『マントル計画中止勧告(4)』

カマキリ型メカ鉄獣に侵入すると、いきなり敵兵のマシンガンの咆哮が待っていた。
マントでそれを避けながら、4人は走り出した。
「ジュンと甚平は動力室の破壊だ」
「ラジャー!」
2人が健の指示で分かれて行った。
「ジョー、行くぜ」
「肉弾戦になると俄然やる気を出すリーダー様だな」
ジョーはニヤリと笑って、走り始めた。
肩の傷は任務に支障ない程に回復している。
ジョーは長い脚で敵の足払いをしながら、羽根手裏剣を存分に飛ばした。
その合間を健のブーメランが1周して来た。
2人は頷き合って前へと進んだ。
相談せずとも行き先は決まっている。
「司令室は普通に考えればこのカマキリの頭だが、どうやら違うようだぜ」
カマキリの眼から入って来たのだ。
そこが司令室ならすぐに解る。
「腹の辺りかもしれないな」
健が呟いた。
縦長のカマキリメカだ。
中は階段が続いていた。
あの小さなカマキリ型のメカが合体して出来上がったとは思えない程、内部は上手く出来ていた。
このような複雑な作りに出来るとは、ギャラクターの科学力は恐るべきものだ。
2人は勢い良く駆け下りた。
先程2人が応戦している間にジュンと甚平は別階段を下りて行った筈だ。
そこにも敵兵がわらわらといたに違いない。
今、彼らの前にも多くの敵兵が現われていた。
狭い階段の事だ。
健のブーメランは扱いにくかった。
「健、此処は任せておけ」
ジョーが前に出て、羽根手裏剣とエアガンで敵兵を薙ぎ倒して道を作った。
「ジョー、此処は分かれよう」
階段を下りると、左右に通路が分かれていた。
「おう、何か見つけたら連絡するぜ」
ジョーも返事をして素早く右側の通路へと進んだ。
阿吽の呼吸で、打ち合わせるまでもなく、健は左へと進んでいた。
何か通じ合うものがあるのかもしれない。
ジョーはひたすら走った。
通路が尽きるとまた階段があった。
そこを駆け下りて行く。
勿論、その間に敵兵が邪魔に入る事はしばしばで、ジョーは重い膝蹴りを与えて、気絶させたり、回転して長い脚を振り子のようにして敵兵を倒しまくった。
そのスピードたるや凄まじい。
良く眼が回らないものだ。
三半規管が並外れて優れているのだ。
レーサーをやる程だから、その能力は計り知れない。
最後の敵に蹴りを入れた瞬間には、次の敵を見切っており、離れた場所にいる敵に羽根手裏剣を雨霰と降らせて倒した。
次の瞬間にはエアガンの三日月型のキットが飛んでいる。
タタタタタっと小気味良い音が響くのもいつもの事だ。
「うわぁ!」
と悲鳴を上げながら、敵兵が倒れて行った。
衝撃を与えただけなので、死んではいない。
さすがのジョーもこの年越しの時期に敵とは言え、手に掛けたくはなかったのだろう。
羽根手裏剣も急所は外してあった。
「早く片付けねぇと甚平が嘆くしな」
ジョーはそっと呟いて、更に先へと進むのだった。
司令室にはまだ人質がいるのか、それとも殺されてしまっているのか、別の場所に監禁されているのか、それすら解っていない。
行動は慎重にしなければならなかった。
『ジョー、司令室を見つけたぜ』
健からブレスレットへ通信が入った。
「ああ、恐らく俺がいるこの扉もおめぇの反対側から司令室に入るドアだと思うぜ」
ジョーは鉄製な大きな扉の前に立っていた。
「俺はバーナーで扉を焼き切る事が出来るが、おめぇはどうする?」
『爆弾を使うまでさ』
健が不敵に言った。
腰からマキビシ爆弾を出すのか、踵から時限式爆弾を出すのかはジョーには解らないが、どちらかの方法で健は無事に司令室に侵入する筈だ。
ジョーもエアガンのキットをバーナーに切り替えて、扉を焼き切り始めた。
丸く扉を切り取るのに、少し時間が掛かった。
その間にも攻撃を仕掛けて来る敵がいる。
ジョーはその度に羽根手裏剣で牽制したが、敵の数が半端ではなく、一旦作業を中止して、闘わざるを得なかった。
これでは健に遅れを取る、と彼は思った。
敵兵と戦いつつ、視力検査の一部が切れた丸ぐらいまでには切り目を入れていたドアに、敵兵を投げつけた。
すると、残りの部分が上手く折れ曲がり、敵兵は司令室内に投げ込まれる形となった。
そのお陰でジョーが入れるスペースが出来た。
「敵も使いようだな」
ニヤリと笑うと、ジョーはその穴から中へと飛び込んだ。
やはり少し早く健が中へと突入していた。
「ジョー、人質は此処には見当たらないようだ」
「当たり前だ。人質は自白剤を注射して、別室で眠っている」
カッツェの嫌な声が響いた。
『健、人質を発見したわ!酷く弱ってる』
ジュンからの通信があった。
「救出を頼む。動力室の爆破は?」
『今、甚平が当たっているけど、私もすぐに応援に行くわ』
「解った。頼んだぞ」
健は怒りをその表情に滲ませていた。
「カッツェ、相変わらず汚い手を使う奴だ」
「しかし、人質を吐かせた後、殺さなかったとは珍しいもんだな」
ジョーが誘導尋問を掛けた。
まだ海洋科学研究所の所長は金庫の開け方について、喋っていないのではないか、と思ったのだ。
「自白剤を打ったが、残念ながら隠し場所はあの金庫ではなかった。
 データは所長の指輪に仕込まれているらしいが、まだそれが見つからなくてな」
カッツェにしては珍しく饒舌に喋った。
「博士!海洋科学研究所の所長宅にギャラクターが家捜しに行っている可能性があります。
 国連軍の手配をお願いします」
健がブレスレットで南部博士に連絡をした。
『何?解った、すぐに手配する』
博士の機敏な応答があった。
所長の家族まで襲われては二次被害もいいところだ。
何としても喰い止めたいが、今科学忍者隊にそれをする余裕はない。
「無事であってくれる事を祈るしかねぇ…」
ジョーは呟いて、カッツェに向かってエアガンを構えた。
それを発射した時、自ら的になってギャラクターの雑魚隊員が倒れた。
「何もこんな奴を庇うこたぁねぇのによ」
ジョーは吐き捨てた。
羽根手裏剣は喉笛を突けば相手を死に至らしめる事になるが、エアガンは生命を奪う事はない。
後で息を吹き返すだろう。
「所長はジュン達が助けた。
 そろそろ動力室の爆破も終わる頃だろう。
 健、こっちも仕上げに掛かろうぜ」
「ああ」
2人はブーツの踵から爆弾を取り出して、コンピューターに仕掛けた。
爆発までの残り時間は1分だ。
この爆弾は1度取り付けたら簡単には取り外せないように出来ている。
健はこれを温存する為に、此処に入って来る時にはマキビシ爆弾を使ったようだ。
彼はその残りをカッツェに向かって投げつけたが、その爆風の中からカッツェは消えた。
「健、あれじゃ、逃げやすい状況を作ってやったようなものだぜ」
「くそっ」
健はブレスレットで竜を呼び出した。
「竜、何か飛行艇などが飛び出さないか監視するんだ。
 出て来たらミサイルで攻撃しろ」
『ラジャー』
「カッツェを生け捕りにはしねぇのか?」
ジョーが訊いた。
「このまま逃がして悪事を続けさせるよりはマシさ。
 さあ、ジョー、脱出するぜ」
「おう!ジュン達の方はどうなった?」
ジョーがブレスレットに向かって話し掛けようとした時、下部の方からも爆風が巻き上がった。
「どうやら成功したらしいな」
健が言った。
「健、先に行ってろ。
 ジュンと甚平では所長を連れて逃げるのに支障があるかもしれねぇ。
 おめぇは先にゴッドフェニックスに戻って、カッツェの行き先をレーダーで追跡してくれ」
「解った。時間がない。気をつけろ!」
ジョーは健の言葉を背中で聴いて、走り出していた。




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