『マントル計画中止勧告(3)』

「同じ手を使って来る可能性があるな。
 南部博士は別室に行っていて下さい。
 危険です。警備員の3人も…」
健が南部に言った。
ジョーが警備員の中に変装したカッツェが紛れ込んでいるかもしれない、と言った事から、健はその眼の前で変身する愚を犯さなかった。
「いえ、我々はこれが仕事ですから」
2人は尻込みしていたが、1人がそう言った。
ジョーが強い眼でそれを睨みつけた。
「撤退しねぇのなら、カッツェの変装だと疑わなければならねぇ」
「わ…解りました」
警備員は一旦仲間と一緒に撤退する素振りを見せたが、振り向きざまに銃を向けた。
「危ないっ!」
ジョーは健と一緒に南部博士をデスクの陰に押し込んだ。
案の定、硫酸の粒子が出る銃を構えていた。
ジョーが言うように、この男がカッツェだったのである。
そのまま変装したカッツェは、警備員2人を溶かしてしまった。
「ひでぇ事をしやがる!」
ジョーが歯噛みした。
「そこの若造2人は只者ではなさそうだな」
カッツェは変装を解いた。
「ふふふ。科学忍者隊の臭いがするな」
「それはどうかな?科学忍者隊が常に南部博士の傍にいるこたぁねぇ」
「ほざくな、ガキめ。お前の目つきが気に入らん。
 お前から溶かしてやろうじゃないか」
カッツェが言った時、ジョーは既に大腿部の隠しポケットからエアガンを取り出していた。
カッツェが持っていた銃は、ジョーが見事に打ち落とした。
「博士!」
ジョーは携帯用酸素ボンベを博士に投げ、すぐさま2弾目でガス弾を発射した。
うろたえているカッツェを尻目に、2人は書棚の向こうに隠れ、そこで変身した。
再び、戻って来た時、カッツェの姿はなく、1メートル程の小さなカマキリ型のメカが大量にそこに現われた。
これがカマの先から粒子化した硫酸を発射していたのである。
「ジュン、聴こえるか?こっちにギャラクターが現われた」
健がブレスレットで通信する。
『こっちには来ていないわ。すぐに甚平と向かうわね』
「竜、そっちはどうだ」
『こっちも同様じゃい。すぐに行く』
「博士の予想が当たったって訳だな」
ジョーが呟いた。
「ジョー、とにかくこいつのカマの先に気をつけろ。
 バードスタイルだから大丈夫だとは思うが、当たらないに越した事はない。
 博士はこちらから連絡するまで地下に避難していて下さい」
「解った。頼んだぞ」
南部は秘密のエレベーターに乗り込んだ。
彼の指紋認証でしか動かないエレベーターだ。
これで取り敢えず2人は小型メカ鉄獣に集中出来る。
「だが、こいつの弱点はどこだ?」
ジョーがごちた。
「良く見るんだ、ジョー。必ず何かある筈だ」
「おめぇのブーメランでカマキリの腕を切り落としてみろ。
 硫酸の粒子を出しているのは先端からだぜ」
「よし、やってみよう」
健が「バードラン!」と叫んだ。
カマキリ何体かの腕がもげた。
カマキリメカはゆらりと揺れて仲間を巻き込んで爆発を起こした。
「これだな、ジョー」
「ようし、やってやるぜ」
カマキリメカは数だけは多い。
ジョーもエアガンで腕を撃ち抜いて行った。
形勢が不利となると、カマキリメカは撤退を始めた。
戻って行く道々で、ISOの職員が犠牲になっていた事が解る。
「何てこった。お年玉を楽しみにしていた子供がいる人もいただろうによ」
ジョーが悔しげに吐き捨てた。
健は南部に事情を連絡した。
ISOの建物を出たカマキリ型メカ鉄獣は、合体を始めた。
数がいくらか減っている筈だが、巨大なカマキリに変身を遂げた。
「竜、急げ!敵のカマキリ型メカ鉄獣が合体を完了した!」
健がブレスレットに向かって叫んだ。
『ラジャー。ジュンと甚平と合体を済ませて、今全速力で向かっとるわい』
その言葉通り、ISOの建物を出た2人の前に、上空を旋回するゴッドフェニックスが見えていた。
ビル街の為、ゴッドフェニックスは着陸出来ない。
「竜、カマキリ型メカ鉄獣を海の方に引きつけてくれ。
 俺達はジョーのG−2号機で追い掛ける」
『ラジャー。おらに任せとけ』
竜の頼もしい答えが聴こえた。

ジョーはゴッドフェニックスが向かっている海岸線に向かってG−2号機を飛ばした。
健が上に乗っている。
街中にガッチャマンが現われて驚いている人々もいたが、それどころではなかった。
ジョーは街中を外れて、山中を飛ばした。
街中では一般車がいて危険だし、山中の方が近道だった。
ゴッドフェニックスがオーククリッパーを伸ばして来る前に、健は飛び降りて、直接トップドームへと上がった。
「海に誘き出して、どうする?
 硫酸は威力を増しているぞい」
コックピットに2人が戻ると、竜が訊いた。
「中に飛び込もう。硫酸を街中に撒かれるよりはいいと思ったんだが…」
健が言った。
「また海が汚れるのう…」
竜は哀しそうな顔をしたが、それ以外には手がなかった。
「どこに行っても地球のどこかが汚される事になるからのう」
ジョーは黙って竜の肩に手を置いた。
「健、どこから侵入する?」
竜の隣の席に座っている健に訊ねた。
「ジョーならどこから入る?俺はカマキリの眼を狙ってバードミサイルを撃ち込むのがいい、と思っている」
「全く同感だな」
ジョーは短く答えた。
「その仕事は貰ったぜ」
「ああ、任せるよ」
健は気のない様子で答えた。
まだISOの尻拭い感が消え去っていないらしい。
ジョーは勇躍赤いボタンの前に立った。
指を翳すとガラスの蓋が開いた。
「竜、上手い事旋回して、敵の正面に出てくれ。
 1発で決める」
ジョーの眼がツーっと細くなった。
獲物を追うコンドルの眼だ。
「行くぜっ!」
バードミサイルのボタンが押された。
狙い違わず、カマキリの眼に穴が空き、丁度彼らが入る突破口が出来た。
「ジョー、ジュン、甚平、行くぞ!」
健が指示を出し、4人はトップドームへと上がって行った。
敵のメカ鉄獣に4人が無事に乗り込むと、竜はゴッドフェニックスを旋回させた。
竜にはまだ、カマキリメカが街中に戻らないように上手く誘導しておく役目があった。
健達のように華々しく闘えなくても、こう言った重要な役割をしているのだと言う事を、健やジョー達は彼に知って欲しかったし、決して自分の役目が軽視されているのではないと言う自覚を持って欲しかった。
ゴッドフェニックスのメインパイロットとして、竜はその役割を十二分に果たしている。
竜はもっと自信を持っていい。
それが他の4人のメンバーの共通した思いだったのだ。
いよいよ、メカ鉄獣の中での肉弾戦に入る時、ジョーは一瞬そんな事を思った。




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