇し、飛行艇の真上に着けた。
当然、敵からの攻撃がある。
それはノーズコーンの中にいる、ジョーにも容赦なく、届いた。
「ぐっ」
左肩を激痛が貫いた。
血が吹き飛んだ。
弾は貫通して、マントを突き抜け、ノーズコーン内で破片を散らした。
しかし、ジョーはそれ位の事でめげる男ではなかった。
ノーズコーンのギリギリまで身体を出し、生命綱を着けたバズーカ砲を宙に浮かせた。
百発百中のジョーの射撃の腕が今、生かされる時だった。
意識を手放す事は決してなく、彼は最大限の集中力を絞って、バズーカ砲を発射した。
一瞬後には敵の飛行艇が凍結して行くのが見えた。
「竜…、ノーズコーンを…閉じてくれ…」
ジョーの荒い息遣いに健が気付いた。
『ジョー、負傷したのか?』
「大丈夫だ…。敵の…飛行艇は?」
『今、墜落して行く処だ』
「そうか…。生命綱を外したら…そっちへ、戻るぜ」
ジョーはノーズコーンが閉じられたのを確認して、生命綱を外し、バズーカ砲をケースに入れ、それを右肩に担いだ。
コックピットに戻るまでが長かった。
G−2号機からコックピットに行くには2本の鉄棒を使って腕の力で上らなければならない。
左肩の激痛がそれを邪魔したのだ。
ジョーの戻りが遅い事に気付いた健は、ハラハラしていた。
だが、これで核兵器の使用を阻止出来た事だけは確かだ。
後はキタセン国に入り込んでいるギャラクターをどうするかだけだった。




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