『続・鬼の霍乱』

『ジョー、至急私の所まで来てくれるか?』
南部に呼ばれた時、ジョーはサーキットを降りたばかりだった。
「解りました。基地の方ですか?」
『いや、別荘だ』
「すぐに向かいます」
『任務ではない。急がなくてもいいが…、いや、やはり急いでくれ』
南部の言葉は歯切れが良くない。
それが気に掛かった。
ジョーは急ぎ、G−2号機を飛ばした。
南部の別荘に着くと、呼ばれたのは自分だけだと解った。
本当に任務ではないのだ。
「博士!」
ジョーは司令室に入るなり、南部を見つけて呼び掛けた。
「ジョー、早かったな」
「一体何があったんですか?」
「健の事だ……。君と同様、自然気胸になった」
「あいつ、碌な物を喰ってねぇから…」
「そう言う訳で、暫くの間療養させるから、君に科学忍者隊を引っ張って貰わねばならない。
 G−1号機はG−5号機に常に格納しておく事にする。
 後で竜を基地に呼んで作業はしておく予定だ。
 幸いG−1号機は三日月基地にある」
「健はISO付属病院ですか?」
「いや、此処で休ませている」
「逢えますか?」
「君を見ると、任務の事を気にするに違いない。
 暫くは控えて貰いたい」
「ラジャー」
「君の時ほど重篤ではないので、回復も早いだろう」
「俺って、そんなに重篤だったんですか?」
「君は健よりも更に痩せ体質だ。
 再発しないように注意しなければならない」
「でも、何に注意したらいいか、解りませんよ。
 若くて背が高く痩せ型の人間に発症率が高いと言われても……。
 今更太れ、と言われても困りますしね。
 動きにキレが無くなります」
「それもそうだな。とにかく変だと思ったら、すぐに私を呼ぶ事だ」
「解りました。この事、ジュン達には?」
「まだ知らせておらん。
 君から話しておいてくれたまえ」
「リーダー代行は気が引けますが、何事もない事を祈りますよ。
 そして、健の早期回復も」
「ジョー、頼むぞ」
南部がジョーの肩に手を置いた。

「そう、それで健が来ない理由が解ったわ」
ジョーは帰りに『スナック・ジュン』に寄っていた。
他の3人は揃っていた。
「そんな訳で、リーダーの代わりに科学忍者隊を引っ張れ、と言われた。
 やれるだけの事はやるつもりだが、俺には健のような器がある訳じゃねぇ」
「その事が解ってりゃあ、大丈夫だぞい」
竜が大声で言った。
「言うわね〜、竜。ジョー、気にする事はなくってよ。
 私達はジョーの指示に従うだけよ。
 貴方はサブリーダーなんだから。
 もし間違った方向に私達を導こうとしたら、疑問をぶつけるから大丈夫よ」
ジュンがエスプレッソのカップをジョーに向かって差し出しながら言った。
「いつも自信ありげなジョーの兄貴が珍しいね…」
甚平はサンドウィッチを作りながら話し掛けた。
「甚平。いつも言っているでしょ。
 料理をしながら喋らないの!」
ジュンのキツイ言葉が飛んだ。
「ごめんごめん…」
甚平が益々小さくなった。
「とにかく、この時期にジョーまで倒れないように気をつけてね。
 リーダーとサブリーダーがいなくなってしまっては、私達は身動きが取れないわ」
「そうだよ、ジョー。おら達路頭に迷ってしまうぞい。
 お前も自然気胸の再発の恐れあり、って言われてるじゃろ?」
「ああ。だが、どうにも注意のしようがねぇだろ?」

健の療養中に2度の出動があった。
G−1号機が格納されているので、ゴッドフェニックスはその機能をフルに使う事が出来た。
ジョーは南部博士と連携しながら、現場の指揮を執った。
決して健に劣る事なく、その指揮を遣り遂げたのだ。
だが、さすがに任務が終わると疲れ果てた。
「健はこんなに疲れる事を、疲れを微塵にも見せずにやっていたのか、と思うと、改めて感心するぜ」
ジョーは思わず呟くのだった。
やはり自分はリーダーの器ではないのだ。
復讐に燃え、その為だけに生きている彼には、科学忍者隊を率いるのには向いていない、と自身が改めてその事を実感した。
自由でいられるサブリーダーが自分の職分としては丁度良い椅子だった。
「健、悔しいが、おめぇって奴は大きい奴だぜ」
ジョーは夜半戻ったトレーラーハウスのベッドに横たわりそう呟いた。
ジュン達はジョーが健と比べて遜色ない働きをしたと思っているらしいが、彼自身は違った。
(やはり俺は違う!
 早い処、健に回復して貰って、リーダー代行は返上してぇもんだ)
肉弾戦の指揮ならば何とでもなったが、戦略を練る力は健の方が明らかに上だと言う事を改めて思い知らされた。
ジョーはアイディアが豊富だったが、健は意表を突くような事を命令する。
2人の性格の違い、能力の違いはそこにある。
ジョーはやはり自分は健の『影』でいい、と思った。
脇からサポートする役割が一番自分に適している。
身体能力は同等だったが、それぞれに適した仕事は別なのだ。

翌日、ジョーは南部を別荘に迎えに行き、ISOへと送る用事があった。
その時に昨夜思った事を正直に話した。
「ジョー、それを思う事が出来るのは君がサブリーダーとして成長した証拠だよ」
南部が微笑んだ。
「健が寝込むのもたまにはいいものだな」
「な…何を?!」
「健が父親を亡くして荒れた時も、ジョーはそうして自然と成長した。
 今回も君には成長の跡が見られる」
「俺は別に思った事を言ったまでです」
「そうだ。もう健に逢っても構わんよ。
 明日から自主訓練に入る事が出来る。
 付き合ってくれ、と頼まれるかもしれんな。
 君とは実力が伯仲しているからね」
南部が愉快そうに笑った。
「そりゃあ、願ってもない事です。
 いくらでも相手してやりますよ」
ジョーも破顔した。
正直な処、ホッとした。
「私は今夜はISOに泊まり込む予定なので、任務がない限りは自由にして貰っていい。
 但し、今日の処は健を訓練室に行かせたりしないようにな」
「……解りました」
健が居ない間の任務は滞りなく終わったが、何となく皆に覇気がないのをジョーは敏感に感じ取っていた。
健はその存在感だけで、科学忍者隊を率いているのだ。
自分には及ばない部分だ。
(俺はサポート役でいい。
 それが自分の本分だと言う事ぐれぇ解っているさ)
ジョーはステアリングを握り締めた。
そして、帰りに差し入れでも持って別荘に寄ってやろうと思った。


※『鬼の霍乱』は057に収録しています。




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