『友情と復讐心の板挟み』

人気のない南部の別荘の裏通りを歩いて行くと、子供の頃から良く2人で遊びに来ていた秘密の森がある。
今、そこで健とジョーがまさに対峙していた。
一晩帰って来なかったジョーを、健は朝まで待ち伏せしていたのだ。
ジョーは前日、医師が自分の余命について話しているのを聞いてしまってから、街中をうろついていた為に帰りがこの時刻になったのだ。
「お前、医者に診せたのか?」
「何の事だかさっぱり解らねぇな…」
健の質問をはぐらかすジョー。
「お前の様子がおかしいと気付かない俺だと思うのか!?」
健が険しい表情でジョーを見た。
「体調が悪いのなら、ちゃんと休養しろ。なぜ南部博士に言わん?
 俺にも言えないって言うのか?」
「ヘビーコブラを俺1人で倒したのを見ただろう?それでもまだ俺がおかしいって言うのか?」
先日も街中の寂れた裏通りで殴り合いを演じたばかりの2人であった。
「あの時もお前と殴り合ったが、俺の動きに何か異常があったか?」
ジョーは低い声で言った。
「いや…、お前の動きはいつもより冴えているように感じた。
 しかし、お前を見ていて、違和感を感じているのは事実だ。
 顔色も冴えないし、まだ時々頭痛があるようじゃないか?」
「そんな事ねぇよ。おめぇの思い過ごしだ…」
「そうだろうか…」
健は腕を組んでジョーの姿を黙視する。
「お前……、少し痩せたんじゃないのか?」
「痩せて見えるのだったら、もっと鍛えなきゃなんねぇな。
 落ちているのは筋肉だって言いてぇのか?」
「違う…。そうじゃない。お前は俺に何かを隠している!」
ジョーは頭(かぶり)を振った。
頭を振り動かした事で少し眩暈がしたが、健に気取られないように気をつけた。
「おかしいのはそっちだぜ!余計な事を考えてねぇで、ちゃんと寝ておけよ!
 俺が帰らないのなんていつもの事じゃねぇか!
 いつ任務があるか解らねぇのに、何でこんな所で俺の帰りなんか待ってやがるんだ?」
「ジョー!」
(言わなくても解るだろう?俺の気持ちが…。科学忍者隊のリーダーとしてだけじゃない。
 お前は俺の……)
健は拳を握り締めた。
「殴るのか?此処で一戦交えても俺は構わねぇぜ!」
ジョーは健を挑発しながらも、
(健…済まねぇ。俺はもう後戻り出来ねぇんだ。俺には時間がない!)
心で健に詫びていた。
ジョーは憎まれ口を叩いていても、本心では健の気持ちを有難く受け止めていた。
(おめぇと過ごした10年間、決して忘れはしねぇぜ!)
クロスカラコルムに1人で乗り込む決意を既に固めていたジョーであった。
この時、ジョーの心は友情と復讐心との間で揺れていたのは事実だが、残された時間が少ない事が彼の復讐心の後押しをした。
その時、2人のブレスレットに呼び出しが掛かった。
急いで南部の別荘に駆け戻り、司令室へと向かった。
走っている最中も健はジョーの様子を観察していたが、様子がおかしいようには感じられなかった。

しかし、その場所で、ジョーは南部から出動を禁じられてしまう。
「自分の身体の事は自分が一番良く知っている筈だ」
南部の言葉に健は今更乍ら愕然とした。
(やはりお前は病気だったのか…!何故俺に言ってくれなかった?!)
健の視線が突き刺さった。
「ゴッドフェニックスにG−2号を載せて行ってくれ…。俺の代わりにな……」
俺が居なくとも、G−2号機を積んでいれば、ゴッドフェニックスはその機能を果たす筈だ。
G−2号機よ、俺の代わりに任務を果たしてくれ。
ジョーは願いを込めて、走り去る健達の後姿を見つめた。
彼らの姿をその眼に焼き付けるかのように……。




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