『5人の年越し』

ジョーはトレーラーハウスでTVを観ていた。
観ていると言うよりは、ただ『流している』だけだ。
テレビではそろそろ『行く年来る年』が流れ始めていた。
ジョーはリモコンでテレビを消すと、「さて、シャワーでも浴びるとするか…」と独り言を言った。
(どうやら今年は無事に終わりそうだな…)
常に死と隣り合わせにある任務。
ジョーは生命を惜しむ気持ちはこれっぽっちも持ち合わせていなかった。
寧ろ、闘いの中で死ねるのなら本望だ、と常に思っていた。
いつ生命の終わりが来ても、無様な死に方だけはしたくないと言うのが彼の考えだった。
そして、無駄な生命の落とし方をする事も御免だぜ、と思っていた。
18歳にしてこの死生観。
10年前に目(ま)の当たりにした両親の死がその始まりである事は否定出来まい。

シャワールームの水が掛からない位置にちょっとした台が設えてある。
ブレスレットを外してそこに置いた。
万が一の時でも、すぐに返答が出来るように、と言うのは既に彼の癖として身体に染み付いていた。
シャワーの温度は熱めが好みだった。
まずは髪から丁寧に洗い始める。
ちょっと枯れたような茶色の髪が濡れて行く。
白いシャンプーの泡が細いが鍛え上げられた逞しい身体に滑るように流れて行った。
ジョーは口笛を吹きながらサッパリと全身を洗い上げ、白いバスタオルを手に取った。
それを腰に巻き付けただけの姿でシャワールームから戻ると、コンコン!と外からノックの音がした。
(こんな時間に来る奴はあいつしかいねぇ!)
ジョーは警戒する事もなく、その姿のままトレーラーハウスのドアを開けた。
「うっ!」
そこに居たのは、予想していた通り健だったのだが、その横にはジュンも居た。
ジュンは恥ずかしそうに頬を染めてそっぽを向き、ジョーは慌ててドアを閉めると中に駆け戻った。
「馬鹿野郎!ジュンも連れて来るなら、事前に言っとけよ!」
赤くなったのはジュンだけではない。
ジョーも同様だった。
ベッドの上にきちんと畳んであった服を着込み、改めて「入っていいぞ!」と外に声を掛けた。
「別にお前まで赤くなる事はないだろう?ちゃんとバスタオルを巻いてた癖に」
言い乍ら入って来た健の後ろに居たのは、ジュンだけではない。
竜と甚平も居た。
「おいおい…、甚平。お子様はとっくに寝る時間だぞ」
ジョーは呆れたように言った。
「5人では窮屈だが、とにかく入れよ。丁度いい具合に暖まってるぜ」
4人はそれぞれにスーパーの袋を提げていた。
「何だよ?ニューイヤーパーティーでもするつもりか?」
ジョーは眼を瞠(みは)った。
「まあ、そんな処だ」
健が答える。
「何だ、それなら『スナックジュン』に呼び出しゃあいいじゃねぇか?」
「たまには趣向を変えたいって、甚平が言い出したのよ…」
ジュンが部屋を見回しながら言った。
「結構綺麗に片付いているのね」
「俺は物を置かねぇ主義なのさ」
ジョーは肩を竦めると、折り畳みの丸椅子を3つ出した。
「椅子はこれしかねぇんだ。健は俺のベッドに座ってくれ」
「おらにはこの椅子は小さそうなんじゃが…」
竜が困惑している。
「じゃあ、お前がこっちに座れよ」
健がベッドの端を譲ろうとしたが、ジョーが難色を示した。
「ベッドが壊れちまったらたまらねぇな。竜は床に座れ」
ジョーは大きめのクッションを用意してやった。

『Happy New Year!!』
健達が持参したオレンジジュースやアップルジュース、グレープジュースなど好みの物を選んで乾杯する。
「俺だけ何も出さないのも気が引けるな。チーズで良かったら、旨いのがあるぜ。
 少し甘みがあるんだ。料理に良く使われるが、生で食べても旨いんだぜ」
ジョーが冷蔵庫から取り出したのは、シチリア産のリコッタチーズだ。
「レーサー仲間が旅行に行ったらしい。俺の故郷の味だから、って買って来てくれたんだ」
「そんな大切な物を私達が戴いてもいいの?ジョー」
「構わねぇさ。大勢で味わった方が旨いってもんだぜ」
ジョーが皿に取り分けた。
「まあ、竜には物足りねぇだろうがな」
「一言多いんじゃい!」
竜のぼやきにみんなが笑った。
(たまにはこんな年の越し方も悪かねぇな…)
ジョーは仲間達の笑顔を見ながら、そんな風に思っていた。


※何だかちょっとだけジョーファンへのサービスシーンが…(恥)
まあ、年の瀬の更新と言う事で……。
恥ずかしくって此処までが精一杯な私…σ(^_^;
この程度で恥ずかしがるなんて、修行が足りません???




ぺたる様より戴きましたイメージイラストです。
ぺたるさん、どうも有難うございました。
ぺたるさんのブログ『イメージ画あれこれ』はこちらからどうぞ。





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