『マントル計画中止勧告(1)』

南部博士から呼び出しが掛かったのは、全員が『スナックジュン』に集まっている時だった。
ジュンと甚平は即座に店を閉め始めた。
科学忍者隊のメンバー以外に客がいなくて良かった。
ジョーは竜をG−2号機に乗せてヨットハーバーへと走った。
G−5号機と合体してしまえば、現地に向かうのも手っ取り早いからだ。
ジュンと甚平もそれぞれのGメカで、ジョーの後ろからやって来た。
健だけはバイクで自宅の飛行場に戻り、セスナに乗り換える必要があった。
それでも、20分後には全員が揃って、南部博士が指定した『RP48地点』に達していた。
『諸君、ご苦労。その『RP48地点』の前方10kmに海洋科学研究所があるのが見えると思う。
 そこからマントル計画の大事なデータが盗まれた』
「またですか?」
健が不満そうに声を上げた。
ジュンが健のマントを引っ張った。
ジョーも同じように思ったが、口には出さずに静観していた。
意外にも南部博士に楯突くのは健の方が多かったのだ。
『ギャラクターは海洋科学研究所の所長を誘拐し、マントル計画の中止を勧告して来ている』
「人質を取るとは相変わらず汚ねぇ奴らだ」
ジョーは握り拳で左の掌をパンと叩いた。
彼が無意識に良くやる仕草だ。
「全く、人質を取らなけりゃ何にも出来ねぇくだらねぇ連中だぜ!」
「そう言う事なら仕方がないですね」
健はまだ少し不満が残っている様子を隠さずに言った。
「で、人質を救出し、データを取り返すのが我々の任務ですね?」
『そう言う事だ。諸君の成功を祈る』
南部も事務的に通信を切ってしまった。
「健、どうしたの?機嫌が悪いじゃない。
 南部博士も気分を害されたわ」
ジュンが取り成そうとした。
「前にも言ったが、いつもの事じゃないか?
 俺達はISOと国連軍の尻拭いばかりで、全くギャラクターの本部を探すと言う『本当の任務』を遂行出来ない…」
ジョーには健が焦りを見せるのも解る気がする。
彼自身も同じ気持ちだったし、このまま手を拱いて後手後手に回っているのは何よりも気に喰わなかった。
「健、俺の気持ちも同じだぜ。
 科学忍者隊はもっと積極的にギャラクターの本部を突き止めるべきだと思うぜ。
 だが、その日はもうそう遠くはない筈だ。
 最近のギャラクターの動きを見ていると、刹那的ではなくなっているように思えるぜ。
 そうだろ?健」
「………………………………………」
ジョーの言葉に、健は唇を結んだまま答えなかった。
彼もひしひしとその実感は感じている筈だ。
ただ、ギャラクターの陰謀を1つ1つ潰しているだけの今の闘い方に疑問を持ち始めているのは明らかだった。
こう言う時は何故かジョーが冷静になる。
2人は上手くバランスが取れていた。
「竜、とにかくゴッドフェニックスを着陸させろ。
 現場に行ってみねぇ事には、埒が明かねぇ」
ジョーが健の代わりに竜に指示を出した。
「ラジャー」
竜も健の事を心配しながらも渋々と言った感じで操縦桿を動かした。
リーダーが命令を出さない以上、サブリーダーの命令に従うしかない、と彼も判断したのだ。
やがてゴッドフェニックスは海洋科学研究所の近くの砂浜に着陸した。
小さな蟹が逃げて行くのが、スクリーンに映っていた。
「おい、健。行かねぇのか?」
ジョーが健をせっついた。
「行くさ。それが任務なのだから」
健も漸く顔を上げた。
大方、父親の事でも思い出したんだろう。
ジョーはそう思った。
心が乱れるのは仕方がねぇ。
だが、おめぇはリーダーだ。
いつでも凛としていてくれ。
ジョーはそう願った。

竜を含めた全員が、トップドームから砂浜に降り立った。
海洋科学研究所の建物まで忍び寄って行く。
シンと静まり返っていた。
そこに働いていた人々は一体どうしたと言うのだろう?
中に慎重に入って行く。
甚平が「ヒッ!」と思わず声を上げた。
「シーっ!甚平、声を出さないの!」
ジュンが含み声で言った時、彼女も息を呑んで固まった。
どうした、と言う感じで年上の男3人が2人の後方から覗き込んだ。
そこには高熱で溶けたと思われる人影があった。
「ひでぇ事をしやがる。
 これでは、職員は全員全滅か?」
ジョーが呟いた。
「とにかく、データルームへ行こう」
健がマントを翻して走り始めたので、全員がそれに続いた。
データルームの位置は南部からゴッドフェニックスへ地図が送られていた。
全員が頭に叩き込んである。
すぐに探し出す事が出来た。
「竜、カメラを持って来たか?」
健が訊いた。
「勿論じゃ」
「室内を余す処なく撮影してくれ。
 俺達では何が盗まれたのか全く解らん」
室内は荒れに荒れていた。
「意外とどのデータが必要なものなのか解らなくて、ごっそり持って行った可能性もあるぜ」
ジョーが言った。
紙のデータ類は全部残っているようにも見える。
部屋にあったデスクの引き出しを見てジョーが声を上げた。
「健、此処の鍵が壊されているな。
 中に小型金庫らしき物があった形跡がある」
ジョーが指を指した処には金属の錆と見られる跡があった。
「竜、此処も撮影してくれ。
 狙いはこれだったのかもしれん」
健が竜を呼んだ。
「全員散って他にも手掛かりを探してみよう」
まだ撮影が残っている竜を此処に残して、4人は健の指示でそれぞれに散った。
ジョーは健と一緒に所長室へと向かった。
「まさか、所長も殺されているってこたぁねぇのか?」
「有り得るな。博士は所長の姿を脅迫テープで確認しているようだが、カッツェは変装の天才だからな」
「平気で汚ねぇ事をやりやがるからな」
ジョーは拳を握り締めた。
健が唇を噛んでいるのが解る。
「健。おめぇが焦る気持ちは俺が一番良く解るぜ。
 他の誰よりも正確にな。
 だが、おめぇは科学忍者隊のリーダーとして俺達を束ねて行かなければならねぇ。
 そう、心を入れ替えたんじゃなかったのか?」
ジョーは室内を調べながら、言った。
「解っている。……解っているつもりだった。
 だが、どうしようもなくなる時があるのさ。
 お前になら解るだろう?」
「解るさ。俺はおめぇに酷な事を言っているのかもしれねぇって事もな。
 サブリーダーと言う立場に胡坐を掻いて、リーダーとしてのおめぇの資質に負ぶさっている事もよ」
「ジョー…。俺にはリーダーとしての資質なんて物はないのかもしれない」
「どうした?自信を無くしてるのか?
 おめぇにリーダーの資質がなかったら、俺達が付いて行く訳がねぇだろうが。
 おめぇを信頼しているから、俺達は存分に働ける。
 自分を過小評価するのは今後一切やめろ。
 そんな言葉は俺以外に向けて吐くんじゃねぇぜ」
ジョーはポンっと、健の肩を叩いた。
「俺達のリーダーは自信たっぷりで不敵に笑う。
 そう言う奴だった筈だぜ」
ニヤリと笑って見せた。
「さあ、さっさと解析を済ませて、一旦基地に戻ろうぜ。
 此処にいても今後の対策は立つまいよ」
「ああ、そうだな」
健も気を取り直して、調査に本腰を入れ始めた。




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