『核兵器悪用を阻止せよ!(4)』

健と甚平の加勢もあって、辺りのギャラクターの隊員達を一掃する事が出来た。
「よし、突入しよう。ジョー、大丈夫か?」
健が眉を顰めた。
彼にはジョーの呼吸がいつもより荒く感じられたのだ。
「大丈夫さ。行こうぜ」
ジョーは自ら先陣を切り、銃口を先兵に守衛所へと飛び込んだ。
その中には守衛所には不似合いな大きな金庫があり、そこの扉が開いていた。
ギャラクター達はそこから出て来ていたのだ。
4人は素早くそこに入り、最後に入った甚平があっかんべーをしながら、扉を閉めた。
「今日はクリスマスイヴだぜ。
 早く片付けないとパーティーが出来ないからね、お姉ちゃん」
甚平はそっとジュンだけに囁いた。
「あら、任務中にそんな事は考えないのよ」
ジュンが窘めた。
1ヶ月も前から甚平がジュンにクリスマスケーキの作り方を伝授していた。
それを甚平は言っているのだ。
「ジュン、甚平の苦労に応える為にも、早くやろうじゃねぇか?」
ジョーが2人の遣り取りを聴いていて、ニヤリと笑った。
彼は甚平の苦労をつぶさに知っていた。
傷を受けているにしては余裕がある。
弾丸が貫通していたのが良かったのだろう。
出血は酷かったが、骨は砕けていないらしい、とジュンは思った。
「おい、健。あそこに光が見えている」
「ああ、気をつけて掛かれ。あそこが基地だ。
 ジュンと甚平は電力室の爆破を頼む。
 ジョーは俺と来い。心配だ」
「心配するこたぁねぇ、と言った筈だが、まあいいだろう。
 司令室を探すんだな」
「でも、健。此処を爆破してしまったら、上の官邸も巻き添えを喰うのではなくて?」
「そこは爆弾の量を調節するんだ」
「解ったわ」
「中に入ったら二手に分かれるぞ」
「ラジャー」
光に向かって走り続けると広い場所に出た。
早速ギャラクターの攻撃の洗礼を受ける。
ジョーは率先して羽根手裏剣を繰り出し、エアガンの三日月型キットを容赦なく、敵兵に叩きつけた。
失血している事を考えると、肉弾戦よりも武器を使った闘いの方が体力を失わなくて済む事は、彼自身が一番良く知っている。
効率的に闘う為にも、その方法が一番良いのだ。
唇には羽根手裏剣が3本、常に咥えられていた。
必要な時にはエアガンを左脇に挟んで、それをピシュッと放っていた。
健はそのジョーの闘い振りを見て、大丈夫だと思ったようだ。
ジョーの傍から離れずにいたのだが、自由に闘い始めた。
「バードラン!」
派手な掛け声で、彼の自由になるブーメランを放って敵兵を一掃して行く。
「俺達は内政干渉までは出来ねぇ。
 健、この基地を破壊したらさっさと引き上げようぜ」
「ああ、解っている。
 お前の手当も急がなければならん」
「その事を言っている訳じゃねぇんだが…」
ジョーは渋い顔をした。
ただ、甚平の努力を無駄にさせたくなかっただけなのだ。
彼らがクリスマスケーキを作るのは、仲間達の為ではなく、飽くまでも健の為だと言う事を彼は知っている。
この特別な日でなければ駄目な事もある。
明日がクリスマス当日だからいいじゃないか、と言う訳にも行くまい。
ジョーは甚平が言い出すまで、今日がクリスマスイヴだと言う事に気付かなかったし、健はその話自体を聴いてはいなかった。
今日がその日だと言う事を思い出してもいないだろう。
しかし、どうしてキリスト降誕祭ではなく、イヴに祝い事をするのか、ジョーには不思議でもあった。
キャンドルサービスの風習から来るものなのか?
日本人は敬虔なクリスチャンでない限り、そんな事はすまい。
ジョーが教会に通っていた頃はまだ幼かったので、詳しい事は知らない。
ユートランドに引き取られてからは、そう言った場所には出入りしなかった。
ジョーはそんな事を考えながらも、油断なく、目線を走らせていた。
羽根手裏剣が健の後方の敵を捉えた。
次の瞬間、ジョーは反転して、自分の後方から狙っている敵にエアガンを撃ち込んでいた。
どさり、と音がして、前後で敵が倒れた。
「ジョー、どうやら司令室はあっちらしい」
健が指差した先の通路からやたらに敵兵が出て来るのだ。
「そうだろうな…」
「行くぜ、ジョー」
「おうっ!」
健がブーメランで突破口を作って、走り始めた。
「ジョー、遅れるなよ」
「解ってる。俺がおめぇに遅れを取る筈がねぇだろ?」
ジョーは自信たっぷりだった。
敵兵を武器で薙ぎ払いつつ、傷を受けていない右肩で体当たりして、何人をも突き飛ばした。
そのまま敵兵を長い脚で足蹴にし、彼が1周するとその周りでドタドタと敵が崩れ落ちた。
ジョーの脚力は大したものである。
どうしても肉弾戦が必要な時は、出来る限り、その自慢の脚力を披露した。
彼が華麗に繰り出す足技には、敵兵は一溜まりもなかった。
その動きで少し止血帯がずれたが、ジョーは闘いを辞さなかった。
健はそれに気付いたが、今、手当をし直している余裕はない。
「ジョー、一旦退避して手当を…と言いたい処だが、今、その余裕がない。
 出血に耐えられるか?」
「俺は足を引っ張らねぇと言った筈だぜ。
 おめぇは口煩ぇから、最初の予定通りジュンと行動していた方が良かったかもな」
「それはどうかな?ジュンの方がいざとなったら怖いぜ」
健が元気な口調で答えるジョーの様子を見て、ニヤっと笑った。
「そうかもしれねぇな」
そう言いながら、ジョーは身を低くして、敵兵の足を一斉に薙ぎ払った。
足払いを喰らって敵はバランスを崩し、バタバタと面白いように倒れて行った。
持ち主を失ったマシンガンが数本、勝手にガガガガガっと咆哮した。
その流れ弾に当たって倒れる敵もいたが、2人は飛び退って天井に張り付き、それを避けた。
ジョーの肩から血が滴った。
「ジョー、大丈夫か?」
「心配するな。降りるぜ」
2人はジョーの言葉を合図にヒラリと床に舞い降りた。
「さあ、司令室はもう少し先だぜ。
 先を急ごう」
「ああ」
2人は顔を見合わせて走り始めた。
ジョーは失血しているのにも関わらず、健に遅れを取る事なく、走った。
健は正直言ってジョーの底力に舌を巻いていた。
見るからに顔色が悪いのだ。
輸血が必要になるかもしれない、と健は思っている。
それなのにこの働きだ。
こいつの意志の強さは侮れない、彼はそう思った。
長年の付き合いで解っている筈だが、改めてそう感じたのである。
「健、あそこだぜ」
ジョーが顎で示した場所に、大きな扉が立ちはだかっていた。
「体当たりぐれぇでは開かねぇようだな。俺に任せておけ」
ジョーはエアガンのバーナーを使って焼き切る事を試みた。
「健、敵は頼んだぜ」
「任せておけ」
健の声が頼もしく響いた。
健が闘っている音を頼もしく背中で聴きながら、ジョーは作業を急いだ。
「ようし、健、風穴が空いたぜ」
ジョーは言うが早いか、丸く切り取った穴を蹴り飛ばし、中に突入していた。
健も急いでそれに続く。
中には国家首席とカッツェが並んでのんびりとワインを喰らっていた。
「ようこそ、科学忍者隊の諸君。待っていたぞ」
カッツェは余裕だった。
ジョーはその余りの余裕振りに警戒を強めた。
「ほう、一羽は手負いのようだな」
カッツェがワインを置いて立ち上がった。
「核兵器を凍結するとは南部も考えたものだ。
 お陰で私の計画は立ち消えとなった」
「当たりめぇだ。あんな物を地球上で使わせてなるものかよ?」
ジョーが悪態をついた。
「そうか、貴様があの特殊バズーカ砲の射手だな。
 ゴッドフェニックスの機首から撃つとは全く恐れ入った」
カッツェのその言葉に、健は思わずジョーを庇うかのように彼の前に出た。
「健、庇われるのは屈辱だな」
ジョーが呟いた時、ドーンと音がして、ジュン達が電力室を爆破したらしいのが解った。
この司令室も一旦真っ暗になったが、すぐに自家発電に切り替わったらしく、明かりが点った。
だが、自家発電には限りがある筈だ。
待っていてもいつかは尽きるだろう。
しかし、そんな悠長な事は言っていられない。
健には何だかんだと言っても、ジョーの手当を早くしたい、と言う気持ちしかなかった。
「ジュン、自家発電装置を探して破壊してくれ」
健が即座に指示を飛ばした。
『ラジャー』
ジュンの頼もしい返事が返って来た。
ジョーの肩からはポタポタと血の滴が落ちて、床に血溜まりが出来ている事に気付かない健ではなかった。
「健、メインコンピューターは天井に組み込まれてるぜ」
ジョーが傷の事は気にしていない風にニヤリと笑った。


※甚平は379◆『下準備』で、ジュンの為にクリスマスの準備をしています。




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